初めてのYouTuber活動
楓坂がストーカーに狙われて三日目の夜。
やはりというか、楓坂は今日も俺の部屋に泊まることになった。
「予想はしていたが、やっぱり部屋は片付かなかったのか」
「し……仕方ないでしょ。明日の午後になったら業者さんが手伝ってくれる予定なのよ」
「しょうがないなぁ」
まぁ、幻十郎さんから楓坂のことは頼まれているし、もう一晩くらいならいいだろう。
「それで、結衣花さんから言われたのだけど、ストーカーを近づけないために、あなたが彼氏役をするのよね?」
「ああ」
「そのことをストーカーがわかるように、カップルYouTuberを演じるのよね?」
「そうだな」
結衣花から言われていたことを確認し合った俺達は、同時に深いため息をついた。
「私……、すっごく嫌なんですけど」
「俺も嫌だ。だけど今はこれしかアイデアがない。楓坂も結衣花のアイデアだから渋々引き受けたんだろ?」
「そ……そうですけど……」
気を取り直した俺はスマホにスタンドを装着して、撮影モードに切り替える。
そして、結衣花が考えてくれた第一回目の企画内容を確認した。
えっと……なになに……。
『お兄さんが楓坂さんの胸を触るかどうかゲーム』
『チューしながら胸を揉むゲーム』
『同じベッドで一晩過ごして何もないかゲーム』
俺は……スーーッと息を吸って、思いっきり叫んだ。
「できるかー!」
「笹宮さん。今、夜ですよ」
「ああ……、すまん。つい……」
だが、こんなもんできるわけないだろ。
おかしいだろ。
結衣花のやつ、何を考えているんだ。
「俺、会社員だぞ。もしバレたら営業先で笑いもんだ」
「まぁ、それはそれで面白いですけど」
「俺の立場を考えてくれ」
「考えて面白いでしょ?」
「ひっでぇ……」
楓坂は俺が嫌がることをするのが楽しい人間だ。
きっと俺が困っているところを想像して、嬉しいのだろう。
「とりあえず、最初は顔出しをしないで投稿してみましょ。ストーカーなら声だけでもわかるかもしれないし」
「そうだな」
「では、一番被害が少ない『胸を揉むかどうかゲーム』をして今日は乗り切りましょう」
それから俺達は、結衣花が考えた企画内容を動画にして、YouTubeにアップした。
もちろん胸には触っていない。
◆
そして翌朝。
今日は土曜日なので、朝もゆっくりできる。
「おはよう、楓坂」
「おはようございます。あの……笹宮さん。昨日投稿した動画が大変なことになってますよ」
「え?」
楓坂が持つスマホの画面には、俺達が昨日アップした動画のページが映し出されていた。
だが、その再生回数がおかしい。
「うおっ!? 何だコレ!! 再生回数が一晩で三十万!?」
「よくわからないですけど、ウケたみたいですね」
「つーかこれって……」
顔出しをしない場合、当然映るのは胸が中心になる。
そして偶然ではあるが、今回の動画はほとんど楓坂のIカップを中心に映しているのだ。
コメント欄を見てみると……
『これが俗にいう、たわわか』
『よく見えるようにメガネを新調しました』
『胸で釣ってPV上げるとかざけんな! ……ふぅ』
『カップルYouTuberと言うより、IカップYouTuber』
こいつら、胸しか見てねぇじゃん……。
俺に対してのコメントとかないかな。
ええっと……。
『彼氏さん、邪魔』
『そこを変われ。空気読めよ』
『おっぱいちゃんは最高だけど、彼氏さんが嫌なので低評価ボタンを押しました』
ひっでぇ~。なんだよ。
カップルYouTuberなんだから、俺だって主役の一人だぜ?
よぉし。コメントで反撃だ。
『だったら、俺も活躍するような企画を考えてくれよ。なんだってやってやるぜ!』
うんうん。いいコメントだ。
企画を考えるなんて、そう簡単にできないだろう。
これで俺の苦労もわかってくれるはずだ。
一方楓坂はというと、両手を合わせて、嬉しそうにほほえんでいた。
「ふふふ……。この調子で行けば収益化して、ひと稼ぎできそうですね」
「欲望が駄々洩れだな……」
昨日は嫌々だったくせに、結果が出るとコロッと変わりやがって。
だけど、再生回数三十万か……。
だが、この時の俺は気づいていなかった。
さっき書き込んだ『コメント』が、大変な事態を引き起こすことを……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、楓坂が朝食を作る!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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