三角関係
動画配信で結婚することを発表し、真犯人をおびき寄せる。
その計画を立てたまでは良かったが、よくよく考えたら楓坂になんて伝えればいいのかわからない。
ひとつひとつ事情を説明したとしても、さすがに結婚という言葉を使えば楓坂はドン引きするだろう。
まぁ、直接会って相談するところから始めるしかないか。
「さて。帰るとするか」
仕事を終えた俺は後片付けをして、会社を出た。
駅に向かって歩いていると、元気な後輩の声が後ろから聞こえる。
「笹宮さーん!」
二十二歳の後輩、音水だ。
今日も元気だなぁ。
「音水も帰りか?」
「はい! 一緒に帰ろうと思いまして」
俺の隣に立つと、彼女はコロコロとした可愛い笑顔を作る。
きっと他の男なら、この瞬間に落ちてしまっていただろう。
「それにしても、今日は一段と機嫌がいいな?」
「実はですね、新規のクライアントから仕事を受注したんです」
「へぇ、やるじゃないか」
「でへへ~っ」
裏表のない表情で、素直に喜ぶ音水。
この気楽さがあるから、俺みたいな無愛想男でも普通に話をすることができるのだろう。
……と、ここで音水は俺の前に回り込み、何かを期待するような上目遣いをしてみせた。
「ん? どうした?」
「後輩がこうして成果を出した時に先輩がやることって決まってるじゃないですか」
「なんだ?」
「頭なでなでですよ」
普通の会社で後輩に頭なでなでする場面なんてないと思うんだけど。
とはいえ、成果を出したことは本当だし、ここで褒めることは先輩として正しい行動だ。
「しょうがないなぁ」
俺は優しく音水の頭をなでてやる。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「んっふふ~♪ 私、ご満悦です」
「そりゃあ、なによりだ」
こんな程度で機嫌がよくなってくれるのなら、いくらでもやってやるさ。
とはいえ、さすがにこの場面を楓坂に見られたら大変なことになってしまうけどな。
その時、少し離れた場所から楓坂の声が聞こえた。
「……笹宮さん?」
ここに楓坂がいるはずがない。
そう思い込んでいたため、そこに楓坂がいることをすぐに受け入れることができなかった。
だが、彼女は光のない瞳で静かに訊ねてくる。
「……え? 今の……なに?」
「いや……、今のは……深い意味はなく……」
言い訳を使用とした時、音水が俺の腕を『ぎゅっ!』っと抱きしめた。
一瞬にしてその場にいる全員が無言になる。
「音水……」
「はい、なんでしょうか?」
「なんで腕に抱きついているんだ?」
「とりあえず『ぎゅっ』ってやっておけば、いいのかなと……」
「とりあえずで俺を窮地に追い込むの、やめてくんない?」
「不覚でした。でも離したくありません」
音水は持ち前の大きな胸を押し付けるように、腕に力を入れた。
きっとこんな場面じゃなければ素晴らしい状況なのだろうが、今は冷や汗しか流れてこない。
おそるおそる、楓坂に言い訳を言う。
「わかっていると思うけど、違うからな。これは誤解だぞ」
「はい、もちろん理解していますよ。ですけど……」
そこまで言うと、今度は楓坂が俺の腕に『むぎゅ!』っと抱きついてきた。
「笹宮さんは私のモノだもん……」
少女のように言う楓坂。
その言葉を聞いた音水は、ぷくーっと頬を膨らませて言う。
「私は笹宮さんのモノでいいですよ?」
「なに言ってんだ、音水」
さらに楓坂は噛み噛みで話に割って入ってくる。
「わ、わ、わ、わわわわ私も、笹宮さんのモノになります!」
「お、おい。楓坂」
「いつでも、どんな時でも、私は笹宮さんのモノだから、渡しません!」
もう収拾がつかない……。
どうするんだ、これ……。
■――あとがき――■
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次回、ファミレスで修羅場!?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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