御曹司と対決


 パーティーは進み、参加者全員が各々に話をしていた時だった。


 俺と楓坂の元へ、イケメンの御曹司・砂川成重がやってくる。


「これはこれは、そこにいるのは楓坂舞ちゃんじゃないか」


 さっきまで楽しそうに微笑んでいた楓坂の表情が、一瞬で曇る。


「……おひさしぶりです」

「タメで話してくれよ。なんたって、オレ達は婚約しているんだからさ」


 楓坂に近づいた砂川は、いやらしい笑みを浮かべる。


「君さぁ、以前会った時、オレに偉そうな態度を取ってたよねぇ~。どう? むりやり婚約させられた気分は?」

「あれは……、あなたが女性の迷惑も考えずにナンパをしていたから……」

「うるせぇよ。もうお前はオレに逆らえないんだ。財閥の御曹司を舐めんなよ」


 性格が悪いと聞いてはいたが、まさかこれほどとは……。

 この、砂川という男。想像を超えるゲス野郎だ。


 いくら政略結婚とはいえ、相手がまともな人間なら楓坂もここまでは嫌がらなかっただろう。


 砂川は楓坂から離れ、今度は俺を見る。


「で、そこの君は?」

「私は……」

「あー。いや、いい。どうせ、舞ちゃんにくっついてきた雑魚だろ」


 そっちから聞いて来て、勝手に話を中断するなよ。


 砂川は俺のすぐ近くまでやってきて、俺を睨みつける。


「いちおう言っておくぜ。ここは選ばれたエリートだけがくる場所だ。お前みたいな下級な人間が来ていい場所じゃない」


 俺が特別な人間でないことは自覚しているつもりだ。

 だが、ここまで見下されると気分は良くない。

 かといって、ここで逆上していい結果は生まれないだろう。

 ここは我慢するしかない。


 その時だった。

 長髪でスマートな物腰の中年男性が、俺に声を掛けてきた。


「おや? そこにいるのは、笹宮君じゃないか」

「……旺飼さん?」


 声を掛けてきたのは旺飼さんと言って、大手ソフトウェア会社の専務を務める人だ。

 俺は以前、旺飼さんから仕事を受けたことがある。


「まさか笹宮君もこのパーティーに出席していたとは。来ているなら声を掛けてくれればよかったのに」


 すると、すぐ傍にいた金髪の女性が、旺飼さんに訊ねる。


「旺飼さん、そちらの方は?」

「ああ。彼は笹宮和人。イベント会社で働いている会社員なんだが、大型案件の受注にトラブル解消と様々な活躍を見せている。無名の救世主と呼ばれて、大手企業からも一目置かれているんだよ」

「きゅ……救世主ですって!?」


 ……は?

 いや、いやいやいや。


 無名の救世主?

 そんな話、聞いたことないぞ?


 確かに大型案件を受注したり、トラブル解消で評価は得ているが、そこまで言われるほどのことじゃない。


 さらに楓坂が横から口を出してきた。 


「今日、笹宮さんは幻十郎会長に招待されて、このパーティーに参加しているんですのよ」

「まぁ! あの他人を寄せ付けないことで有名な幻十郎会長に!?」


 楓坂の一言を聞いて、金髪の女性が再び驚きの声を上げた。


「わたくし、ジュエリー会社社長をしています。これを機に、ぜひお近づきに……」


 金髪の女社長に続いて、近くにいた人達も続々と俺の元へやってくる。

 一瞬で俺は多くの人達に囲まれてしまった。


「すまない。僕とも名刺を交換をしてくれ」「今度、一緒に食事をする機会をくれないか?」「私ともぜひ……」


 おいおい、待ってくれよ。

 本当にそんな大層なことはしていないんだって……。


「あ、ありがとうございます。ですが、私はただの会社員で……」


 この一言がまずかった。

 その場にいた人達はさらに大盛り上がりして、中には拍手する者さえ現れる。


「素晴らしい! このパーティーに参加するだけでも大きなステータスとなるというのに、謙虚さを全く失っていない!」

「ああ! ぜひ、彼と一緒に仕事をさせて欲しいものだ!」


 絶賛に次ぐ絶賛の嵐。

 もう、俺自身がついて行けない。めまいがしそうだ。


 この状況に激昂したのは御曹司の砂川だった。


「お……おい! オレを無視するな!! オレは財閥の御曹司なんだぞ! その下級市民よりオレの方が偉いんだ!!」


 すると近くで誰かが「裸の王子様のクセに……」と、ボソッと呟く。


「なっ!? 誰だ! 今、オレの悪口を言ったやつは誰だ!! ち、ちくしょう!!」


 裸の王子様という言葉が恥ずかしかったのか、砂川は逃げるように去って行く。


 嫌悪感の原因がなくなり、楓坂はようやく本来のほほえみを取り戻した。


「ふふふ……。今日は嫌な想いをする覚悟できましたけど、笹宮さんのおかげでスッキリしました」

「俺はなにもやっていないんだが……」

「いいえ。こういう場所では、存在感を示した人が勝ちなんです。今日の勝者は笹宮さんですよ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、自宅に帰ってから何が?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る