第九話 最強VS最凶
――修羅王ヨルファング·ジェスター視点。
今俺の目の前で巨大な三つ首の邪龍アジ·ダカーハが禍々しい魔力を放っている。
目に見える程の高濃度の黒き魔力は大地の草花を枯らしてしまう。
俺も自分の魔力を纏っていなかったら黒き魔力の影響を受けて死んでいたかもしれない。
アジ·ダカーハは世界に七匹しかいないSSSモンスターの中でも一番厄介だと言われている。
生きるもの全てを殺してしまう禍々しい魔力も厄介と言われている要因の一つだが、それは烈華民国の山に封印されている魔龍ジャバウォックも同じだ。
アジ·ダカーハとジャバウォックの違いはその凶暴性。
気性が大人しいジャバウォックと違い、アジ·ダカーハは気性が荒く、目につく生き物は全て殺す残虐な性格をしているみたいだ。
その為、アジ·ダカーハによって滅亡した国はいくつもあるらしい。
だが、アジ·ダカーハはここ二百年姿を現していなかった。
死んだのではないかとも言われていたが、今こうして目の前に現れた。
目の前で三つ首を揺らしている邪龍アジ·ダカーハは完全に俺を標的にしている。
ぎらぎらと光る龍眼が俺を捉え、口に黒き魔力を溜めていく。
あれはまずいな。
俺は身体に纏っている赤色の魔力を更に身体の中から放出し、右拳と左拳に溜める。
アジ·ダカーハの三つの口から黒き炎が放たれると同時に赤き魔力が溜まった右拳を振り抜く。
黒き炎を右拳で放った赤き拳圧で打ち消し、続いてアジ·ダカーハ真ん中の頭目掛けて左拳を振り抜いて赤い拳圧を飛ばす。
アジ·ダガーハの真ん中の頭は赤い拳圧の衝撃に耐えきれず吹き飛んでしまうが、首元から瞬時に再生してしまった。
ならばと、連発して赤い拳圧を飛ばして三つの頭全てを消し飛ばしたが、これでもすぐに再生してしまう。
この再生能力も厄介だな。
どう攻略するか悩んでいる間にも再生した口から黒き炎のブレスを放つアジ·ダカーハ。
それを拳圧で打ち消しながら考えるのを止める。
考えるのは俺らしくねぇ。
考えるぐらいなら拳を振り抜く。
それが俺だ。
再生するなら、再生できなくなるまで殴ればいい。
それに今まで俺は全力を出す事はなかった。
全力を出す前に相手を倒してしまうからだ。
だが、こいつなら俺の全力を引き出してくれるかもしれない。
俺は全力を出せるかもしれない嬉しさで思わず笑顔になってしまう。
そんな俺は両拳に魔力を溜めて拳圧を飛ばしまくる。
「お前の消滅が先か、俺の魔力が無くなるのが先か根比べだ、アジ·ダカーハ!!」
俺は笑いながらアジ·ダカーハに向けて拳撃を放ちまくった。
――邪龍アジ·ダカーハ視点。
創造主に造られた遥か昔から我は絶対的存在だった。
私の魔力に触れるものは全て死に絶え、大地は荒廃していった。
創造主が姿を見せなくなった後、我は目につく全ての生き物を殺していった。
どの生物も弱く脆かった。
だがそんな生物の中でも人間だけは集団で知恵を使いながら我を滅ぼそうとした。中には単体で強い人間も居た。
そんな人間達との戦いは楽しかった。
だが、我の圧倒的な力の前では、我に反抗する人間達も同じ様に死んでいった。
生き物を殺すのは楽しい。だが人間を殺すのはもっと楽しい。
だが我には千年程眠りにつく習性があった。
もっともっと殺したいのにこの眠りには抗えない。
あぁ、次に目覚める時はどうか我を楽しませる強者が生まれているように。
そう願いながら眠りについた。
突如創造主の手によって起こされた。
目の前には強そうな人間達が居た。
創造主はこいつらを殺したいらしい。
創造主の命令に従い、目の前の強者達を殺すとしよう。
そう思っていたら我の目の前に残ったのは一人の人間。
だが、こやつから放たれる魔力を感じて確信する。
こやつは今までのどの人間よりも強者だと。
久方ぶりの戦いに胸を躍らせたが、戦いが始まると我が押されている。
全てを死滅させる我の炎は打ち消され、何回も何回も頭を破壊される。
な、何だこやつは!? 何なのだ!?
だが我の身体は肉片が一欠片でも残っていればすぐに再生する。
その前にこやつの魔力が尽きる筈だと思っていたが、目の前の人間は邪悪に笑って更に攻撃スピードを加速させる。
ま、まずい!! 再生するスピードよりもこやつの攻撃スピードの方が速い!!
このままでは負けてしまう!!
我は三つの口に魔力を溜めれるだけ溜めて黒き炎のブレスを放つ!!
このブレスは流石に打ち消す事が出来なかったのか奴は黒き炎に包まれた。
勝ったと思った。
我の炎に焼かれて生きていた人間など今までいなかったからだ。
だが、この人間は違った。
少し火傷を負っているがそれだけだ。
黒き炎に包まれた筈なのに、自身の赤き魔力を纏う事によって黒き炎を防いでいるのだ。
な、何なんだこの人間は!?
そして何だこの感情は!?
我を邪悪に睨む人間は、邪悪に笑うと、数えきれない程の飛ぶ拳撃を放ってくる。
「勝負だ、アジ·ダカーハッ!! うらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらぁっ!!」
あまりの拳撃の数に身体の再生が間に合わない。
あぁ、何だこの感情は!? 逃げたい、あやつから逃げたい!!
なのに身体が震えて動かない。
我の身体は肉一片となり消えようとしている。
嫌だ嫌だ嫌だ!!
我はまだ破壊し足りない。
だがそれよりも目の前にいる人間から逃げたくてしょうがない。
何なのだ!? この感情は何なのだ!?
最後まで芽生えた感情がわからぬまま赤き魔力を帯びた拳圧で最後の肉片は消され、我は消滅した。
――修羅王ヨルファング·ジェスター視点。
「···ふぅ〜、消えたか」
無我夢中でアジ·ダカーハを攻撃し、気付けばアジ·ダカーハは消えていた。
数秒待つが、再生する事もない。
倒したようだ。
所々に火傷を負ったが大したことはない。
それよりも結局自分の限界が見えてこなかった。
アジ·ダカーハなら俺の全力を引き出してくれるかもと期待していたのに残念だ。
だが、戦いはまだ終わっていない。
二万のクローン達と戦っているイルティミナ達の元へと行くとしようか。
懐から出したタバコを咥え、火をつけて吸いながらアジ·ダカーハとの戦いで荒れた地を後にした。
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