お風呂とベッド


 夕食を食べ終え、俺達はリビングでゆっくりとしていた。

 気が付くと、時刻は夜の九時をすぎている。


「さて、そろそろ風呂に入るか」


 俺がそう言うと、楓坂がこちらを見て言う。


「一緒に?」

「楓坂がいいなら、それでもいいけど?」

「冗談ですよ」

「だろうな」


 日常のさりげないことでも恥ずかしがる楓坂が、一緒に風呂に入るなんてできるわけないじゃないか。


 というわけで、まずは楓坂が先に風呂に入ることになった。


「楓坂は風呂が長いから、三十分は出てこないだろう。それまでラノベでも読んでおくか」


 俺は読みかけの異世界ファンタジーラノベを手に取って、しおりを挟んでいるページから読みだした。


 ……と、ここで視線を感じたので見てみると、楓坂が壁からひょこっと顔だけを出していた。


「どうしたんだ?」

「べ……別に……」

「まさか本当に、一緒に入りたいとか言うんじゃないだろうな」

「……そんなこと……あるわけないでしょ……」

「……だよな」


 じゃあ、なんでそんな体勢でこっちを見ているんだ?

 そういえば、さっきリビングでくつろいでいる時も、妙にソワソワしていたっけ。


 もしかして、なにか話したいことがあるとか?

 でもそれなら、このタイミングでこんな行動を取るのはおかしいし……。


 結局、楓坂はそのまま風呂に入った。

 俺はのんびりとラノベを読みながら待つことにする。


 ……いや、のんびりというのはウソだな。

 楓坂の事が気になって落ち着かない。


 敵同士という関係で出会ったこともあって、今まではあまり彼女のことを意識しないでいた。


 しかし最近になって、俺は楓坂のことを女性として見るようになっている。

 そして今現在、彼女はお風呂に入っているんだ。


 想像しないようにしているが、この状況で気にするなと言う方が難しい話だろう。


 そして三十分後、ようやく楓坂が戻ってきた。

 だが、やはり体勢がおかしい。


「お風呂、上がりました」

「なんで壁から覗くように顔を出すんだ」

「だって……。お風呂上りだし」

「昨日はまで普通だったくせに」

「ん~っ」


 可愛らしくふくれっつらしやがって。

 しょうがない奴だな。


 俺が近づくと、楓坂は顔を出す比率をさらに下げた。

 そのまま放置しても良かったが、イタズラ心が芽生えた俺は素早く回り込んで、彼女の全身を見る。


 パジャマ姿の楓坂は恥ずかしさのあまり、体をくねらせた。


「もうっ……。いじわるしないでよ……」

「隠れたのはそっちだろ」

「んんんんん~っ」


 と言って、俺にフワッとしたネコパンチをする。


「笹宮さん」

「なんだ?」

「さっき言ったこと、本当?」

「さっき? アスパラベーコン巻きがうまいかどうかって話か?」

「その前」

「ん~? その前って……。あっ! 楓坂の事が嫌いじゃないってことな。ああ、本当だよ」

「……そう」


 もう一度、ゆるゆるのネコパンチをする楓坂。

 だが、触れた手はひっこめず、俺の体にくっついたままだ。


 そして、安心したように微笑んだ。


「なに、ニヤついてんだよ」

「ニヤついてませんよ」


 よく言うぜ。

 今の楓坂の顔を動画にしてアップしたら、視聴者ウケしそうだな。


 動画? そういえば、料理の様子を撮影していた動画ってどうなったっけ?


 たしか、撮影はストップしておいたよな。


 ……んー。まぁいいか。


 それから俺も風呂に入り、あとは寝るだけとなった。

 楓坂の寝床は今日もソファベッドのため、必然的にリビングが彼女の寝室となる。


「今日は慣れないことばかりだったから疲れただろ。ゆっくり寝ろよ」

「笹宮さん!」

「どうした?」

「あの……今日は、一緒に寝ませんか?」

「……え?」

「あ! いえ! 変な意味じゃなくて、せっかく和解したので、寝転がっておしゃべりしたいなと思って」

「ああ、そういうことか」


 そういえば、はっきりと『嫌いじゃない』っていたのは今日が初めてだもんな。

 楓坂にとっては女子のお泊り会のノリでそう言っているのかもしれない。


「わかった。じゃあ、こっちに布団を持ってくるから、待ってろ」

「はい」


 こうして俺はソファベッドの横に布団を敷いた。

 寝転がると、ベッドの上から楓坂が覗き込んでくる。


「うふふ。この位置だとあなたを見下しているみたいで気分がいいわね」

「そのサディスティックな性格は変えてくれないんだな」

「これが私のデフォルトですもの」

「楓坂といると、俺はいじられ続けるわけか。悲しい人生だよ」

「いじけてる笹宮さんって可愛い。好きよ」

「……なんか。そんな言い方されると恥ずかしいんだけど」

「うふふ。すーきっ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、料理中の動画が大変なことに!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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