通勤電車で作戦を
月曜日。
楓坂とのドライブデートを終えた翌日、俺はいつもの通勤電車に乗っていた。
すると、女子高生が声を掛けてくる。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
いつも通りのやり取りから始まる日常。
だが、俺の心中は穏やかではなかった。
それは昨日の夜、楓坂の祖父・幻十郎さんと話をしたからだ。
ストーカーが捕まったという話だったが、事はそう単純なことではない。
結衣花が訊ねてくる。
「そういえば楓坂さんから聞いたけど、ストーカーの人が捕まったんだって?」
「ああ……。でもそいつは楓坂をホームに突き落とした犯人じゃない」
「えっ? どういうこと?」
幻十郎さんからの電話内容は、まさにこの事だった。
確かに楓坂のストーカーは捕まった。
俺達がやっていたカップルYouTuberの動画を見て焦った犯人は、楓坂が以前住んでいた屋敷に侵入しようとしたらしい。
当然の如く逮捕されてしまったのだが、供述によればストーカーはホームから突き落としたりしていないと言ってるそうだ。
幻十郎さんはそのことを心配して、今まで以上の警戒をして欲しいと頼んできた。
ありがたいことに、俺の指示で動けるSPまで用意してくれるという。
そのことを説明すると、結衣花は疑問を問いかけてきた。
「でも警察は、その人が犯人って言ってるんでしょ?」
「ああ。幻十郎さんもおかしいと警察に言ったそうだが取り合ってくれないらしい」
俺は言う。
「それで、俺の手で真犯人を捕まえようと思う」
「お兄さんが!?」
「まぁ、そうするしかないだろ」
今までは警察がストーカーを捕まえてくれるはずだから、俺は楓坂の身を守ればいいと思っていた。
だがこれからは、こちらが動いて犯人を捕まえる必要がある。
「楓坂は俺にとって大切な存在だ。守るのは当然だろ」
俺の言葉を聞いた結衣花は、感心したように微笑んだ。
「……やっぱりお兄さんはすごいね。いざとなったらすごく頼もしい」
「なんだよ。急におだてて……」
「あ、照れてる?」
「照れていない。結衣花がいつもと違うことを言い出したから戸惑っているんだ」
「まぁ普段はこんなんじゃないもんね」
急に褒められたら恥ずかしいじゃないか。
照れ隠しに、軽く冗談を言っておくか。
「普段から俺は頼りになるだろ?」
「普段は頼りないでしょ?」
「部分的には認めるが……」
「全面的に認めるべきだと思うけどね」
軽く冗談を言ったら、倍返しされちゃったぜ。
すると結衣花は腕を組んで、考えるポーズをする。
「そうなると、やっぱり一番怪しいのは
「だが、その人が犯人という証拠はないんだろ?」
「うん……」
柿倉とは一年前まで美術部の顧問だった先生で、楓坂に怨みを持っている男だ。
楓坂がホームから突き落とされた時、カーキ色の帽子を被った怪しい男を見かけているのだが、それも柿倉ということがわかっている。
だが、今のところ柿倉が真犯人という確証はどこにもなかった。
しかし、俺には秘策がある。
「そういうわけで、明日上げる動画で『俺と楓坂が結婚する』と発表して、真犯人を刺激しようと思う」
「わぉ。ストーカーが見たら発狂ものだね」
「だろ? そして俺が一人で行動する日時をほのめかせて、おびき寄せるってわけだ」
真犯人が配信動画を見ているかどうかはわからないが、今俺にできることと言えばこのくらいだ。
やってみる価値はあるだろう。
……と、隣に立っている結衣花が心配そうに俺の腕を掴んだ。
「……でもそれって、お兄さんがおとり役になるってことじゃないの?」
「大丈夫さ」
そう、大丈夫だ。
俺は今、楓坂と付き合っている。
できることなら、これからもずっと一緒にいたい。
この程度の障害、乗り越えられないでどうする。
「まったく。お兄さんのクセにかっこよく決めちゃってさ」
「普段からそうだろ?」
「普段はカッコ悪いでしょ?」
「部分的には認めるが……」
「全面的に認めるべきだと思うけどね」
■――あとがき――■
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次回、プロポーズ作戦の前に、音水とハプニング発生!?
投稿は【朝7時15分頃】
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