第六話 錬金王VS地王


 ――錬金王パラケルト視点。


 「···戦うなら場所を変えよう。俺とお前が戦えばこの街の民まで巻き込みかねない」


 そう言って地王ガイツァーはオルファースト王国王都カルガニオの外へと向かおうとしている。


 私もガイツァーの意見に賛成だったのでガイツァーについていく。



 街から離れた草原にてガイツァーと向かい合う。


 「ガイツァー、あなたは相変わらず優しいのね。そんなあなたが何故アルジュナの仲間になったのね?」


 「···言っても仕方がない事だ」


 ガイツァーは地面に両手をかざしてガイアランスを無数に放ってくる。


 フライトアーマーを身に纏った私は空へと飛びガイツァーの攻撃を躱してミサイルを放つ。


 ガイツァーはダイヤモンドの壁を生み出してミサイルを防ぐ。


 「パラケルト、お前相手に手加減はいらんな」


 ガイツァーは両手を地面にかざして土や岩石を身に纏っていく。


 何かまずい気がしてミサイルを五発程放つが、ガイツァーが纏う土や岩石がミサイルの爆発を防ぐ。


 この瞬間にもガイツァーを中心にして土や岩石がくっついていく。


 ミサイルを放つが無意味だった。


 気付けば目の前には全長三十メートルは超えていそうな巨大ゴーレムが生まれていた。


 「···これが俺の本気だ!!」


 ガイツァーは巨大なゴーレムを操り、右腕で私に殴りかかる。


 動き自体は遅いので躱せたが、避けたと思った右腕の表面から岩の槍が生まれて無数に飛んでくる。


 岩の槍を避けながらミサイルを放つが巨大ゴーレムはびくともしない。


 ···この状況まずいな。


 ミサイルの数にも限りがあるし、このままフライトアーマーで戦っていてもこの状況は打開できないだろう。


 なら私も奥の手を出す。


 「ガイツァー!! それがあなたの本気だというのなら私も本気を出すのね!!」


 私は地面に降り立ち、フライトアーマーを収納して、前方に向かって両手をかざす。


 「来るのね!! メタルレオ、メタルエレファント、メタルイーグル、メタルゴリラ、メタルシャーク、メタルアリゲーター、メタルタイガー!!」


 私が叫ぶと前方に生み出した魔法陣から巨大な機械の動物達が出てくる。


 と同時に機械の動物達に取り付けたサウンドスピーカーから心を熱く滾らせる歌が聴こえ始める。


 私は熱き歌をBGMにして叫ぶ。


 「皆、超獣合体なのね!!」


 私の叫びで機械の動物達は変形し、合体する。


 メタルエレファントは胴体に、メタルタイガーは左足に、メタルアリゲーターは右足に、メタルゴリラは右腕に、メタルシャークは左手に、メタルイーグルは背中の翼に、そしてメタルレオは顔と胸に変形して合体した。


 合体せしその名は。


 「超獣機神ガンガレオなのねっ!!」


 私は全長約三十メートルの巨大ロボのコックピットに乗り込む。


 ガンガレオの両肩に装着されたサウンドスピーカーからガンガレオのテーマソングが流れる。


 『ガ〜ンガレオ、ガ〜ンガレオ、超獣機神ガ〜ンガレ〜オ〜!!』


 うんうん。ロボとしてもカッコいいし、歌も熱く魂を揺さぶる良い歌だ。


 私がガンガレオの出来に感動している中、ガイツァーが話しかけてくる。


 「···パラケルト!! 何だその奇妙なゴーレムは!! それに変な歌も流れているし、ふざけているのか!!」


 おやおや、ガイツァーにはこのガンガレオの魅力は伝わっていないらしい。


 そんなガイツァーは巨大ゴーレムを操り右腕でパンチを放ってくる。


 ならばこちらもパンチだ!!


 「ゴリラパンチ!!」


 巨大な拳と拳がぶつかり合い、激しい金属音が鳴る。


 ガイツァーが操る巨大ゴーレムは連続でパンチやキックを放ってくるが、こちらもパンチやキックを放って相殺させる。


 あちらのゴーレムさんはパンチやキックしか放てないらしい。


 ならこちらの力を見せてやる!!


  まずは拳をドリルに変形させて放つ。


 巨大ゴーレムの左腕がドリルパンチによって崩壊する。


 続いては左腕のシャークハンドから打ち出される巨大な水弾で巨大ゴーレムの頭部を破壊する。


 そしてとどめは胸のライオンヘッドの口から放たれる巨大ミサイル。


 「くらえ、ガンガキャノン!!」


 ガンガキャノンは見事ゴーレムの胸に着弾して胸の中心に居るガイツァーの姿をさらけ出させるが、地面から土や岩石が集まり、破壊した筈の左腕や頭部と一緒に修復されてしまった。


 「無駄だ。土や岩石がある限りこの巨大ゴーレムを倒す事は不可能だ!!」


 修復した左腕から放たれたパンチがガンガレオの胸にヒットする。


 しまった!! 大技を連発し過ぎてガンガレオに貯めていた魔力がなくなりかけている。


 ガンガレオの動きは鈍くなり、巨大ゴーレムのパンチやキックを喰らってしまう。


 そしてパンチやキックの衝撃のせいでメインエンジンが停止してガンガレオは動かなくなる。


 その間もゴーレムのパンチやキックの衝撃がコックピットに伝わってくる。


 「くっ、たかがメインエンジンをやられただけなのね!!」


 私はサブエンジン(私自身)に切り替えて魔力をガンガレオの身体全体に流していく。


 くっ、私の魔力じゃ少し動いただけで再びガンガレオは停止してしまう。


 だが少し動ければ!!


 私は再び動き出したガンガレオを巨大ゴーレムに抱きつかせる。


 そしてガンガレオを自爆させる為のボタンを押す。


 「さよならなのね。ありがとう、ガンガレオ」


 私はガンガレオに別れを告げてコックピットから脱出する。


 私はフライトアーマーを装着して上空へと飛翔して巨大ゴーレムとガンガレオから離れると、ガンガレオが巨大ゴーレムを巻き込みながら爆発する。


 最高傑作のロボットが爆発する様を涙を流しながら見た後、上空から地へと降りると、大人一人が入れそうな球状のダイヤモンドが爆発地点に存在していた。


 近付くとダイヤモンドの球は崩れ落ち、中からガイツァーが現れた。


 「···ぐっ、俺はまだ負けていない!! いや、負ける訳にはいかんのだ!!」


 ふらつきながらもガイツァーは私に向けてガイアランスを三つ放つ。


 それをフライトアーマーに積んでいるミサイルで相殺させる。


 「ま、まだだ!! まだ!!」


 魔力が枯渇しかかっている様に見えるガイツァーは魔力を絞り出しガイアランスを一つ生み出すが、それもミサイルで破壊する。


 魔力が枯渇したのか、次は素手で殴りかかってくるガイツァー。


 それを空中に飛んで躱す。


 私はガイツァーの必死な姿を見て再び聞きたくなった。


 「ガイツァー。何であなたはアルジュナの味方をするのね? 私は優しいあなたがそんなに必死になるまで味方する相手だとは思わないのね」


 「···お前に言っても仕方ない事だと言っただろ?」


 この言い方は好きでアルジュナの味方をしている訳じゃないと私には聞こえた。


 「嫌々アルジュナの味方をしているなら理由を話すのね。何か力になれるかもしれないのね」


 私がそう言うと、ガイツァーは少しの間沈黙した後に口を開いた。


 「···俺には一人娘が居る。妻が命懸けで生んだ子だ。俺にとっては命よりも大事な子だ。そんなあの子が不治の病に罹った。世界中の医者に見せたが、どの医者にも治せなかった。そこにユルゲイトが現れた。ユルゲイトにも治す事はできないらしいが、病状を緩和し、病の進行を止める事は可能だと処置してくれた。娘は以前より元気になり、外を駆け回る事も出来るようになったんだ。アルジュナの味方をすれば、このまま娘の病状を緩和し、病の進行を止めてくれるとユルゲイトは約束してくれた。···だからアルジュナがどんなに下劣な事をしたとしても俺はアルジュナとユルゲイトの味方だ。それは絶対に変わらない」


 ガイツァーから並々ならぬ気迫を感じる。


 この男は今ここで死ぬつもりなのかもしれない。


 だがそんな事はさせない。


 「ガイツァー。ユルゲイトでさえ治せないのならその病気は確かに不治の病なのね。でも私という人間が今まで数々の魔道具を生み出し、不治の病と言われていた病気の薬を発明した事も知っているでしょ?」


 「だからお前が薬を開発するまで待てと? その間に娘は死ぬかもしれない!!」


 「それは大丈夫なのね。娘さんにはコールドスリープしてもらうのね。その間は病も進行しない。その間に必ず薬を作るのね」


 「···薬を作れる保証など何処にもない。ユルゲイトは確かに病状を緩和させて病の進行を止めてくれた。でもお前を信じられるものがない」


 「ならこの命を賭けるのね!! 娘さんの病気を治せなかった時は、娘さんと共に死ぬのね!!」


 ガイツァーは私の言葉に目を開く。


 「な、何でそこまでする!? そんな約束などしなくても今の俺は簡単に倒せる筈だ!? 何故他人の為に命を賭ける!?」


 「それはあなたが苦しそうだからなのね。あなたはずっと戦っている間辛そうな表情をしていた。そんなあなたを辛さから開放してあげたいと思ったのね。それに私は私の手が届く相手なら救いたい。ただそれだけなのね」


 ガイツァーは私の話を聞いて地に膝をつく。


 「···本当に娘を助けてくれるのか?」


 「うん。例え何年、何十年かかろうと必ず救うのね。だからもう嫌な事はしなくてもいいのね」


 ガイツァーは地面に涙の粒を落とす。


 「···俺の負けだ。どうか、どうか娘を助けて欲しい」


 涙の粒をいくつも地面に落としながらガイツァーは私に頭を下げる。


 そんなガイツァーの肩に手を置き頷く。


 「うん、必ず救うのね!!」


 泣きながらも憑き物が落ちたかの様な表情をしているガイツァーに誓う。


 必ず治すと。

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