第七話 セシル、キルハVS傭兵王


 ――セシル視点。


双剣を構える傭兵王バーン·マグナス向かって大剣を持ち上げながら駆けるキルハ。


 「喰らえ!! 豪斬流――鋼割!!」


 バーン·マグナスの頭上から放たれたキルハの一撃はバーンの双剣によって受け止められた。


 地面が陥没し、バーンの足は地面に埋まるが、バーンは楽々とキルハの一撃を受け止めたように見える。


 だがこれでバーンの双剣は封じられた。


 紫電を纏わせた俺はバーンの胴体に斬撃を放つ。


 だがバーンは、キルハの大剣を弾いた反動で後方へと身体を一回転させながら俺の一撃を避けた。


二人がかりで攻めているのにバーンは見事に躱し、双剣の連撃を俺に放ってくる。


 「我流双剣術――双乱牙!!」


 型に収まっていない乱れた剣の連撃は捌くのが難しく、深くはないがいくつか切り傷ができてしまう。


 「くっ、光迅流四の型応用技――雷光雨!!」


 紫電を纏った無数の突きを放ち、一旦距離をとろうとするが、バーンは俺が放った無数の突きを双剣で全ていなし、距離を縮める。


 まずい!! この距離は斬られる!!


 そう思ったが、キルハが大剣を下段に構えて地面を斬り裂きながらバーンに向かって振り上げた一撃に救われた。


 「豪斬流――豪斬烈波だっ!! ぶっ飛べぇぇえっ!!」


 土や石を一緒に舞い上げながら振り上げたキルハの斬撃をバックステップしながら双剣で受け止めようとしているが、衝撃に耐えきれず双剣の一本が折れる。


 今がチャンスだと二の型応用技――激雷迅をバーンの残った剣にぶつけ破壊する。


 これでバーンには振るえる武器がなくなった。


 だがバーンは笑っている。


 「くくっ、双剣が壊されちまったか。だが問題はねぇ。こうすればいいんだからな。エンチャントアクアブレイド!!」


 バーンがエンチャントの詠唱をすると、折れた剣先から水を魔力で固めた刃が生まれた。


 バーンは水の双剣を構える。


 「戦いはまだまだ続くぜぇ!!」


 バーンは叫ぶと離れた距離から水の双剣を振る。


 水の剣は伸び俺の首を斬り落とそうとするが、身をかがめて躱す。


 だが、水の剣は軌道を変えて俺の肩を斬り裂く。


 「ぐっ!? 何だこの動きは!?」


 水の剣は蛇の様に動いている。


 「くくっ、驚いたか? この技――水蛇剣は俺の奥の手だ。せいぜい藻掻きながら斬り刻まれるがいいぜ!!」


 バーンは笑いながら生きた蛇の様な水の剣を何度も振る。


 その度にキルハと俺の身体に傷ができていく。


 躱しているつもりなのに躱しきれずに斬られてしまう。


 苦戦していると、キルハが笑い出す。


 「ハハハッ!! それがお前の奥の手かバーン!! なら私も奥の手を出すぜ!!」


 キルハはそう言いながらルートヴィヒに斬られて見えなくなった右眼の眼帯を外す。


 すると無い筈の右眼が存在していた。


 「ハハハッ!! 錬金王と大賢者によって造られた私の新たな右眼だ!!」


 右眼を自慢げにバーンに見せるが、バーンは無表情。


 「右眼が見えるからってどうした? それで避けられる程俺の水蛇剣は甘くねぇぞ?」


 その通りだ。右眼が見えるようになっても水蛇剣を躱すのは難しい筈だ。


 なのにキルハは笑っている。


 「ハハハッ!! この右眼は只の右眼じゃない。錬金王と大賢者によって造られた人工魔眼だ。今その力を見せてやる!!」


 キルハが叫ぶと同時にキルハのオレンジ色の右眼に五芒星が浮かび上がり淡く光りだした。


 すると、さっきまで回避できなかった水の剣を簡単に躱し始めるキルハ。


 「何だその眼は!? 何で当たらねぇ!?」


 あまりに当たらずに苛立ったのかバーンは声を荒げながら水の剣を振りまくる。


 無規則に動く水の剣はやはりキルハには当たらない。


 もしかしてナギさんと同じ少し先の未来を見る事ができる魔眼か?


 だがキルハが言うには違うらしい。


 「この右眼の魔眼は通常は見えない筈の魔力の流れが見える。それによってお前が水の剣をどう動かすのか予測していたのさ。だからもうお前の奥の手は当たらねぇ!!」


 ナギさんの魔眼が未来眼なら、キルハの魔眼は魔見眼と言ったところか。


 キルハは魔見眼を使っているのか蛇の様な水の剣を余裕の表情で避けながらバーンへと迫り、大剣を振り下ろす。


 バーンはバックステップで避けようとするが、避けきれずに胸に大きな傷を作ってしまう。


 その際に胸元から紫の液体が入った瓶が転げ落ちる。


 エヴォルトだ。


 バーンはエヴォルトに視線を向ける。


 まさか飲む気か?


 だがバーンはエヴォルトの入った瓶を踏み潰す。


 「まさか飲むとでも思ったか? 俺は傭兵王だ。汚ない事や残虐非道な事もやって来た。それに率いた傭兵団もなくなったんだから傭兵王の名もあって無い様なものだ。だがそれでも傭兵王としての矜持だけは残っている。だからこんな薬には手を出さねぇし、お前らを倒して傭兵団を必ず再建する」


 傭兵王バーン·マグナスは口から血を吐きながらも身体から闘志を漲らせている。


 「ハハハッ!! 面白い!! バーン、お前のプライド気に入ったぜ!! セシル!! 全力でとどめを刺しに行くぞ!!」


 「おう!!」


 俺とキルハはバーンに向かって駆ける。


 バーンは水の剣を振り回すが、魔力の流れが見えているキルハの指示に従って躱す事に成功する。


 キルハは下段に大剣を構え、地面を斬りながらバーンに向かって大剣を振り上げる。


 バーンは前に出した左手を斬られる。


 バーンは苦痛の表情を浮かべながらその場から離れようとバックステップしたが、瞬歩で先回りしていた俺はバーンに向けて渾身の突きを放つ。


 「光迅流六の型応用技――瞬雷!!」


 紫電を纏わせた最速の突きはバーンの胸に大きな穴を空けた。


 バーンはよろめきながら自分の傷を見る。


 「ぐはっ!! はぁはぁ。ク、ククッ、これじゃあ助かりそうにねぇなぁ。···おいお前、名前は?」


 バーンは今にも倒れそうになりながらも踏ん張り俺の名前を聞く。


 「俺の名前はセシル、セシル·フェブレンだ」


 「···セシル·フェブレンか。確かに覚えた。···セシル、キルハ。この勝···負、お···前達の勝ち···だ」


 それがバーンの最期の言葉だった。


 傭兵王バーン·マグナスは死んだ。


 立ちながら死んだ。


 この男は残虐非道な事もしてきただろう。


 だが、この男の傭兵王としてのプライドは誇り高いものだった。


 俺はバーンの死体を寝かせた後、キルハと共に二万のクローン兵と戦っているナギさん達の所へと向かった。

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