会社のかわいい後輩
俺が勤める会社はイベントを主に請け負う広告代理店だ。
古い会社だが、それなりに愛着を持っている。
会社に出勤した俺は自分のデスクに座り、結衣花から与えられた作戦について考える。
楓坂をデレさせる方法か……。
どうしたものか……。
すると、俺の姿に気づいたスーツ姿の女性が駆け寄ってきた。
「笹宮さん! おはようございます!」
「音水か。おはよう」
彼女の名前は
今年入社したばかりで、つい最近まで俺が教育係をしていた。
今は別チームになったが、同じ企画営業部の一員だ。
隣の席に座った音水は大きな胸を机の上に乗せて、ぐで~とリラックスする。
「やっぱり椅子はいいですよねぇ。リラックスできます」
とにかく音水は真面目なのだが、たまにこういう抜けたところがある。
こうして胸を机に乗せるようなことを毎回されると、さすがの俺も気になってしまう。
ここで俺の視線に気づいた音水がこっちを見た。
「あれ? 笹宮さん、どうしたんですか? じ~っと見て……」
「いや……。別に何もないぞ」
「そうですか?」
あっぶね。机の上に乗っかってる後輩の胸を見ていましたなんて言ったら、会社にいられなくなる。
と、ここで音水が嬉しそうに、俺のことを見つめていることに気づいた。
「なんだ?」
「べっつにぃ~。朝から笹宮さんの顔を見ることができて幸せだなぁ~と思って」
「恥ずかしいんだけど」
「テレ顔、ごちでごわす」
なにが『ごわす』だ。
相撲取りでもそんな言葉は使わないぞ。
ったく、かわいいから許してやるけどさ。
「それで笹宮さん。なにか考え事をしていたみたいですけど……」
「ああ。仕事と関係はないんだが、ちょっとな……」
「もうっ! 悩みがあるなら、笹宮さん好みに教育された私に任せてください」
「俺のクビが飛びそうになるジョークはやめてくれ」
彼女の教育係をしていたのは間違いないが、そんな表現をされたら皆から誤解されるだろ。
「まぁ、仮の話として聞いて欲しいんだが、音水はどんな時にデレる?」
「え? 私がデレる時……ですか?」
「ああ。音水の気持ちが知りたいんだ」
「私の気持ち!?」
彼女は席に座ったまま、オーバーリアクションで驚いてみせた。
そこまで反応しなくても……。
いや、そうでもないか。
普通、デレる時なんて聞かないもんな。
「突然のことで驚いたと思うが、あくまで仮の話だ。マーケティングリサーチだと思って、気楽に答えてくれ」
「気楽にって言われても……あれ!? もしかして、こ……これって!!」
何かに気づいた音水は叫んだ。
「照れ隠し的なアレですよね!?」
照れ隠し?
あー。そうなるのか?
実際、楓坂とカップルYouTuberをしているなんて恥ずかしいから隠しているもんな。
わずかな会話で俺の状況を察したのか。
やるな、音水。
「やはりわかってしまったか……」
「じゃあ、私……え? ウソ? でも今日の下着は……くっ! どうしてこんな時に!」
音水は下を向いて、辛そうにしている。
きっと唐突な質問をされて、困っているのだろう。
「そうだな……。こんな話、突然されても迷惑だよな」
「なに言ってるんですか! むしろ望んでいた展開です! 毎晩イメトレしてました! ガチな感じで!」
イメトレ? なんのことだ?
漠然と、なにかがかみ合っていないような気がするのだが……。
まあいい。
「で……。話を戻すが、音水ならどんなことでデレる?」
音水は手で唇を隠して、とても真剣な表情で考え始めた。
すごい集中力だ。
仕事の時でさえ、こんな表情はしない。
「そうですね。……やっぱり私にだけカッコいいことを言ってくれると嬉しいです」
「ほぅ」
「理想のシチュエーションとしては、後ろから抱きしめて、耳元でささやく……ですね」
「ふむ」
なるほど。後ろから抱きしめて……か。
なかなかカッコイイな。
これなら俺でもできそうだ。
ささやく言葉はどうしよう……。とりあえず、帰りにネットでチェックでもするか。
「ありがとう、音水。とても参考になった。さっそく試してみよう」
「待ってください!」
「ん?」
「きょ……。今日は……、今日はベージュなんです!!」
「んんん?」
どうして音水はベージュなんて言葉を言い出したんだ?
そういえばさっき、下着とかなんとか言っていたし……。
むぅ、やっぱり会話がかみ合っていない。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、後ろから抱きしめていいの!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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