通勤電車の名軍師!


 翌日の朝。

 俺はいつものように通勤電車に乗っていた。


 すると、ミディアムヘアの女子高生が淡々とした口調で挨拶をしてくれる。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花」


 他人と話すのが苦手な俺にとって、通勤電車で話し相手がいるというのは、それだけで気分が違う。


 結衣花は俺の顔を見て、なにかに気づいたようだ。


「寝不足?」

「まぁな」


 昨日、楓坂を自宅に泊めたのだが、緊張して眠れなかったんだよな。


 楓坂の部屋はまだ散らかったままだし、たぶん今日も泊めてやらないといけないだろう。


 ぐったりとした俺の様子を見て、結衣花は「うんうん」と頷いた。


「お兄さんも男の子だもんね。でも大丈夫。私って理解力あるから、そんなに気にしないよ」

「おい、何言ってんの」

「言い逃れするつもり?」

「無実で無罪だ」

「じゃあ、スマホの閲覧履歴を見せて」

「……」


 男ってやつは常に秘密を抱えて生きている生物だ。

 スマホの閲覧履歴にはその形跡が多数残っている。


 もちろんエロいサイトなんて……ごほん。……んー。……アレなんだが。それは不可抗力だ。


 とにかく、結衣花にスマホを見せるわけにはいかない。

 話題を変えよう。


「……ところで相談があるんだが」

「話のごまかし方、下手すぎ」

「先刻承知だ」

「堂々と言う事じゃないからね?」


 結衣花の視線が少し痛いが、本題に入ろう。


「この前楓坂がストーカーに押されて、ホームから落ちたんだ」

「うん、知ってる。犯人、まだ捕まってないんだよね?」

「ああ。それで楓坂の爺さんに頼まれて、しばらく護衛をすることになったんだが、正直……、どうしていいのかわからない」


 護衛をするといっても、俺はただの会社員だ。

 ストーカー対策なんて全く理解できない。


 だが結衣花は言う。


「そう言うのって、彼氏の役とかすればいいんじゃない?」

「……でも、ストーカーがどこにいるかわからないから、演技のやりようがないだろ」

「んー。そうだなぁ」


 結衣花はあごを指でトントンと叩きながら、電車の天井をぼんやりと眺めた。

 彼女が考え事をする時のクセだ。


「んっ! これかな!」

「なにかいいアイデアでもあるのか?」

「まぁね」

「さすが、名軍師。頼りになる」

「おだてても何も出ないからね」

「とか言って、本当はちょっと嬉しいんだろ?」

「うるさいなー」


 結衣花は表情の変化が少ないのでハッタリを噛ましたが、偶然当たってしまった。

 こういうのって、ちょっと優越感があるんだよな。


 結衣花はコホンとわざとらしい咳をして、話を進めた。


「楓坂さんって、Vtuberやゲーム実況とか、YouTube活動をしているんだよね」

「そう言えば、昨日も動画を作ってたな」

「で、それを利用するんだよ」


 結衣花は人差し指を立てる。


「カップルYouTuberってどうかな?」

「……は?」

「だから、カップルYouTuber。そうすれば、楓坂さんに彼氏がいることを、ストーカーに知らしめることができるでしょ?」


 カップルYouTuberって、よくYouTubeのオススメ動画に出てくる恋人がいろんな企画をするアレだよな。


 いや……、さすがにそれは無理だろ。

 だって、俺と楓坂ってガッチガチに仲が悪いんだぞ。

 とてもじゃないが、俺のメンタルが崩壊する。


 これは断るしかないな。


「せっかく考えてもらって悪いが、俺にはちょっと……」


 だが、結衣花はフラットテンションで言った。


「ごめん。もう楓坂さんに、『お兄さんとカップルYouTuberをやって』ってLINE送っちゃった」

「送っちゃったの!?」


 すると楓坂から返信がある。


「なんて書いてあるんだ?」

「んっとね。……『わかりました』だって」

「本当か?」

「うん。その後に泣き顔のスタンプも送ってきたけど、大丈夫だよね」

「……」


 楓坂は結衣花を溺愛してるからな。

 きっと、結衣花に言われたから嫌々引き受けたんだろう……。


「しかしカップルYouTuberなんて、俺にできると思うか?」

「大丈夫。私がサポートしてあげるから」

「結衣花が?」

「うん。楓坂さんを守りたいのは同じだし……。それに……」


 なぜか結衣花はここで黙ってしまった。


「どうした?」

「ううん。なにも……。とにかく、利害は一致してると思うよ」


 釈然としない部分はあるが、結衣花のコミュ力とアイデアは強い戦力になる。


「わかった。頼むぞ、名軍師」

「もーっ。それ、やめてよ」

「照れんなよ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、初めての共同作業。


投稿は【朝と夜:7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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