第7話




「さて、邪魔が入ったけど、やり直しね」


「は、はい……」


 改めて宣言されると、緊張で手が震えてくる。

 すると、ヴィオレ様がそっと私の手をとってきた。

 そうして、指を絡ませてくる。

 蒼い瞳を和らげながら、彼は声をかけてきた。


「俺も、学会前の発表とかは緊張するんだよね――あと、実験で、うまくコントロールしなきゃいけない場面だったり」


 きょとんとしていると、ヴィオレ様は続ける。


「まあ、だけど取り返しがつくと言われればつくわけ」


 宝石のように綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「お前は今からさ、俺のものになるわけだ。まあ、別れたりする男女も多いけど……一度でもお前を捧げられたら、俺としてはもう放すつもりはないわけだ」


「は、はい」


「引き返すなら今だけど――どう? 赤ずきんちゃん」


 からかうような笑みを浮かべられる。


(私……私は――)


 鼓動が高鳴る。


 恥ずかしくて顔が真っ赤になっているだろうが、俯かずに続けた。



「ヴィオレ様と……結ばれたいです」



 すると、ヴィオレ様が満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう、ルージュ」


 彼は私の身体をぎゅっと抱きしめてきた。

 しばらく黙って二人で抱きしめ合っていると、なんだかすごく幸せな気持ちになってくる。

 

「ルージュ……」


 彼は一度名を呼ぶと、唇を彼のそれで塞いでくる。

 キスされると、彼の大事にしたいという気持ちが伝わってくるような気がした。


「はあ……なんだろう……すごく幸せだ――」


 私の身体を壊れ物のように大事に抱きしめながら、彼はそう言った。


(なんだかドキドキして落ち着かない……)


 そうして彼がそっと離れる。

 ヴィオレ様がまとっていたローブと衣服を脱いだ。

 裸になった彼の身体に目を見開く。


(え? え?)


「魔術師っていうか――研究するには体力がいるわけ……徹夜も多いからさ――貧弱なだけじゃ務まらないんだよね」


 引き締まった体幹。

 二の腕の筋肉は、軽々と私を抱き上げるのもうなずけるぐらいに、鍛え抜かれている。


「驚いた?」


 私はこくこくと頷いた。

 ヴィオレは口の端をゆるりと上げる。

 いつの間にか、彼の器用な手によって、私は生まれたままの姿にされていた。


「それじゃあ――」


 そう言うと、彼が私の身体の上に覆いかぶさってくる。


(なんだかすごく恥ずかしい……!)


 ぎゅっと目蓋を瞑る。


「ねえ、あの継母にさ、一つだけ感謝していることがあるんだ」


「え――?」


 彼は私の髪を梳く。


「お前の能力に気づかなかったおかげで、俺はお前を手に入れることが出来たんだからね――」


 そうして彼がまたキスをしてきた。 

 

「そういえば、研究はいち段落ついてきたけどさ……」


 なんだろうと思って、きょとんとしていると――。


「明日からは、俺に毎晩抱かれるのに付き合って、お前はずっと徹夜だよ――」


「え――? え――?」


 おどおどする私を見ながら、ヴィオレはくすくすと笑っていたのだった。



「本当に可愛いな、俺の赤ずきんは――大好きだよ、ルージュ」



 そうして私達は初めての夜を迎えたのだった。




※※※




 数週間後――。


 廃城へと食料を届けに来た行商人から、継母が偽造硬貨を所持していたといって捕まったことを知った。


(ヴィオレ様が、渡したのは、まさか――)


 彼が私に種明かしをする。


「ルージュが来る少し前だったかな? 城に盗賊が乗り込んできたから、とっちめて、拷問にかけて遊んでたことがあったんだけど、その時にそいつらが置いていったんだよね――ぱっと見では、偽物か本物か分からなかったんだけどさ――君のお母さんも運が悪かったね」


(私、やっぱり悪魔伯爵と結婚したのかな――?)


「そんなことよりも、論文を書き終わったからさ――まだ昼間だけど、良いでしょう――?」


「え? え? 今日も徹夜したばっかり――」


 そうしてヴィオレは、私に口づけてくる。


「毎日寝せないって言ったでしょう? ねえ、俺の赤ずきん」


 どうやら――。


 ――追放された赤ずきんは、狼よりも恐ろしい、生意気な悪魔伯爵に目をつけられてしまったようでした。



(おしまい)



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生意気な辺境伯は赤ずきんちゃんがお好き おうぎまちこ(あきたこまち) @ougimachiko

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