音水のおすすめは?


 楓坂をデートに誘うことになったが、問題はデートプランだった。


 結衣花の前ではカッコを付けたが、実はそれほど自信があるわけじゃない。


「さて、どうしたものか……」


 今日の打ち合わせを終えて社用車で会社に帰る途中、うっかり呟いてしまった。


 すると助手席に座っていた音水が訊ねてくる。


「何がですか?」

「ああ、すまん。独り言だ」


 独り言をつぶやくなんて、かなり悩んでいたみたいだ。


 今まで女と縁のない生活を送ってきたからな。

 いちおう大学生の時に恋人はいたが、すぐに別れてしまったし、それ以降はずっと一人。


 そんな俺がデートプランを考えるなんて、無謀だったのかもしれない。


 俺が困っていることを察したのか、音水は元気いっぱいの笑顔で握りこぶしを作った。


「笹宮さん! 悩みがあるなら言ってください。水臭いじゃないですか」


 きらきら輝く瞳で彼女はそう言った。


「私は笹宮さんに助けられて、こうして今の会社に居続けることができます。だから私決めたんです。いざとなったら私が笹宮さんを助けようって!」

「……音水」


 ここまで真剣に俺のことを考えてくれるとは、なんていいやつなんだ。


 しかし、デートプランの相談なんて恥ずかしい。

 とても、後輩の音水に言えることではないだろう。


「気持ちは嬉しい。だが、これは俺の問題だ。音水にまで背負わせるわけには……」

「だからこそです。聞かせてください」


 心強い言葉だ。

 ここは頼ってしまってもいいのではないか?


 だが、俺がデートプランを考えているなんて言ったら変に思われる。


 そうだ! 名案がある!

 以前のように、友人の話ということにしてしまえばいいんだ。

 俺、冴えてるじゃん!


 落ち着いて話すために、俺は近くのコインパーキングに車を停めて、音水の方を見た。


「わかった、話そう。実は友人の話なのだが……」

「友人ですか?」

「そうだ。友人だ」

「オッケーです。納得完了です。どうぞ!」

「お、おう……」


 納得って完了を宣言するもんなのか?

 もしかして、その友人というのは俺のことだとバレている?


 いやいやいや。まさかな。

 たったワンフレーズでそこまで見抜くことはできないだろ。


 よし気を取り直して相談だ。


「友人が女性をデートに誘おうとしているのだが、どんなプランがいいのかわからないそうなんだ」

「はどゅば!?」


 なぜか音水は、オーバーリアクションで驚いていた。

 そこまでの内容ではないと思うのだが……。


「……驚きすぎだろ。友人の話だぞ」

「そ、そうですよね……。はは……」


 うーん。いまいち反応は不自然だ。

 だが、俺のウソがばれたということはないだろう。


 気持ちを落ち着かせた音水は質問をしてきた。


「ちなみにその女性はどういう人なんですか」

「そうだな。どういうと言われても困るが、いつも一緒にいるそうだ」

「いつも一緒に? それは……今日もってことですか?」


 今日も一緒にいたか? という質問だよな。

 まぁ、同居しているわけだから、その質問に対してはイエスでいいだろう。


「そうだな」

「……はわわ。じゃあ、その条件って私じゃ……」

「音水?」

「いえ!? なんでもありません! ですです!!」


 妙だ……。なにか会話が食い違っているような気がする。

 俺が不安な表情をしていると、音水はパンッと両手を合わせた。


「じゃあ。私にいいアイデアがあるんですけど、どうでしょうか?」

「おお、助かる」

「ドライブデートなんてどうでしょうか?」


 ドライブか。

 いちおう車は持っているから問題ないが、音水にしてはめずらしくアクティブな内容だな。


 だが、彼女の説明を聞いて俺は納得した。


「狭い密室だからこそ、普段とは違う二人の関係が築けると思うんです」

「なるほど」

「それで……その、タイミングを見計らって抱きしめてあげるんです」


 だ、抱きしめる!?

 俺が楓坂を!?


 無理だろ。絶対に無理だ。

 後ろから抱きしめる時だって、全然できなかったじゃないか。


 いや、待てよ。

 ドライブデートからの、後ろからハグというのはどうだ!?


 おお! これは行けるぞ!


 そう思った時、音水はモジモジし始めた。


「笹宮さん。……もしよろしければ、今すぐでもいいんですよ」

「……なんで?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、デートの準備


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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