通勤電車のお悩み相談


「はぁ……」


 通勤電車に乗っていた俺は、深いため息をついた。


 その理由は、楓坂が話をしてくれなくなったからだ。


 撮影していたお料理動画をチェックしたのだが、そこには恥ずかしいセリフまで記録されていた。


 羞恥心が爆発した楓坂はずっと赤面で、朝食以降、まったく話をしてくれなくなったのだ。


 なんとかしたいのだが、どうすればいいものか……。


 そんな悩みを抱えて車窓を眺めていた時、いつもの女子高生が挨拶をしてくれた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花」


 ミディアムヘアの綺麗な髪がフワリと揺れ、透明感のある肌が一層綺麗に見えた。


 ん? 今日は少し雰囲気が違うな。

 よく見るとうっすら化粧をしている。


 今までやっていたっけ?

 注意して見てなかったけど、今日のメイクはいつもよりきれいに見える。


 女子って化粧でどんどん綺麗になっていくから、うらやましいよ。


 俺がそんなことを考えていた時、結衣花が訊ねてきた。


「ねぇ。昨日の夜はどうして動画を投稿しなかったの?」


 やっぱりその話題か。

 あまり話したくないのだが、結衣花には言わないといけないよな。


「……うまく動画が撮影できなくて、今は投稿する余裕がない」

「えー。まさかケンカ?」

「ケンカじゃないんだが……」


 言いづらい……。

 俺としては素直な気持ちを伝えただけなのだが、動画で客観的に見ると、ただ単純に口説いているような状況だった。


 楓坂は今頃、俺のことをどう思っているのだろうか。……不安だ。


 だが、この状況を打破するためにも、結衣花に相談する意味はある。

 話せる範囲で話をしよう。


「実は、ちょっと……その……だな。動画撮影の時にトラブルがあって、お互いに恥ずかしい状況になってしまって、……朝食以降、全然話をしてくれなくなった」

「なにしたの?」

「それは……ちょっと詳しく言えなくて……」

「エロいこと?」

「そういうんじゃないんだが……」

「ふぅ~ん。お兄さんって無自覚でとんでもないことをする時があるもんね」

「……申し訳ない」


 詳細はまったくと言っていいほど話してないが、それでも結衣花は何かを察してくれたようだ。


 こういう勘の良さは、さすがと言ったところか。


「要するに、楓坂さんと普通に話ができる状態にすればいいってわけだよね?」

「ああ。なにか手はあるか?」

「うん。聞きたい?」

「ぜひ!」

「三回回ってワンって言って」

「次の駅に停車した時にやってやるよ」

「冗談だって」

「知ってた」


 俺と結衣花の付き合いは三ヶ月半くらいだが、この間にいろいろことがあった。

 その大半は俺をイジるような内容だが、おかげで彼女が冗談を言うタイミングもある程度わかっている。


 この程度のジョークなら、華麗に対処できるというものだ。


 だが、結衣花が提案する内容は、俺の予想をはるかに越えていた。


「デートに誘っちゃいなよ」

「……。……。……はぁ?」

「だから、デート。言葉の意味が分からないならググって」

「いや、デートという意味は知っているが、どうして突然……」


 話ができないのに、いきなり飛びすぎじゃないか?

 そもそも俺達は同居生活をしている。

 いまさらデートをする意味なんて、なにもないはずだ。


 そんな疑問に、結衣花は言った。


「何があったのか詳しく知らないけど、今はお互いの歯車がかみ合ってないから、会話が出来なくなったんでしょ?」

「ああ」

「ケンカしたわけじゃなく、嫌いになったということでもない……」

「まあな」

「でも、このまま会話のない同居生活を続けると、本当にケンカすることになっちゃうよ」

「それは……困る」


 自宅に帰れば今日も楓坂はいるはずだ。

 そして会話がない時期もずっと一緒にいれば、どうしても気まずくなる。


 そうなってしまったら、以前のように……。いや、それ以上に険悪な関係になってしまうかもしれない。


 これは本気で対処したほうがよさそうだ。


「なるほど。つまり起死回生のためのデートというわけか」

「うん。デートなら場所を変えて楽しむことができるでしょ。これでネガティブな気持ちをリセットするの」

「ほぉ……。さすがだな。そこまで考えていたのか」

「まぁね」


 いつものフラットテンションのままだが、彼女は得意げに胸を張った。

 女子高生のGカップがまぶしい。


「となれば、俺のデートセンスが試されるわけか。ふっ……、勝ったな」

「アホなこと考えてるでしょ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


次回、音水のおすすめデート!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る