幻十郎の屋敷
俺と楓坂は車に乗って、幻十郎さんが住む屋敷へ向かった。
「笹宮さん。ここが楓坂家の本家よ」
「すっげぇな」
「くれぐれもお爺様の機嫌を損ねないように話を進めてくださいね」
「わかってるよ。任せろ」
屋敷に入った俺達は、奥にある応接間に案内された。
ふすまを開けて、中に入る。
畳が敷き詰められた和室の中央には、痩せたご老人がいた。
「来たか、笹宮。ワシが幻十郎だ」
「笹宮和人です。よろしくお願いします」
うやうやしく頭を下げる。
同時に俺は冷や汗をかいていた。
背も小さく痩せた老人ではあるが、威圧的な声と全身から発するオーラが、一般人とは別次元だったからだ。
幻十郎さんは茶をすすりながら、俺の方を見た。
「ストーカーの護衛役、助かった。今度、お前が勤める会社にデカい仕事を回してやる。それで出世でもなんでもせい」
俺に対して感謝はしてくれているようだ。
だが、幻十郎さんに今日来た目的をまだ話していない。
相手は世界で活躍するゴルド社の会長……。
中途半端なやり取りはマイナスか。
だったら、単刀直入に行くのがベストだな。
「幻十郎さん。楓坂……舞さんと、このまま同居生活を続けさせてください」
俺の言葉に、幻十郎さんは動きを止める。
「どうして、そんなことを?」
「俺は……、いえ。私は舞さんと……お付き合いをしています」
すると幻十郎さんは怒涛の如く怒りだした。
「貴様! あれほど言ったのに、舞にちょっかいを出しおったな!! お前の役目はあくまで護衛じゃ!」
「ですが、俺達はお互いに必要とし合っています」
さらにヒートアップする幻十郎さんは立ち上がり、俺の胸ぐらを掴み上げる。
「何をした!! さては寝取ったな! 朝チュンしたな!! 許せん、許せんぞ!!」
「まっ、待ってください! 付き合ってはいますが、そこまでは……」
幻十郎さんは、さらに顔を近づけて叫んだ。
「ということは乳を揉んだのか!! チューをしたのか!! くっそぉぉぉぉ!! こんなに可愛い舞と一緒にいて、何もない方がおかしいと思っていたんじゃ!!!」
怖い……。マジで怖い。
はやく、事実を言わないと……。
「いえ……、本当になにもやっていないんです」
「信じられるか!! 大人の男女が付き合って、ひとつ屋根の下でいて何もないはずがなかろう!!」
「手は……繋ぎました……」
「……は?」
急に幻十郎さんは、あっけにとられた表情をして、胸ぐらから手を離した。
「いや……、ちょっと待たんかい。今どき中学生でも、もうちょっとマシじゃぞ?」
「は……はぁ……。そうですよね……」
しばらく間を置いた後、幻十郎さんは豪快に笑い出した。
「がっはっはっは!! まさか、ここまでバカな男とは思わなかったわ!!」
落ち着きを取り戻した幻十郎さんは自分の席に戻る。
そしてアゴをいじりながら、興味深そうに俺の顔を眺めていた。
まるで値踏みをされているような気分だ。
「気に入ったぞ、笹宮。なるほど……。舞が頼っただけのことはある」
「恐縮です……」
すると幻十郎さんは声に凄みをもたせて、話しを続けた。
「知っているかもしれんが、舞は財閥の御曹司と婚約をしている。その婚約をなかったことにしないと、お前達が結ばれることはない」
「はい……」
「財閥とワシの会社の関係を悪化させずに、婚約解消を実現できるか?」
「必ず、私がなんとかしてみせます」
俺がそう言うと、再び幻十郎さんは大笑いをする。
「大企業の会長を務めるワシにむかって『なんとかします』とは!! 本当に面白い男だ! いいじゃろう! どうするかは任せる。やれるだけのことはやってみせい!!」
「ありがとうございます」
こうして俺達は幻十郎さんに認められ、婚約解消に向けて動く許可を得た。
もちろん前途多難ではあるが、まずは一歩前進だ。
すると隣にいた楓坂が、俺の腕を掴む。
「あなたって本当にメチャクチャなのにすごいわね。お爺様を説得するだけじゃなく、完全に味方につけてしまうなんて……」
「ゴリ押しだったけどな」
「いいえ。ただのゴリ押しならお爺様ははねのけるわ。あなたには人を動かす力があるのよ」
「褒めすぎだ……」
「ううん。とってもカッコいい……」
そして幻十郎さんは言う。
「……言っておくが、ワシの前でいちゃつきおったら、本気で怒るぞ」
「「す、すみません……」」
■――あとがき――■
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次回、通勤電車で作戦タイム!
投稿は【朝7時15分頃】
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