お風呂上りとハプニング
俺の部屋はマンションの五階にある2LDKだ。
独身暮らしには広いが、築年数が古いということで、かなりお得な格安物件となっている。
そんな俺の部屋のリビングに、湯上り姿の女子大生・楓坂がパジャマ姿で現れた。
まだ乾ききっていない髪をタオルで抑えている。
「お風呂、ありがとうございました」
「お……、おう」
元から綺麗だった肌が水分を含んで、より瑞々しく見える。
こういうのって男は弱いんだよな……。
落ち着かない様子の俺を見て、楓坂は不思議そうに訊ねてきた。
「なんですか?」
「いや、……別に」
「あら? もしかして見惚れてました? 笹宮さんが? 私に? ふぅ~ん」
楓坂は俺の前に立ち、両手を頭の後ろに組んで、なまめかしいポーズをしてみせる。
「どうかしら? こういうのが好きなんでしょ?」
「大人をからかうな」
「照れちゃって、かわいっ! まるで人間みたい」
「いや、人間だからな?」
ったく。楓坂の部屋が眠れないほど散らかっているから、俺の部屋を貸してやっているんだぞ。
もうちょっとリスペクトして欲しいぜ。
「つーか。俺のことを敵視するの、やめろよ」
「忘れたんですか? 私は結衣花さんに近づくあなたが気に入らないんです」
そう……。俺達の仲が悪い原因は、通勤電車で話をする女子高生・結衣花だった。
楓坂は、元後輩の結衣花を溺愛していて、卒業した今でも仲良くしている。
だが、最近になって俺が結衣花と話すようになったことが面白くないらしく、なにかとちょっかいを掛けてくるのだ。
気持ちがわからなくはないが、いつまでも敵対心が高いってどうなわけよ。
そんなに嫌いなら俺の部屋に泊まるなんてお願いするなっつーの。
……と、ここで妙な違和感に気づいた。
あれ? おかしくないか?
普通、嫌いな男の部屋に泊まりたいって言うか?
もう少し深くその疑問について考えようとした時、楓坂は持ってきたボストンバッグの中からノートパソコンを取り出した。
「笹宮さん。リビング、お借りしていいですか?」
「あ……、ああ。いいぞ。何するんだ?」
「大学の課題です。レポートを仕上げないといけないので」
付箋を貼った専門書が二冊。そして使い込んだノート。
経済だの法律などと、ややこしそうなタイトルがついているので、かなり時間が掛かりそうだ。
「俺は風呂に入って寝るだけだから、自由に使ってくれ」
「ありがとう。私は課題が終わったら床で寝るわ」
「そこのソファを倒して使ってくれ。布団は来客用のものを置いておくから。課題、頑張れよ」
俺にはキツイが、根は真面目なんだよな。
それから俺は風呂に入った。
シャワーを浴び、ゆっくり湯船に浸かって疲れを取る。
そして風呂から上がって寝間着代わりのジャージに着替えてリビングに戻った。
……と、そこで俺は驚きの光景を見る。
「楓坂……?」
彼女はすごい勢いでノートパソコンを操作していた。まるで機械……いや、超高性能のアンドロイドみたいだ。
見ると、さっき仕上げると言っていた大学のレポートも完了している。
俺が風呂に入っていたわずかな時間で、あの量を仕上げてしまったのか。
すげぇ集中力と処理能力だ……。
「ふぅ……。やっと終わった……」
作業を終えた楓坂はノートパソコンから離れて、ソファに身体を預けた。
「何をしていたんだ?」
「YouTubeにアップする動画編集です」
「へぇ。楓坂って性格は最悪だけど、器用だよな」
「性格もいいですよ?」
「どの口が言うわけ?」
「この唇ですけど?」
楓坂が本気で集中しているところを見るのは初めてだが、控えめに言ってすごい。
作業から解放された楓坂は大きく伸びをした。
「じゃあ、そろそろ寝ますね。んーっ! 今日は疲れたーっ!」
その時だった!
パチンッ! と、音が鳴った後、コロコロ~っと、ボタンが床の上を転がる。
同時に、大きく開いた楓坂のパジャマの隙間から、推定Iカップの谷間がおもいっきり見えていた。
「……」
「……」
俺はおそるおそる後退る。
「いや……、あの……そうだ。……うん。……大丈夫だ。だから落ち着け。……な?」
しかし、羞恥心が最高潮に達した彼女は顔を真っ赤にし、
「んんんんんん~~~っ!!」
まるで子供のように、涙目で唸った。
誘惑するようなポーズを取る楓坂。
天才的な作業をしてみせる楓坂。
そして、子供のような情けない楓坂。
変な奴だ。
まぁ、でも。
こういうところがあるから、憎み切れないんだけどな。
■――あとがき――■
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次回、ストーカー対策はカップルYouTuber!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
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