第八話 ゼロVSユルゲイト
――ゼロ視点。
イルティミナ様の飛行魔法で空中に浮かんでいるアルジュナとユルゲイトが居る城へと着きました。
下の戦いに参加するイルティミナ様とは別れ、城の内部へルートヴィヒ様、ステラ様と共に進んでいきます。
しばらくすると、大きな扉がある広い部屋に居るユルゲイトを発見しました。
「おやおや、随分と来るのが早かったね。だけど三人か。この人数なら僕だけでもなんとかなるかな?」
「ユルゲイト!! もうアルジュナに加担するのは止めにしてください!! ミーチェ博士はこんな事望んでいない筈です!!」
「ふむ、ゼロ。確かにミーチェならこんな事をしている僕を止めるだろうね。だけどねゼロ。そのミーチェはもう何処にも居ないんだ」
ユルゲイトは無数のの魔法陣を生み出し、闇属性中級魔法ダークネスブレイドを放ちます。
放たれた無数のダークネスブレイドをステラ様にレヴァンティンをエンチャントしてもらったルートヴィヒ様は白きオーラを纏った剣で斬り、同じくステラ様にレヴァンティンをエンチャントしてもらった私は白きオーラを纏った拳と蹴りでダークネスブレイドを粉砕していきます。
その間にステラ様が数え切れない程の水属性中級魔法アイスランスをユルゲイトに放ちますが、それをユルゲイトは闇属性最上級防御魔法ダークネススフィアで無効化してしまいます。
「くっ、ダークネススフィアも使えるの!? 確か聖属性最上級魔法アイギスも使えたわよね?」
ステラ様の問いかけにユルゲイトは頷きます。
「ああ、僕は適応属性の火属性、闇属性、聖属性の魔法なら最上級まで使えるよ」
「なっ!? 敵である私達に簡単に教えていいの!?」
「ステラ嬢と言ったかな? 君達に僕の力の一端を教えた所で何も問題ない」
ユルゲイトは笑いながら自分の立つ地面に魔法陣を生み出します。
するとユルゲイトの姿は消えて、いつの間にか私達の後方へと移動していました。
ユルゲイトの得意とする転移魔法です。
「僕の姿を捉えられるかな?」
ユルゲイトは後方からダークネスブレイドを放ちながら転移魔法で別の場所へと転移してまたダークネスブレイドを放ちます。
転移しては攻撃をするを繰り返すユルゲイトの姿を中々捉える事が私には出来ません。
そんな中ルートヴィヒ様はユルゲイトの転移する位置が分かっているのか、ユルゲイトが放った攻撃を斬り伏せながらユルゲイトが転移するであろう位置に先回りして剣を振り下ろします。
ユルゲイトはルートヴィヒ様に驚きながらも聖属性最上級防御魔法アイギスでルートヴィヒ様の斬撃を防ぎます。
「おぉ、僕の転移先に先回りするとは!! 原理を教えて欲しいな」
ユルゲイトの質問にルートヴィヒ様剣を構えながら答えます。
「転移する場所にあなたの気配と魔力を感じた。それだけですよ」
簡単そうに言いますが、私やステラ様には出来そうにありません。
ルートヴィヒ様の答えにユルゲイトは笑い出します。
「ははっ、随分と気配探知や魔力探知に秀でているんだね。身体をじっくりと調べさせて欲しいところだけど、残念ながらそんな時間はないよね」
残念そうにしながらユルゲイトは白衣の内ポケットから紫色の液体が入った瓶を取り出します。
「それはネオエヴォルトッ!?」
ルートヴィヒ様が厳しい表情になります。
「ふふっ、確かにこれはネオエヴォルトだよ。君達を確実に殺すにはこれが手っ取り早そうだからね」
ユルゲイトは手に持つネオエヴォルトを私達に見せます。
「それを飲んだらあなたも異形のモンスターになって戻れなくなるのでは?」
「ふふっ、そうだね。でもそれがどうしたのかな? ミーチェが居ないこの世界には未練なんてないんだ。こんな世界壊すだけさ。だから飲む事なんて簡単に出来る」
ルートヴィヒ様の言葉にも動じずにユルゲイトはネオエヴォルトを飲み干しました。
そしてユルゲイトの肌は赤黒く変色し始め膨張を開始します。
「ざぁ、ごれで君達どもおざらばだぁ!!」
ユルゲイトの身体にはいくつもの獣の顔が浮かび上がる。
目に見える程の赤黒い魔力を身体中から放っているユルゲイト。
その赤黒い魔力を獣の口から光弾にして放つユルゲイト。
それを拳で捌きながらステラ様にあるお願いをします。
「ステラ様!! 全属性上級複合魔法ビックバンのエンチャントを私にかけてください」
「!? ビックバンモードを使うの!? あれは練習段階で身体に負担がかかり過ぎるから封印した筈よ!?」
「お願いします!! ユルゲイトを倒すのは私でありたいのです!!」
ユルゲイトが放つ赤黒き光弾を捌きながらステラ様に近付き頭を下げる。
そんな私を見て数秒思案した後ステラ様は頷いてくれました。
「わかったわ、ゼロ。でも無理しちゃ駄目よ!!」
ステラ様に頷くと、ステラ様は杖に魔力を溜めていきます。
その間もルートヴィヒ様と一緒に異形化したユルゲイトの光弾を打ち消していきます。
「エンチャント、ビックバン!!」
そしてステラ様がビックバンをエンチャントしてくれた事により七色のオーラが身体から溢れ出ます。
くっ、やはり凄い力です。身体がもう悲鳴を上げ始めている。
しかしこれなら一人でもユルゲイトを倒せそうだ。
「ルートヴィヒ様、ステラ様、ここは私に任せて先へお進み下さい」
二人は少し迷ったようですが、頷いてくれました。
私のユルゲイトへの想いを汲み取ってくれたのでしょう。
二人は異形化ユルゲイトの相手を私に任せて前方にある大きな扉を開けて先へと進んでいきました。
異形化ユルゲイトは二人を逃がすまいといくつもの光弾を二人に向けて放ちましたが、その全てを拳と蹴りで打ち消しました。
「あなたの相手は私です!!」
纏う物凄い力を受けて、身体の限界を感じた私は速攻で勝負を着ける為にユルゲイトが放つ光弾を拳で弾きながらユルゲイトに近付きます。
そして七色のオーラを纏った拳と蹴りでユルゲイトの身体にこびりついた赤黒い脂肪の様なものを削り取っていきます。
ユルゲイトの身体に浮かび上がった獣の顔も削り取り、ユルゲイトを元の状態へと戻しました。
元の状態へと戻ったユルゲイトはユルゲイトを覗き込む私に気付くと笑い出しました。
「···ふふふっ。···君はミーチェに似ているから殺さずに牢屋に入れていたが、失敗だったようだね」
「はい、私を捕まえた時に殺すべきでした。だけどあなたは殺さなかった。ミーチェ博士への想いがあったからです」
「···ふふっ、そうだね。···確かに君にミーチェの面影を見ていたよ。···でも僕はミーチェを蘇らせたかった。だから古代人の神であるアルジュナの封印を解いたが、アルジュナでも死人の蘇生は不可能だった。···だから、ミーチェの居ないこんな世界は壊れてしまえと思っていたんだけど、君に止められてしまった」
ユルゲイトの身体からまた赤黒い脂肪の様なものが溢れてきたので削り取りながらユルゲイトの言葉を否定します。
「いいえ、あなたを止めたのは私ではありません。ミーチェ博士です。ミーチェ博士は死に際にもしもユルゲイトが危険な行動をとるようなら止めて欲しいと私に言い残しました。だから私はあなたを止めました。止めたのはあなたが愛したミーチェ博士です!!」
私の言葉に驚いたのか、少しの間ユルゲイトは沈黙した後、口を開きました。
「···そうか、ミーチェが止めたのか。···じゃあ僕が止められたのも仕方ないか。···それなら早くとどめを刺すといい。···このまま放置すれば僕はまた異形の化け物になってしまうからね」
ユルゲイトは私の顔を赤黒い脂肪の欠片がついた右手で撫でながら優しく笑います。
そんなユルゲイトの胸を拳で貫きます。
「さようなら、お父さん」
「···あぁ、···さようならミーチェと···僕の愛しき···娘。···これで···ミーチェ···に会え···る」
ユルゲイトの瞳から光が消えて、身体の膨張も止みました。
私はビックバンのエンチャントを解くとその場に倒れてしまいました。
ビックバンのエンチャントの影響で身体が動かない中私の瞳から水が溢れてきます。
あぁ、これが涙か。
私は初めての涙で今悲しんでいる事が分かりました。
そんな私は涙を流しながら目を瞑り、父と母があの世で出会える事を祈りながら眠りにつきました。
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