新しい企画は……甘えるフリ?
月曜日。
会社に向かうため通勤電車に乗っていると、いつもの女子高生が声を掛けてきた。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
彼女はこの先にある聖女学院の生徒で、去年は楓坂もその高校に通っていたそうだ。
あまり詳しく聞いていないが、彼女達はCG部の先輩後輩の関係だったらしい。
……と、それより結衣花に話したいことがあったんだ。
「さっそくで申し訳ないが、聞いて欲しい話がある」
「どうせまたアホなことでしょ? いいよ。言ってみて」
「今日、楓坂が『どっちが洗い物をするかじゃんけんで決めよう』って言い出したんだ」
「それで?」
「一回目は俺が勝ったが、急に三回勝負になって負けた」
「うんうん。かわいそうだね」
「なぐさめる言葉に心を込めてくれよ」
結衣花の特長は、このフラットテンションだ。
明るいわけでもなく、かといってクール系というわけでもなく、常に自然体で淡々と話す美少女。
それが
そして俺はなぜか、この女子高生に心を許している。
だからこうして、つい無駄な話や相談をしてしまうのだ。
ここで結衣花はあの話題を持ち出してきた。
「そういえば動画の方はどう?」
「ああ、順調だ。しかし、こんなことをしていて、ストーカー対策になるのか?」
「たぶん大丈夫だと思うよ」
結衣花は左手に持っていたスマホをカバンにしまって、ゆっくりと説明を始める。
「ストーカーって、SNSをチェックするって言うでしょ? 楓坂さん、何度か自分のTwitterで動画を宣伝していたから、ストーカーなら見ていると思う」
「なるほど。じゃあ、今頃は諦めているかもしれないってところか」
「ブチ切れてお兄さんを襲うことを考えているかもしれないけどね」
「え……。マジ?」
「可能性の話」
なんだ、可能性の話か。
驚かせるなよ。
すると結衣花は落ち着いて話を続ける。
「でも、たぶんストーカーは襲ってこないよ」
「……やけに自信があるんだな」
「うん。なんとなくだけどね」
前から感じていたが、今回の一件について結衣花は何かを知っているんじゃないのか?
カップルYouTuberを始める時も、『利害が一致してる』と言っていた。
しかし、結衣花って裏で悪だくみを考えるような奴じゃないし……。
まっ、いっか。 その内、話してくれるだろう。
「それよりお兄さん。そろそろ次の段階に入った方がいいよ」
「というと?」
「今のお兄さん達は偽カップルでしょ? そんなのいつかバレるから。絶対」
「……そうなったらストーカー対策にならないってわけか」
「うん。だから、本気で楓坂さんをデレさせて。少しだけでいいから」
楓坂がデレる姿を視聴者に見せて、俺達が本物のカップルだと信じ込ませるってことか。
しかし……、これはちょっと……。
「……なぁ、結衣花。俺にそんなスキルがあると思うか?」
「全然」
「即答っすか」
と、ここで結衣花は妙案を出してきた。
「いい作戦があるから。ほら、このコメントを見て」
「ん?」
俺と楓坂で運営しているチャンネルに、コメントの書き込みがあった。
そこには『彼女さんが甘えているところを見たい』と書かれている。
「これを次の企画にして、利用するの。どうかな?」
「なるほど。つまり甘えるフリをさせて、どさくさに紛れて、本気でデレさせるってわけか」
「うん。『どさくさ』って言い方が好きじゃないけど、おおむねそんな感じ」
土台がない状態だと、俺もどうしていいのかわからないが、これなら何とかできるかもしれない。
だが、問題は楓坂だ。
最近、少し打ち解けてきたが、それでも仲良しというほどではない。
俺に甘えるなんて、楓坂のプライドが許さないだろう。
「これ、楓坂がやってくれるか? 俺から言ったら怒られそうなんだけど……」
「大丈夫。私がセッティングしてあげるから。でもその後ちゃんとリードするのはお兄さんの力だからね」
「あ……、ああ。わかったよ」
まぁ、結衣花ならなんとかしてくれるだろう。
問題は、どうやって俺がリードするか……。
すげぇ、難しそう……。
■――あとがき――■
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次回、可愛い会社の後輩ちゃんが登場!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
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