甘えるシチュエーションはこれでいいの?
カップルYouTuberとして、『楓坂が甘えるシチュエーション』を動画に収めることになった。
しかし、恥ずかしがり屋の楓坂には荷が重く、ソファの隣に座るだけで限界寸前だった……。
「予想以上にこういうのって恥ずかしいのね……」
「そうだな……」
それからしばらくして、ようやく覚悟が決まった楓坂は俺のすぐ隣に座った。
だが、顔は真っ赤。
我慢しているが、限界なんてとっくに過ぎているのだろう。
「このくらいでもいいかしら?」
「お……おう。甘えてる感あるよな」
「もしかして、笹宮さん。緊張してます?」
「し、してねーし」
「うふふ。とてもとても、お子ちゃま
「噛んでんじゃねーか……」
やせ我慢しやがって。
何も考えず一緒に座っていれば大丈夫だったのだろうが、『甘えないといけない』というプレッシャーのせいで、ガチガチになっている。
さすがに今回の動画収録は失敗だな。
いや、ダメだ。
ここで諦めちゃいけない。
本来の目的は『楓坂がデレる瞬間を動画にして、ストーカーの心を折ること』なんだ。
そのためには、後ろから抱きしめて、甘い一言をささやく。
音水から教えてもらった最強の戦術だ。
よぉし! やってやるぜ!!
……と、思ったが、いざ行動に移そうとすると恥ずかしさで俺の体もガチガチに固まってしまった。
そんな俺を見て、楓坂はきょとんとした表情をする。
「どうしたんですか?」
「い……、いや。別に?」
はぁ……、ダメだ。
うまくできない。
せっかく『とっておきのセリフ』を用意しておいたが、どうやら活躍の場はなさそうだ。
やっぱり俺って、ヘタレなのかなぁ……。
だが、ここで想定外の事が起きた。
楓坂が指で……、俺の手の甲をいじり始めたのだ。
優しくなぞるように、時にはゆっくりと押したり……。
そのしぐさは、無防備な彼女の感情が伝わってくるようだった。
黙っていると、楓坂は恥じらいながら言う。
「なにか……しゃべってよ。動画時間が稼げないでしょ」
「そう……だよな。……うん。しゃべらないとな。それにしても、いざ甘えるのって難しいものだな」
「そうね」
会話らしい会話にならない。
だが、楓坂の手の動きは変化した。
俺の指と指の間をいじるようにする。
まるで、中に入りたがっているような動きだ。
だからというわけではないが、俺は手を開いて、彼女の手をふわりと握った。
「……あっ」
彼女が小さく声を上げた。
手を握りながら、指を動かしてお互いの存在を確かめ合うような動きをする。
そして楓坂は俺の肩に身体を寄せてきた。
なんかこれって……、恋人の雰囲気そのままじゃないか?
動画のための演技だと思うけど、その割に動きが自然だ。
「ねぇ……、笹宮さん。撮影、そろそろ止めない?」
「そうだな……」
俺達にとってはここまででも充分すぎる成果だ。
これ以上引き延ばしたところで、いい動画にはならないだろう。
撮影をやめるために立ち上がろうとした、次の瞬間。
――ッ!?
楓坂が勢いよく俺の胸に抱きついた。
彼女の優しい香りが舞い、柔らかい感触が俺の胸に飛び込んでくる。
予想外のことに、俺の頭は混乱するばかりだった。
普段の彼女なら、こんなことをするはずがない。
「笹宮さん……、私……」
まだスマホは撮影モードだ。
これは……演技なのか?
なら、俺もここで抱きしめるべきなのか?
そうだ。これは動画のためなんだ。
だから俺が楓坂に触れるのは、むしろ当たり前のことなんだ。
ようやく決意を固めた俺は楓坂の腰に手を回した。
細い……。胸は大きいのに、腰はこんなに細いのか。
その時、彼女は言った。
「笹宮さん、……私、限界です……。頭がクラクラします……」
「……え?」
なんのことはない。
楓坂は抱きついてきたのではなく、恥ずかしさの限界を超えて、のぼせていたのだ。
あっぶねぇ。先走った行動をしそうになってた。
それから俺は、楓坂をベッドに運んだ。
「大丈夫か?」
「はい。まだ頭がフワフワしてますけど……」
「甘えるシチュエーションは、まだ俺達には早かったかもな」
「そうですね」
弱々しく微笑む楓坂。
まぁ、今回はこんな形になってしまったが、カップルYouTuberの動画ならいくらでもやりようはあるさ。
あー、でも。結衣花には説明しないといけないよな……。
なんて言い訳しよう……。
■――あとがき――■
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次回、出勤前の玄関で。
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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