撮影でくっついちゃう?


 駐車場に車を停めて降りると、そこはほどよい自然に囲まれた場所だった。


「のどかですね」

「そうだな」


 地面はアスファルトで舗装され、少し歩けば飲食店もある。

 ここからハイキングコースに入れば、三十分もしないうちに滝に到着できるというわけだ。


 少し歩くと大きな川があった。

 橋を渡る直前、楓坂が俺の服を引っ張る。


「笹宮さん、ここでツーショット写真を撮りましょ」

「ここで? まだ駐車場から数分しか経ってないぞ?」

「いいから」


 確かに見晴らしはいいし、撮影スポットとしてはちょうどいい場所だ。

 よし、ここで撮影しよう。


 俺はスマホを取り出して、自撮りモードに切り替えた。

 本当は自撮り棒があれば便利なのだが、今日は持ってきていない。


 スマホを持った手を伸ばして位置を調整する……が、フレームに入りきらない。


「楓坂。もうちょっと近づいてくれ」

「こう?」


 半歩近づく楓坂。

 だが、それでも全然足りない。距離が離れすぎている。


 ぎこちない動きから察するに、たぶん恥ずかしいのだろう。

 しょうがないな。


 俺は楓坂に近づいて、腰に手を回す。

 そして体を密着させた。


「きゃっ!」

「ほら。これで二人とも撮影できるだろ?」

「そうですけど、いきなり腰に手を回すなんて……」

「嫌か?」

「嫌じゃないですけど……」

「嬉しい?」

「聞かないでよ……。嬉しいに決まってるでしょ。ばか……」


 最近、ツンデレ全開の楓坂を見るのが無性に楽しい。

 照れて震えている時なんて、可愛すぎるだろ。


 よし。この最高の瞬間を撮影しておこう。


 そう思った俺は『パシャ』とシャッターを切る。


「あっ! 不意打ちで撮影なんて!」

「楓坂がいい表情をしていたからな」

「ん~っ! もうっ、いじわる」


 ぷーっと頬を膨らませつつも嬉しそうな彼女を見て、さらに彼女が愛おしいと思えてくる。


「ははっ。わるい。じゃあ、もう一枚、ちゃんと撮影しよう。ほら、近づいて」

「もうくっついてるでしょ?」

「もっとくっつけるだろ」

「あ……っ」

「じゃあ、撮るぞ」


 今度は肩に手を回して、ほとんど抱き合うような恰好で写真を取った。


 なかなかいい写真だ。

 あまりこういった撮影は好きじゃなかったが、楓坂との写真なら残しておきたい。


「それじゃあ、行くか……って、どうした?」

「まだ離れたくない……」


 滝へ向かおうとしたが、楓坂は俺の服を離そうとしなかった。


「しかし、ここで抱き合ったままと言うわけにはいかないし……。どうしたらいいんだ?」

「ぎゅってして欲しい。私にハグハグオーラを注入して」

「え? ハグハグオーラってなんだ?」

「強く抱きしめると幸せになれるオーラが入ってくるの」

「スピリチュアルすら超越する思想だな……」

「だって、今考えたんですもの」

「適当だなぁ……」


 楓坂は甘えた声で言う。


「はやく。ぎゅってして」

「わかった。こうか?」


 言われるがまま、俺は楓坂を抱きしめた。

 さっきの撮影の時とは違い、今度は正面からだ。


「腰に手を回して欲しい」

「わかった。これでどうだ?」

「うん。強くぎゅーってして」


 ぎゅっと抱きしめる。

 楓坂の柔らかい感触が、ダイレクトに伝わってきた。


 最初は恥ずかしい気持ちだったが、確かに幸せな気分に浸ることができる。


「うふふ。これでオーラが充填されました。行きましょ」

「待ってくれ」

「なに?」

「俺もオーラを充填しないといけないんだ」

「どういうこと?」


 疑問を表情に浮かべた楓坂に、俺は顔を近づけて耳に息を吹きかけた。


「きゃっ! なんで耳に息を!?」

「楓坂の可愛い顔オーラがこれで充填できた。じゃあ、行こうか」

「んんんん~っ! そんなことされたら、またハグハグオーラが足りなくなっちゃうじゃない!」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、滝を見ながら二人は?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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