朝食作り
腹が減ったので朝食の準備をしようとした時、楓坂が席を立った。
「今日の朝食は私が作ってあげますよ」
「……楓坂が?」
「ええ。気分がいいので、手料理を作ってあげます」
昨日投稿した動画が再生回数三十万を突破して、かなり上機嫌のようだ。
もともと楓坂が個人的に運営していたチャンネルを利用したということも大きいが、一般人の投稿でこの数字はかなりすごい。
「つーか、楓坂って料理とかできるわけ?」
「うふふ。私のことなめてるんですか? こう見えて得意料理はいくつかあります」
「ほぉ……」
普段からお嬢様のような立ち振る舞いをしている楓坂は名実ともにお嬢様だ。
きっと英才教育を受けてきたのだろう。
どんな豪華な朝食が出てくるのか、楽しみだ。
「では朝食の定番……、コーンフレークで」
「なんでだよ!」
「多くの人が朝食で食べてますよ?」
「さっき手料理って言ったよな?」
「ちゃんと手を使って用意してますし」
袋を開いてボウルに入れるだけじゃないか!
手料理の定義が広すぎて驚いたわ!!
「他には何か作れるのか?」
「レトルトカレーや、カップ麺も作れますけど?」
「手抜き過ぎて言葉が出ない……。普通、朝食の手料理といえば玉子焼きとかみそ汁だろ」
「そんな高難易度なこと、私にできるわけないでしょ」
「堂々と言いやがった……」
はぁ……。まさかここまで料理ができないとは……。
今の時代、別に料理ができなくても、そこまで困ることはないからな……。
とはいえ、朝はちゃんと飯を食いたい。
俺が全部作ってもいいが、いい機会だ。
楓坂に簡単な料理を教えてやろう。
キッチンに立った俺は、隣に立つ楓坂にレクチャーを始めた。
「今日はとりあえず、スクランブルエッグを作るぞ」
「はい」
「まず卵を割ってボウルに入れるんだ」
「わかりました」
まず俺が卵を割るところを見せてから、楓坂にやらせてみる。
楓坂は左手で卵を持ち、ビクビクしながら割ろうとしていた。
あれ?
今まで気づかなかったが、楓坂って左利きだったのか。
そう言えばパソコンを操作している時も、ほとんど左手でやっていたっけ。
右手を使う時は、シフトキーやエンターくらいだったもんな。
「あっ!」
楓坂が声を上げたので見てみると、見事に卵を割るのを失敗していた。
「……失敗してしまいました」
「殻を取れば使えるから大丈夫だよ。ほら、手を拭いてやるから」
「はい」
失敗して落ち込んでいるのか、それともはずかしいのか。
こうしてしおらしい楓坂を見ていると可愛いな。
ん? 可愛い? 楓坂を?
なに言ってんだ。こいつと俺は敵対関係だぞ。
いつも嫌がらせをしてくるような奴じゃないか。
いかん、いかん。
気を許すと、何をされるかわからないからな。
ここで楓坂の様子がおかしい事に気づく。
顔を赤らめて、もじもじしていた。
「……んっ」
「どうした?」
「……いえ、……別に」
なんだろう? まぁ、いいか。
楓坂の様子に構わず、俺は彼女の手を濡れたタオルで丁寧に拭いてやる。
そのたびに彼女は戸惑うような表情をしたり、ピクリと体を震わせたり、妙な反応をしていた。
もしかして、手を触られるのがはずかしかったとか?
まさかな。
「楓坂の手って細いな」
「そう……ですか?」
「ああ。……んっしょ。……これでオッケーだ」
卵でぬるぬるになっていた手を綺麗に拭き終える。
これで作業に悪影響はないだろう。
すると楓坂は顔を真っ赤にして、モジモジしながら言った。
「あの……笹宮さん」
「なんだ?」
「ちょ……、チョロインとか思わないでくださいよ」
……しまった。
やっぱり手を拭かれるのが恥ずかしかったんだ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、視聴者から指令? 子猫と何をするの!?
投稿は【朝と夜:7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます