二人のお料理
仕事を終えて自宅のマンションに帰った俺は、玄関の前に立った。
そしてカバンから鍵を取り出そうとした時、ドアがガチャっと音を立てる。
そして隙間から、楓坂がひょっこり顔を出した。
「あの……さ……笹宮さん。お……おかえりなさい」
メガネを掛けた女子大生は、照れながらそう言った。
初々しいその表情がたまらなく可愛いと感じる。
「ただいま、楓坂」
玄関を入った俺達はリビングに向かった。
カバンを置き、疲れた体を癒すようにソファにもたれかかる。
すると楓坂が隣に座ってほほ笑んだ。
「うふふ」
「急に笑ってどうしたんだよ」
「だって、敵同士の私達がまるで新婚みたいなことをしているんですもの。面白いじゃないですか」
こうして同居生活をして、『いってきます』や『おかえりなさい』って言う状況は確かにそう見えなくはない。
「新婚ねぇ」
「はい、新婚です」
と、ここで楓坂は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「自分で言っておいて、自分で照れるなよ」
「笹宮さんが話を膨らませたんでしょ!」
「人のせいにするな」
「も~っ」
俺にパンチをしようとした楓坂だったが、さすがにソファに座ったままだと体勢が悪かったらしく、そのままこっちに倒れてくる。
すかさず俺は彼女を抱きしめる形で受け止めた。
「……すまん」
「……いえ、こちらこそ」
こういった出来事は今までにもあったが、新婚というワードの後だったので、彼女の体の柔らかさをよけいに意識してしまう。
油断すると、そのまま理性が持っていかれそうだ。
自分の気持ちを律する意味もあって、俺は話題を変えることにした。
「そ……、それはそうと今日の動画なんだが、一緒に料理をするシチュエーションにしてみないか?」
「お料理系動画ですか。いいですね」
「よし。さっそく始めよう」
こうして俺達は料理動画を取ることにした。
キッチンへ向かって準備を使用とした時、俺は驚きの光景を目の当たりにする。
「じゃあ、始めるか……って、楓坂!? どうしたんだ、それ?」
そう。俺が驚いたのは、楓坂のエプロン姿だ。
白とピンクが合わさった可愛らしいデザイン。
Iカップの胸がより強調されているが、それがなお彼女の魅力を引き立てていた。
「今日買ってきたんです」
「楓坂って形から入るタイプなんだな」
「どうですか、これ?」
「まぁ、似合ってるよ」
「本当?」
「ああ、可愛いと思うぞ」
「うふふ。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑む楓坂。
こんな姿を見せられたら、いつものように意地っ張りなセリフなんて言えない。
「さて、何を作るか」
「卵かけごはんなら得意ですけど?」
「それを得意とは言わん」
流れるようにボケをかましてきやがって。
……って、楓坂の場合、たぶん本当なんだろうけど。
でも料理する内容は決めないとな。
今回は動画投稿するという目的もある。
それなりのメニューがいいだろう。
さて、どうしたものか……。
「そうだ。アスパラベーコン巻きにしよう」
「え!? ……あの、笹宮さん。……もうちょっと難易度を下げて欲しいのですけど……」
「なに言ってんだ。メチャクチャ簡単だぞ」
「私の料理スキルが絶望的なことを忘れてませんか? 怒りますよ?」
「主張の仕方がおかしいだろ」
アスパラベーコン巻きは、見た目こそ細かい作業のように見えるが、作り方は至ってシンプルだ。
さっそく俺は調理を始めた。
アスパラを塩茹でして柔らかくし、一度冷ます。
そして適当な長さに切ったベーコンで、数本のアスパラを巻き、つまようじで固定。
これで下準備は終わりだ。
……と、横を見てみると楓坂は案の定苦戦していた。
「笹宮さん。ベーコンがうまく巻けないんですけど」
「そんなに力を入れなくていいよ。ほら、こうして被せる程度でいいんだ」
「こう……ですか?」
「ああ。あとはつまようじで止めればいい」
彼女の指に触れ、作業方法をゆっくりと教える。
動画のためと言ったが、こうして料理を教えるのって面白いな。
「簡単だろ?」
「なんか、……笹宮さんに子供扱いされてるみたい……」
「可愛いぞ、楓坂」
「んんんんん~~~っ!!」
照れて半泣きになる楓坂。
はははっ、本当に可愛いやつだ。
■――あとがき――■
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次回、楓坂と笹宮の関係に変化が!?
投稿は【朝:7時15分頃】
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