楓坂の試練?
仕事を終えて自宅に帰った俺は、しばらくリビングでくつろいでいた。
すると楓坂がインターホンのチャイムを鳴らす。
「こんばんは、笹宮さん」
「来たか。上がれよ」
ドアを開けると、楓坂が部屋着姿で立っていた。
ゆったりとしたトレーナーとスウェットという服装。
どうみてもブカブカなのだが、それが返って可愛らしく見える。
リビングに入った俺は、先に用意しておいたものを渡すことにした。
「そうだ、楓坂。合鍵を作っておいたから、好きな時に部屋を使ってくれ」
「え?」
「これからしばらくこっちで寝泊まりするだろ? 俺がいる時じゃないと出入りできないなんて不便だからな」
「でも、私はあなたの敵なのよ? 今まで酷いことをことを言ってきたのに……」
「そうだな……」
俺は目を閉じて、今までのことを思い出した。
そうだ。
いろいろ酷いことを言われた。
とんでもない要求もされた。
思い返すとなつかしい。
「そう言えば会って間もない頃、『全裸でブリッジをして、夜の国道を爆走しながら、通り過ぎる車にキモくわらいかけろ』なんて、常人にはできない発想のお願いとかしてきたもんな」
「ソレ、ワタシジャナイデス」
「お前だよ」
まぁ、今は以前に比べて少しばかりマシになっているからいいだろう。
ちょっとくらいバカにされるくらいの方が、こっちも調子が出るというものだ。
「とにかく、今はストーカーに狙われている状況だ。このくらいは気にするな。それとも、出過ぎたマネだったか?」
「いいえ。嬉しいです。……嬉しい」
楓坂は嬉しそうに鍵を握りしめて、そういった。
俺達は仲が悪いはずだ。お互いに、そう認識している。
なのに、なんで彼女はこんなに嬉しそうにしているのだろう。
そんな彼女を見て、何で俺はこんなに幸せな気持ちになるんだろう。
変な気分だ。
「じゃあ、夕食にする? 冷凍ハンバーグなら作れるわよ?」
「レンジでチンだからな。だが、その前に動画の撮影をしよう」
動画の撮影……。
その言葉を聞いた楓坂は、ピシッと体の動きを止めた。
そしてぎこちなく、こっちを見る。
めちゃくちゃ、顔が引きつってるぞ……。
「わ……わ……、私が甘えるのよね?」
「ああ」
「あなたに甘えるのよね?」
「そうだな」
すると楓坂はソファにダイブ。すぐそばにあるクッションを抱えて、亀のように縮こまった。
「笹宮さ~ん……、これはさすがに無理ですよ~!」
悶えながら、全力で撮影を拒否する楓坂。
よほど嫌なのか、悶える動きがかなり激しい。
だが、楓坂がデレる瞬間を動画にして投稿しないと、ストーカーを諦めさせることができない。
かといって、こっちの企みをバラすと、楓坂は気持ちが落ち着いてしまってデレる表情なんて見せないはずだ。
しゃーない。ゴリ押しで行こう。
「結衣花に言われてんだろ? 断ることができるか?」
「できないですけどぉ~」
「じゃあ、やるしかないな」
「うぅ……」
とりあえずスマホを三脚にセットして、録画ボタンをセット。
そして俺はソファに座る。
楓坂は不自然なほど離れて、クッションを抱いたまま座った。
「じゃ……、じゃあ。甘えますね」
「おう、来い」
「行きますよ」
「オッケーだ」
さぁて、どんな甘え方をしてくるのかな。
意外と可愛らしいしぐさとかするのかも?
それはそれで見てみたいな。
楽しみだなぁ……と思ったが、……楓坂はクッションが潰れるほど抱きしめて、半泣きで全身をふるわせていた。
「んんんんん~~~っ!!」
まぁ……、こうなるよな。
なんとなく予想通りだ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、笹宮が後ろから抱きしめる!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます