セレブパーティーへ


 夜になり、俺と楓坂はセレブが集まるパーティー会場にやってきた。


 幻十郎さんに用意してもらったパーティ用のスーツを着用しているが、俺は場違い感に戸惑っていた。


「はぁ……。本当に金持ちって言うのは、こんなパーティーを開いたりするんだな」


 テーブルの上には様々な料理が並んでいる。

 どれも今まで見たことがないくらい綺麗な品だ。


 だが、住む世界が違いすぎるせいで、並んでいる料理に気を回す余裕もない。


 すると、紺色のドレスを着た楓坂がやってくる。

 彼女は周囲の目線を気にすることなく、シャンパンと料理を楽しんでいた。


「お料理を食べないんですか?」

「緊張して、それどころじゃないよ」

「ふふふ。さすがの笹宮さんも、こんな場所だと緊張するみたいね」


 ったく、気軽に言ってくれるぜ。


「誰だって緊張するだろ。そういう楓坂は、慣れているみたいだな」

「子供の頃から、何度かパーティーに参加していますから」


 改めて見ると、ドレスを着た楓坂は本当にキレイだ。


 元々美人ということもあったが、普段は意図的に派手さを抑えたカジュアルコーデ。

 こういった女性らしい衣装というのは、めずらしい。


「あー。その……なんだ……。そのドレス、似合ってるよ」

「ありがとうございます」


 嬉しそうに微笑む楓坂は、話を続ける。


「笹宮さんって、意外と他人が着る服装をチェックされてますよね。ファッションに興味があるの?」

「広告の仕事をするから、自然と注意してみてしまうんだ」


 俺自身はそこまでファッションにこだわりがある方ではないが、やはりニーズを掴んでおかないと仕事に影響がでる。


 そこでこうして普段のチェックは欠かさずやっていた。


 ……と、ここで楓坂は気になることを言い出した。


「ふぅん。じゃあ、コスプレとかも?」

「なんで急にコスプレの話なんか……」

「だって、もうすぐハロウィンでしょ? コスプレを期待されているのかなと思って」


 そういえば、結衣花を呼んでパーティーを開くとか言ってたっけ。

 こんな堅っ苦しいパーティーより、自宅で気軽にやる方が数百倍楽しいだろう。


 それに楓坂と結衣花のコスプレか……。


 ハロウィンだから、カボチャ?

 それともエロい衣装を?


 まぁ、そこは当日までの楽しみに取っておこう。 


「まっ、期待しているよ」

「うふふ。期待されちゃいました」


 その時だった。

 パーティー会場に来ている人達が、一斉に拍手をする。


 続けて進行役の男性の案内で、一人の若い男性が檀上に上がった。


 その姿を見て、楓坂がささやく。


「あれが私の婚約者の砂川すながわ成重なりしげです」

「……へぇ。けっこうイケメンだな」

「外面だけよ。性格は悪いって、もっぱらの噂ね」


 見た目だけならイケメン俳優のようだ。

 だが、確かに話している内容は自慢話と他人の悪口ばかり。


 本人はジョークのつもりで話しているのだろうが、周囲の反応はあまりよくなかった。


 それでもパーティー参加者全員が瞳をキラキラさせている演技をしているのは、砂川成重が財閥の御曹司だからだろう。


「ねぇ、笹宮さん」


 他人に聞こえないほど、小さな声で楓坂が訪ねてくる。


「皆に隠れて、手を繋ぎません?」

「御曹司が前で喋ってるんだぞ。さすがにまだ俺達の関係がバレるのはヤバい」

「だから、こっそりするんですよ」


 こんな時になんてことを……。

 だが、同時に俺は面白いとも思った。


 断言するが、楓坂は俺のカノジョだ。

 金と権力で無理やり婚約を要求してきた砂川なんて、入る隙なんて無い。


 俺は自分の存在を主張したいという気持ちもあり、こっそり楓坂の手を握る。


 すると楓坂は嬉しそうに微笑んだ。


「初めての体験ですけど、こういう背徳感って興奮しますね」

「変なことに目覚めないでくれよ」


 楓坂が握り返してくる。


「笹宮さんも嬉しいクセに」

「俺はノーマルだ」

「その割に、さっきから指で私の手をくすぐって楽しんでいるようですけど?」


 そのことを指摘され、つい俺も小さく笑ってしまう。


「こういう場で、好きな女の手を繋いでるんだ。はしゃぎたくなるだろ」

「もうっ、ばかっ♡」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、御曹司と対決!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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