第11話 入学試験

ウォルターとサラスさんと一緒に学園『聖騎士団魔術学園』に訪れた。

ここは騎士、魔術の才能があり、かつ良い家柄の生まれのやつだけが入学できるいわゆるお坊ちゃん学園だった。だがこの学園出身は王様、女王様の護衛や極秘任務に携わるなどかなり高難易度ミッションに関わるような奴らばかりだと聞く。つまり、化け物揃いなんだろう…。

おいおい、俺なんかが編入できるのか?これ。

「よう、ウォルター。こいつが例の熊狩の奴か?見たところ随分非力そうな小僧じゃねえか。大丈夫なんだろうな?」

かなりイカついおっさんが現れた。筋骨隆々なうえに眼帯。腕に無数の傷跡があるところをみると相当場数を踏んだ猛者なのだろう。今まであった人間の誰よりもヤバイオーラがある。

「は、はじめまして…クロトと言います」

「あまりビビらせるな、フリード。ただでさえお前の体格がゴツいんだ。7歳の子供にはお前は犯罪者らへんにしか見えんぞ。」

ウォルターがフリードと呼ぶおっさんは、顰めっ面をして顔をさらに硬らせた。

「うるせえぞウォルター。この程度でビビる奴ははなっからいらねーよ。」

「相変わらず脳みそまで筋肉みたいな思考をしとる。まぁこの少年クロトは、あの伝説と言われたオーギュスト殿に手解きをしてもらったそうだ。編入試験を受ける理由にも十分になるだろう」

フリードの顔が更にイカつくなった。

「ほぉ、それは興味深い。いいだろう、直ぐに試験をしようじゃないか。たが筆記試験はおそらく無理だろう。一発本番の戦闘試験だけを執り行う。それでよいな?」

確かに転生前は大学まで卒業してる身、ある程度知識はあるとはいえ、この世界の知識はあの修行時に読んだ本での知識以外まるでない。こっちとしては願ったり叶ったりだ。

「大丈夫です、よろしくお願いします。」

「戦闘試験はこのバトルフィールド、時間は10分。試験官はこの俺だ。条件は俺が負けを認めるか戦闘続行不可能になった場合、そして10分間逃げ切れればお前さんの編入を認める。質問はあるか?」

「逃げ切っても合格でいいんですか?」

かなり条件が甘いのかなと思い、何気なく聞いただけだったが、ウォルターが少し苦笑していた。

「クロト君、本来は試験官はフリードではないんだ。なんせ奴が試験官だった時は受験者全員落ちているからね、君の条件で。倒すのはおろか、逃げ切るのさえほぼ不可能だと言われているんだ。」

おい、やべえじゃねえか。見た感じ40超えのおっさんなんだから、逃げるんであれば余裕だろって思ったんだが…。しかし、腹を括るしかない。

「なるほど、分かりました。その条件でお願いします。」

時間は10分、雷化であれば敏捷も上がるし今の俺なら30分は持続させられる。雷迅も多用は出来ないが、使えるはずだ。あまり手は見せず、やり過ごすしかない。

「よし。準備が整ったら所定の配置に付け。配置に着き次第、カウントダウンが始まる。ちなみにこの入学試験だが、全校生徒でも見れるよう中継している。せいぜい恥だけは晒すなよ?」

このおっさん!!中継とか聞いてねえぞ!おそらく不正防止による大勢の証人がいる事を覚えておけよということだろうが…。大勢に見られるということは、こちらの情報を多く渡してしまうことになってしまう。ますます獣神雷化が使いづらくなってしまったぞ!いい性格してやがるよ全く。

ブツブツ言いながら所定の場所に到着した。

「双方が所定の場所に到着しましたので、これよりカウントダウンを開始いたします。10、9…」

カウントダウンが始まった。考えてみればモンスター相手の戦闘は経験しているが対人戦闘はこれが初めてだ。どの程度の出力で闘うのか、未知数ではある。だが手加減とか考えているようでは足元を救われるだけだろう。全力で逃げることを考えよう。

「3、2、1、ピー」

どこから来る!?

そう思った瞬間目の前から拳が飛んできた。

「おい、マジかよ!」

スタート地点は相当離れてるはずじゃなかったのか!?あのジジイ場所が分かっているのか一瞬で距離を縮めて来やがった…!どんなトリック使ってやがるっ!

雷化を纏い、相手の次の出方を見る。そう思った瞬間体に強い衝撃波が襲いかかってきた。

「ぐはっ、なんだ一体…!?」

フリードの気配は全く無い。それなのに距離を縮めるだけではなく、雷化で距離を取った筈なのにピンポイントで謎の衝撃波。雷化を纏っていなかったら早々に終わっていただろう。

「ほぉ、あれをかわすのであれば大した実力だ。そこらの有象無象とは違うってことか。」

目の前からフリードが現れ、顔は楽しそうに微笑んでいる。まるで戦闘することが楽しいと言わんばかりの笑みだ。こいつただの戦闘狂だったか…。

「これは、逃げ切るなんて恐れ多いですね。力も温存していたら一瞬でやられそうです。」

事実なのでストレートに言った。さてどうするか。

「出し惜しみはしない方がいい。入学する前に死ぬぞお前。」

冷徹な声に思わずゾッとする。確かに出し惜しみはしない方が良さそうだ。だが、力比べをしても負けるのは明白。やるしかない!

「分かりました。ご希望通りお見せいたしましょう。雷迅!!」

「なっ!?」

フリードの顔が驚愕に満ちた物に一瞬見えた気がした。だが、そんな余裕は無いため、懐に一気に飛び込み、雷を纏った拳を鳩尾に叩き込んだ。

「くらえっ!!」

流石にモロに入った感触があったため、拳を叩き込んだ後距離を取った。これで終われば楽なんだが…そうとはいかないようだわ…。

「なるほど、いい威力とスピードだ。並の人間なら今のコンボで終わっていただろう。それに見たことない系統の魔術だ。対策もわからんが、それだけでは俺は倒れんぞ。」

もちろんあれだけでは倒れないとは分かってはいたが、ほぼ無傷では普通は絶望するぞ全く…。まぁ想定通りなうえ、狙いはバレてないようだな。

「いやー流石に堅いですね…今ので倒れることを期待したんですが。ですが僕に触れられたこと後悔させますよ!」

「触れたからなんだと…」

そこでフリードの言葉が止まった。いや喋れないのだ。体を一時的に麻痺状態にさせたため、動くことはおろか、喋るのも難しいだろう。

「一時的に麻痺状態にさせていただきました。残り時間動けないかもですが、これもルールですのでご容赦を。」

とりあえず逃げる準備を…

「なっ!!」

動けない筈のフリードが距離を詰めて来ただと!?バカな!こいつ、本当に人間か??

「ふん、大した奴だ。お前が対人戦闘の経験が豊富であればやられていたかもしれないが、あそこで畳み掛けないようではツメが甘いとしか言えんな。」

「なるほど、勉強になります」

平然と避けて応えながらも冷や汗たっぷりだ。これなんて無理ゲーだ?対戦相手がいきなり、ラスボスかよ。最初の草むらでレベル100にしないと勝てない相手じゃないか!?

「では、こちらも遠慮なく行くぞっ!」

先程と同じ移動方法で距離を縮め、拳を振り翳してきた。雷迅の超高速移動があるからこそ辛うじて戦えているが、そう何発も発動できないとなるとかなり苦しい…。あと5分か。

「その瞬間移動は人間技ではないようだな。魔術の類だろうが、中々に興味深い」

「ありがとうございます」

その瞬間移動に反応するお前が人間じゃねえよ!と思わず叫びたいくらいだ。

あと5分…とりあえず耐えろよ俺!!

「5分もあれば終わると思っていたが、いやはや舐めていたよ。少し本気を出そう」

ただの入学試験にそれも7歳相手に本気を出す学園長。文字通り大人気なさすぎだろこのジジイ!!

「風解旋風!!」

突如フリードの周りに巨大な渦が起こった。それも相当な風圧で、距離を離しても飛ばされかねない威力だ!すると渦が徐々に収まって来た。いや、渦をフリードが取り込んでいる。なんだ、嫌な予感がする…。

「死ぬなよ、小僧!」

再度詰め寄ってきたフリードを避けようとしたとき、直接触れていないはずなのに、雷化が消滅してしまった。

「なっ!確かに後方に避けた筈なのに、雷化が解けただと?まさかその渦、風自体が鎌鼬になっているのか!?」

「ほぉ、よく見破ったな!初見でこんなにも早く見破られたことは初めてだよ。それに本来であればお前は無数のダメージを負うはずだったのだが、なるほど。術を纏っていたからダメージを防いでいたのか。運が良い奴やの。」

どれだけ雷化を纏っても、雷迅で近づいても、奴に近寄ればダメージを負うのは俺だ。どうする…。あと4分…一か八か賭けるか…ないか!

やってやるよ、絶対にぶっ飛ばしてやるよ!




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落雷事故に巻き込まれた俺は雷纏って人生やり直しました。 @kurono1121

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