駅ビルのカフェ
土曜日。
今日は楓坂と駅ビルで待ち合わせをしていた。
目的は明日行くドライブデートの準備だ。
とはいえ、こうして待ち合わせをしているのだから、準備そのものがデートになっている。
「たしか、この店だよな?」
楓坂に指定された駅ビルの一階にあるカフェに入る。
ガラス壁から外の光をふんだんに取り入れているおかげで、室内はとても明るい。
そして木目調の内装のおかげで、全体的に落ち着いた雰囲気に仕上がっていた。
すると奥の席に座っていた楓坂が、手を上げて俺を呼ぶ。
「笹宮さん、こっちですよ」
「いいカフェだな」
「私のお気に入りなんです。よくここでYouTubeの企画や台本を書いたりしているんですよ」
「へぇ」
こういう雰囲気の店って考え事をする時にはちょうどいいんだよな。
俺も仕事の企画を考える時に、カフェでボーっとする時がある。
今度からこのカフェに立ち寄るようにしてみよう。
ふと、楓坂は優しく微笑みながら俺を見ていることに気づいた。
「なんだ? どうして見てるんだ?」
「え? 見てました?」
「ああ、嬉しそうに」
「そ……、そうかしら」
無意識に俺のことを見ていたのか?
なんか恥ずかしいな。
この数日、俺達の距離は急に近づいたような気がしていた。
ずっと嫌い合っていると思っていたが、そうではないとわかったからなのかもしれない。
なにより楓坂は変な所も多いが、面白い行動をすることが多いので飽きないのだ。
一緒にいて楽しいというのは、こういう事かもしれない。
そんなことを考えていたからだろう。
無意識に、ポロリと言葉が漏れる。
「楓坂って可愛いよな」
「え!?」
紅茶を飲もうとしていた楓坂が、ピクリと動きを止めた。
「……今なんて言いました?」
「……すまん。ボーとしてた。……俺、なにか言ったか?」
「えっと……。いえ、気のせいだったみたいです」
やっべぇ。うっかりとは言え、なんということを言うんだ。
まぁ、今のは本音なんだが……。
それから俺達は店を出た。
ドライブの準備のためにショップを回る予定だ。
「それで、今日は何を買うつもりなんだ?」
「靴ですよ。そろそろ新しいものを買いたいと思っていたので」
「そういうことか」
靴屋に向けて歩いていた時、俺と彼女の手が触れた。
ほんの少しかすっただけなんだが、まるで楓坂が俺を求めている合図のように感じる。
この前も手を繋いだし……、いいよな。
俺は自然体を意識して、楓坂の手を握った。
「さ……笹宮さん」
「いちおう俺達はカップルって設定だろ? だったら手を繋ぐのは普通じゃないか?」
「そ……、そうですよね」
適当な言い訳をしているが、結局俺は楓坂と手を握りたかったのだ。
しばらくして、俺達は靴屋に到着した。
様々な靴が陳列しているが、楓坂は何を選ぶのだろうか。
「滝を見に行くんだから、スニーカーとかの方がいいんじゃないか?」
「そうですね。これとか可愛くていいわ」
「へぇ、どれどれ」
楓坂が選んだのは、長年同じデザインのオーソドックスなもので、いわゆるローテクスニーカーと呼ばれているタイプだ。
シンプルだが、ほどよいカジュアル感があってコーデに取り入れやすい。
「いいんじゃないか」
「そうですか。じゃあ、試し履きをしてみましょう。それでは笹宮さん、お願いします」
楓坂は傍にある腰掛に座り、女神スマイルで片足をフリフリとしてみせた。
「なに?」
「履かせて?」
「靴を?」
「はい」
「俺が?」
「はい」
「楓坂に?」
「もちろんです。早くして」
このやろう……。
なんでわざわざ靴を買いに来たんだろうと思っていたら、俺に靴を履かせるための口実だったのか。
だが、一度言い出したら楓坂は折れないだろう。
しょうがないな。
仕方がなく、俺は楓坂の脚を取り、靴を履かせてやる。
「うふふ。まるで笹宮さんが私にかしずく家来みたい。最高の気分ですね」
「調子に乗りやがって……。なら、こうだ!」
報復とばかりに、楓坂の足の裏をくすぐった。
「んっ!? ちょ……、あっ……。それは、ダ……んんッ!」
「ふっふっふ。俺に足をゆだねたのが間違いだったな」
「む~」
「そう、ふくれんなよ。今度はちゃんと履かせてやるから」
「まったく。子供みたいなんだから」
しかし悶える楓坂って、すっげぇ可愛かった。
なんか……面白い。
なにかに目覚めそうだ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、デパ地下はラブコメスポット!?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます