滝のすぐそばでイチャイチャする?


 駐車場から少し歩き、山の中に入る。

 すると見事な滝が姿を現した。


 それを見た楓坂は無邪気に笑う。


「わぁ、滝ですよ! 気持ちいいですね」

「ああ」


 マイナスイオン効果なのかどうかは知らないが、滝の周囲は爽やかな空気で満たされていた。


 本当に気持ちいな。


「すごい。動画で見るのとは全然違いますね」

「もしかして滝を見るのは初めてか?」

「はい。こうしてどこかに出かける事ってほとんどありませんから」


 楓坂はインドア派だからな。

 運動を積極的にするタイプでもないし、結衣花以外の人とは付き合いも少ないらしい。


 楓坂は滝から流れる小川に手を伸ばして、パシャパシャと遊び始める。


「うふふっ。見て、笹宮さん」

「はしゃぎすぎるなよ」

「わかってますよ」


 小川で水と戯れることはそこまで特別なことではないと思うが、お嬢様育ちの楓坂には新鮮なんだろう。

 まるで子供のように楽しんでいる。


 その時、なにかの拍子で転がった小石が水をはじいた。


「きゃっ!」


 ほんの少しではあるが、楓坂の服が川の水で濡れる。


「大丈夫か?」

「うぅ~。濡れちゃいました……」

「だから言っただろ。拭いてやるから、こっち来いよ」


 ポケットから取り出したハンカチで、濡れている部分を拭いてあげた。

 すると楓坂は「ふふっ」っと、ほがらかに笑う。


「なに嬉しそうにしてるんだよ」

「だって、こうして拭いてもらうのって、ムズムズするんですもの」

「そういうものなのか?」

「はい」


 今日の楓坂はいつもよりも子供っぽく見える。

 お嬢様というイメージが強いこともあって、こんな彼女の一面はとても可愛い。


「まだ少し湿ってるな」

「このくらいならすぐに乾くと思いますけど、早く乾かす方法があるわよ」

「なんだ?」

「こうするの」


 そう言うと、楓坂は俺に抱きついてきた。

 すでに水はほとんど拭いているので俺の服が濡れることはないが、それにしても予想外の行動だ。


「お、おい……。急にどうしたんだ」

「これなら体温で早く服が乾くでしょ? それに、少しでも笹宮さんと抱き合っていたいんだもん」

「でも人が……」

「今ならいませんよ」


 周囲を見回すと、確かに人はいない。

 今だけなら大丈夫か。


 ……と、ここで楓坂は体を押し付けるように、抱きしめる力にリズムをつけ始めた。


「えいっ、えいっ」

「俺の体で遊ばないでくれよ」

「あなたのものは私のものでしょ?」


 おいおい。どこのジャ〇アン様だよ。

 とはいえ、主導権を握られるのは好きじゃない。

 よーし。


「じゃあ、楓坂の体は俺のものだな」

「え?」


 俺は彼女の首すじを、指でこちょこちょとくすぐった。


「やんっ、もうっ」

「どうだ、参ったか」

「そこ、弱いの……。人に見られたら恥ずかしいでしょ」

「誰もいないって」


 そう。今は誰もいない。

 楓坂がさっき言った通りだ。


 悶える楓坂を見ていると、さらにイタズラをしたくなる。

 今度は耳たぶをくすぐってやる。

 するとさらに楓坂は恥ずかしそうな顔でもじもじとした。


 ……やば。……すっげぇ可愛い。


 楓坂は甘い瞳で俺を見つめてきた。  


「笹宮さん……。もっとくっつきたい……」

「楓坂……」


 瑞々しい唇が目に入った。

 彼女は腕に力を込め、さらに俺に近づく。


 まるで魔法にかかったように、俺も彼女を抱きしめる手に力が入る。


 そして唇が近づこうとしした瞬間、子供の声が聞こえた。


「わーい! 滝だ、滝だー!」


 子供の声に気づいた俺達は、慌てて離れた。


 あっぶねぇ……。あと少しタイミングがずれていたら、他の人達にキスシーンを見られるところだった。


 どうも俺はムードに流されやすいところがあるみたいだ。

 注意しないと……。


「じゃ……じゃあ、服も乾いたし車に戻るか」

「そ……そうですね……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、ランチはイタリアン。デザートはあまあまで!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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