イタリアンのランチ
滝を見終わった後、俺と楓坂は近くにあったイタリアンの店に入った。
山の中にぽつんと存在するその店は、まるでコテージのような外観。
あまりにも自然と一体になってるため、入口に行くまでイタリアンと思わなかったくらいだ。
店内に入ると雰囲気は一変。
落ち着いた雰囲気のオシャレな内装は、とても心地いい。
ところが向かい合って座る楓坂は……。
「ぷくーっ」
「……」
さっき滝のすぐ近くで気持ちが盛り上がった俺達は、あと少しでキスというところだった。
だが子供が来たので、慌てて俺達は離れるという事態になってしまう。
楓坂としては、本当はキスがしたかったらしい。
せっかくの機会が奪われて、いじけているというわけだ。
「ばか」
「すまん……」
「ばかぁ」
「すまんって……」
ちなみに、楓坂のこの行動は本当に俺を責めているわけじゃない。
このあと甘える口実を作るためだということを俺は知っている。
なので、ここは頭を下げ続けるのがベストというわけだ。
「お詫びにここのランチは俺のおごりだ。なんでも頼んでくれ」
「しょうがないわね」
機嫌を直した楓坂はメニューをじっくりと選び出した。
その表情が二十歳の女性としては幼く見えたので、俺はうっかり微笑んでしまう。
「楓坂がメニューを選んでいる時の顔って可愛いよな」
「……っ! もうっ」
褒めてやると顔が真っ赤になる楓坂。
うんうん、この反応がいいんだよな。
……あれ? 付き合い出してからの俺って、なんだSっぽくなってないか?
楓坂のことをいじりたくて仕方がないんだよな。
んー。気のせいだよな。
だって、俺は楓坂の反応が好きだからいじっているだけなんだから。
つまり無実というわけだ。
だが、やっぱり可愛い。
俺はしずかに楓坂の手を指で触れた。
すると彼女は俺の方を見て、恥ずかしそうにする。
だが抵抗せず、逃げようとしない。
そして、楓坂も指で俺の手に触れた瞬間――、
「……お客様。……ご注文を聞いてもよろしいでしょうか?」
「「……は、……はい」」
いつの間にか傍にいた女性の店員さんが、遠慮がちに聞いてきた。
やっべぇ。さっきまでのやり取り、全部見られてたのかな。
こうして俺達はパスタとサラダ、そしてチョコケーキを注文した。
パスタって店によって個性が出るのだが、この店の品はとても美味かった。
素朴でありながら深い旨みがいい。
続いて、チョコケーキを食べる。
「……おぉ。これも美味いな」
普段ケーキ屋で食べるチョコケーキと違う食感。
イタリアのスイーツだろうか。
すると俺の反応を見ていた楓坂は小さく笑った。
「そうやってケーキを食べる笹宮さんって、かわいっ」
「……さっきの仕返しのつもりか?」
「素直な感想ですよ」
なんだよ。そういうところが、仕返しなんじゃないのか?
「そういえば笹宮さんって、そんなにスイーツを食べませんよね?」
「そうだな。嫌いというわけじゃないんだが、進んで食べるという事はしないな」
すると楓坂は、遠慮がちに訊ねてくる。
「もし……、もしですよ? 私がスイーツを作ったら、食べてくれますか?」
「そりゃあ食うけど、作れるのか?」
「これから練習をするんです」
「実験台は?」
「笹宮さん」
「マジかー」
「でも自分が作った料理で、好きな人を幸せにできると思ったら素敵だと思って」
どうせなら一発でうまいものを食べたいのだが……。
だが、ある意味それは、楓坂が俺好みになるという事かもしれない。
実験台といえば聞こえは悪いが、育てると言い換えることができるではないか。
うん。いいな、それ。
一人で納得している俺の前で、楓坂はフォークを皿の上に置いた。
「いつも優しくて、暖かくて、何かあったらそばにいてくれる。あなたを好きになれて私は幸せよ」
「なんだよ、急に……。恥ずかしいだろ」
突然の言葉に驚いたが、きっと楓坂の本音なのだろう。
照れてしまうが、率直に言って嬉しい。
その時、俺のスマホにメールが届いた。
「ん? 誰からだ?」
メールを開いてみると、その送り主は……、楓坂の祖父・幻十郎さんだった。
内容は『舞をストーカーしていた男が捕まった』と書かれている。
捕まった?
じゃあ、もう楓坂が身の危険を心配する必要はないという事か。
だが、メールには続きが書かれていた。
『そこで折り入って頼みたいことがある。少し電話をさせてくれないか』
頼み? なんだろう?
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、幻十郎の頼み。
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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