女社長との打ち合わせ


 俺は今、ジュエリー会社の女社長・レヴィさんと打ち合わせをしていた。


 長い金髪に魅惑的な瞳。

 年齢は俺より少し上くらいだろうか。


 社長としてはまだ若いが、それでもその手腕は多くの経営者から評価されているそうだ。


 レヴィ社長は時々、何かを誘うような視線を向けてくる。

 その度にこちらは緊張するのだが、どうも彼女はそんな俺を見て楽しんでいる節があった。


「それでは十二月一日から開催するクリスマスイベントは、この内容でいいでしょうか?」

「ええ。噂通り素晴らしい仕事ね」


 レヴィ社長は脚を組みなおして話を続ける。


「今日の夜、お時間は空いている? よろしければ食事に誘いたいのだけど」

「今日……ですか? すみません。早く帰らないと同居している彼女がさびしがりますので」

「あら、? 残念ね」


 意外そうな顔をするレヴィ社長。

 俺には彼女がいないと思っていたのだろう。


 無理もない。

 楓坂と付き合っていることは、結衣花と音水、そして楓坂家の一部の人にしか伝えていないからだ。


 するとレヴィ社長は小声で言う。


「もし彼女さんだけで足りなくなったら、いつでも声をかけてね」

「え? いや……、それは……」

「ふふふ」


 もちろん冗談なのだろうが、とんでもないことを言う人だ。


 仕事の打ち合わせ中もずっとこの調子なので、ずっとペースを握られている。

 もしかして打ち合わせの主導権を握るためのトーク術かなにかか?


 ……と、その時だった。


「レヴィ社長! 仕事中に変なことを言っちゃダメですよ!!」


 声を上げたのは、音水。

 俺の後輩だ。


 ずっと俺の横にいたのだが、ついにこらえきれなくなってしまったらしい。

 レヴィ社長が色目を使うたびに震えていたからな。


 注意されたレヴィ社長は、金髪の髪を指でくるくるといじる。


「あら、ごめんなさい。なんだったら音水さんも一緒に楽しむ?」

「一緒に!? それって……つまり!? さ……三……って、私は何を考えているの! と……とにかく、ダメなんです!」

「ふふっ。わかったわ。あなたも可愛いわね」

「……ッ!?」


 さすが社長というだけのことはあって、こういったやり取りは強い。

 俺だけでなく音水まで、あっという間に沈黙してしまった。


 勝ち目がないと悟った音水は「むぅ~」と唸る。

 そして、不満の矛先を俺に向けた。


「笹宮さん!」

「はい……」

「笹宮さんもお誘いを断るためとはいえ、彼女がいるなんて言っちゃダメですよ」

「いや、前にも言ったけど俺は……」

「あー、あー。聞こえませーん。キスもしていないのに付き合ってるなんていいませーん」

「なんで進展していないことを知ってるんだ?」

「そんなの見たらすぐにわかりますよ」


 え? わかるの?

 マジで?

 音水って、俺の事をよく見ているよな。


 するとレヴィ社長が再び話に入ってくる。


「あら? 彼女さんとはキスもしてないの? じゃあ、私が頂いちゃおうかしら」

「レヴィ社長!?」

「冗談よ。半分だけね」

「――ッ!?」


 やれやれ……。

 この調子だと、もう仕事の話はできそうにない。

 打ち合わせはそろそろ切り上げた方が良さそうだ。


 その時だった。


 ドアを開いて入ってきた秘書の女性が、レヴィ社長に小声で話しかける。

 なにか焦っているようにみえるが……。


「レヴィ社長。……その、……砂川すながわ成重なりしげ様がご訪問されました」


 砂川すながわ成重なりしげ……。

 財閥の御曹司で、楓坂の婚約者。

 顔はいいが性格が悪いということで、かなり嫌われている人物だ。


 レヴィ社長は眉をひそめる。


「あの勘違いお坊ちゃんが……? 今は来客中だから後にしてちょうだい」

「それが……その……」


 秘書の女性が話を続けようとした瞬間、再びドアが開く。


 今度は無駄にブランド物を見にまとった砂川成重が入ってきた。

 イケメンではあるが服装が悪趣味すぎる。

 ホストの方が、まだ上品だ。


 成重はズカズカの部屋に入ってきて、俺達のすぐ近くで仁王立ちする。


「へい! レヴィ、来てやったぜ」

「成重様……」

「この会社に来るのも久しぶりだが、相変わらず狭っ苦しいな」


 一波乱ありそうな雰囲気だ……。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、調子に乗る成重に音水が!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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