第三話 聖王、断絶王VSベヒーモス


 ――対アルジュナ連合軍所属ガラルホルン軍指揮官ランクル中将視点。


 私が率いるガラルホルン軍とシンセリア教国軍とフランツェル王国軍は陸を進む対アルジュナ連合軍の後方を任されていたのだが、上空に現れたアルジュナと同時に突如現れた黒い大きな牛の様なモンスターが暴れ回り混乱に陥っている。


 あ、あの巨体に牛の様な姿。


 まさか遥か昔から存在すると言われている伝説のSSSモンスターベヒーモスか!? 


 それが事実なら後方軍は壊滅してしまうかもしれない。


 私と同じ様にあのモンスターがベヒーモスだと気付いた者達が悲鳴を上げ、混乱に拍車をかける。


 そんな混乱の中、シンセリア教国の指揮官を務めているシンセリア教国教皇にして十二星王の一人でもある聖王ティルピッツ·パスティークとフランツェル王国所属の十二星王である断絶王ヨハン·クロムウェルがベヒーモスの前に出る。


 おぉ、そうだ。我ら後方軍にはあの二人が居た。


 あの二人ならベヒーモスを倒してくれる筈。


 私は混乱に陥っている軍を立て直しながら二人の戦いを見守る事にした。



        ◆◆◆



 ――聖王ティルピッツ·パスティーク視点。


 このモンスターがかの伝説のベヒーモスですか。


 ふむ、やはり手強そうですね。


 ベヒーモスを観察していると、そのベヒーモスに敵として認識されたみたいで私目掛けて突進してきました。


 私は聖属性最上級防御魔法アイギスを展開しようとしましたが、その前に頼りになるお方が来られたので任せる事にしました。


 「動きを封じよ、断糸結界!!」


 そのお方はベヒーモスを魔力を流した極細の鋼糸で縛り動きを封じました。


 「ヴォオッ!? ヴォォォォオッ!!」


 ベヒーモスは暴れますが暴れる程鋼糸はベヒーモスの身体に食い込みます。


 私は見事な技に思わずその場で拍手をしてしまいました。


 そんな私に見事な技を披露してくれたお方が丁寧なお辞儀をしてくれます。


 「ティルピッツ教皇猊下、余計な手出しだとは思ったが、ベヒーモスを拘束させてもらった」


 「いえいえ、助かりましたよヨハン殿」


 私に向かって頭を下げている焦げ茶色の癖毛が特徴のお方こそ私と同じ十二星王である断絶王ヨハン·クロムウェル殿です。


 このベヒーモスは中々厄介そうですが、ヨハン殿と一緒ならこの老いぼれでもなんとか倒せそうです。


 「では早速仕留めると致しますか」


 私は無詠唱で聖属性最上級魔法レヴァンティンを三つ程ベヒーモスに放ちます。


 三つのレヴァンティンがぶつかった衝撃で突風が起こり、地面には大きな亀裂が入ります。


 ですが土煙が薄れて見えたベヒーモスの身体にはかすり傷さえついていません。


 「まさか、レヴァンティンを喰らって無傷とは。···鋼さえバターの様に切り裂くヨハン殿の鋼糸でも傷がついていないのを見ると、ベヒーモスの毛皮は相当硬いようですね」


 「あぁ、鋼糸に魔力を込めているが断ち切れん。こうなると俺には攻撃手段がない。教皇猊下には何か奴を倒せる手立てはあるか?」


 分厚く硬い毛皮を持ったベヒーモスを倒せる手段。

 無いわけではありません。


 「···あるにはあります。ですが、数分の時間を要します。その間あの怪物の相手をしてもらってもいいでしょうか?」


 ベヒーモスは赤黒い魔力を身体から放ち始めてヨハン殿の鋼糸をちぎり、鋼糸の結界から抜け出そうとしています。


 その様子を見てもヨハン殿は冷静に答えます。


 「あぁ、数分ならば奴の相手を引き受けよう」


 そう言ってヨハン殿は赤黒いオーラを纏うベヒーモスに鋼糸を飛ばします。


 ベヒーモスの相手はヨハン殿が引き受けてくれると言ってくださいました。


 なら私はベヒーモスを倒す為の秘技の準備をするとしましょう。


 後方に控えている私の部下である聖騎士二千名は皆聖属性の魔法が使えます。


 そしてその聖騎士達には私が着けているネックレスと同じ物を着けさせています。


 これは錬金王パラケルトスミスが作り出した聖騎士達と意思伝達がとれる魔道具です。


 ネックレスに魔力を込めて後方に控える聖騎士達に集団ユニゾン魔法を放つ事を伝えます。


 そしてネックレスに魔力を込めながら詠唱を開始します。


 すると後方に控える聖騎士達の詠唱も聴こえてきました。


 この魔法はあまりにも複雑な為、最上級魔法を無詠唱で放てる私でも部下と共に長い詠唱をする必要があります。


 そしてこの魔法はとんでもなく魔力を消費します。


 放った後は人よりも多くの魔力を持つ私でも枯渇状態になる程です。


 ですが、この魔法でならベヒーモスを確実に討てると確信しています。


 そんなただならぬ魔法を私が放とうとしてる事に気付いたのか、暴れ回るベヒーモスが私に突進してこようとしますがヨハン殿が鋼糸でベヒーモスを拘束します。


 「永遠の牢獄となれ、鋼糸球!!」


 ベヒーモスに鋼糸が幾重にも絡みつき大きな球状となりました。


 ベヒーモスが暴れているせいか、鋼糸の球は揺れますが、破れる事はありません。


 ヨハン殿がベヒーモスの動きを封じてくれたおかげで集団ユニゾン魔法の詠唱も終わりそうです。


 詠唱が進むにつれ私と二千名の聖騎士達の魔力は遥か上空へと飛んでいきます。


 『『『おぉ、極光の射手よ!! 大いなる女神よ!! 絶対なる極光を放ちたまえ!!』』』


 上空へと集まった膨大な魔力が極光なる一矢となって敵を滅ぼします。


 その魔法の名は。


 『『『アルテミス!!』』』


 遥か上空に溜まった膨大な魔力が極光となってベヒーモスに降りかかる瞬間鋼糸球を解除したヨハン殿。


 「ヴォォォォォオッ!?」


 突如天から降ってきた極光に身を焼かれ悲鳴を上げるベヒーモス。


 ですが悲鳴も一瞬で途絶え、光の柱の中に消えていくベヒーモス。


 天からの一撃は凄まじくヨハン殿が鋼糸で盾を作ってくれなかったら私は衝撃波で飛ばされていたでしょう。


 少しの時が経ち、光の柱が消えるとベヒーモスが居た場所には大きな穴が空き、ベヒーモスは完全に消滅していました。


 ふぅ〜。流石に身体がふらつきます。


 老体の身体には魔力枯渇の状態はきついものです。


 しかし、これで危機は去った···と思ったのですが、突如現れた黒い渦からいくつもの獣の顔がついた異形のモンスター群が現れました。


 「教皇猊下、まだまだ休めそうにないな?」


 「はい、その様ですね」


 私は魔力回復薬を飲みながらヨハン殿に応えます。


 二人で苦笑いを浮かべながら異形のモンスター群を見つめます。


 さて、もう一踏ん張り致しましょうか。

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