第四話 炎王の最期


 ――対アルジュナ連合軍総司令官クルト視点。


 オルファースト王国に向けて軍を進行させていると、突如上空にアルジュナの姿が現れた。


 そのアルジュナが姿を消すと、前方に黒い渦が出現し、そこから炎王バルバドスが出てきた。


 俺は今すぐにバルバドスを殴りたい衝動を抑え、全軍に命令する。


 「全軍進軍止め!! 今から炎王バルバドスとの戦闘に入る!! 前方の兵士は盾を構え防御体勢をとれ!! 後方の兵士は弓や投石機などの遠距離武器で攻撃!! 第一魔法師団は前方の兵士達の前に防御魔法を展開!! 第二、第三魔法師団は遠距離攻撃をバルバドスに放て!!」


 矢や巨石や魔法がバルバドスに向かって放たれる中、元々軍の前方に居た俺は、命令した後バルバドスに姿を見せつける様に前へと出る。


 「会いたかったぞ、バルバドスッ!! テルナー兄上を利用したお前は俺が倒すっ!!」


 バルバドスは蒼炎で矢や巨石や魔法を打ち消しながら俺に満面の笑みを向ける。


 「これはこれはクルト皇子!! 久しぶりだな!! あんたは中々イジメがいのある弱者だったからまた痛めつけたいと思っていたんだ!! ところでテルナーってのは誰だ?」


 バルバドスの言葉に怒りが込み上がってくる。


 俺は我慢ができずに上級風魔法サイクロンをバルバドスに放つが、簡単に打ち消されてしまう。


 「くはははっ!! 雑魚が群れて攻撃してきた所で雑魚の攻撃は雑魚の攻撃だ!! 俺様に傷なんてつけられねぇよ!! だが群れれば勝てるとでも思っているお前らが気に入らねぇ!! だから絶望ってやつを弱者でしかねぇお前らに見せてやるぜ!!」


 バルバドスの叫びとともにバルバドスの身体から蒼炎が噴き上がり、バルバドスの身体を包んでいく。


 バルバドスを包んだ蒼炎は人の形になる。


 そして体長十メートルはありそうな炎の魔人が目の前に現れた。


 「くはははっ!! これが炎王バルバドス様の本気だ!! この状態になった俺様の炎は全てを焼き尽くすぜ!!」


 炎の魔人と化したバルバドスは兵士達に向かって蒼き炎弾を放つ。


 「爆ぜろ!! 蒼爆炎弾!!」


 防御魔法に守られた兵士に着弾した炎弾は爆発し、防御魔法ごと何十人もの兵士を吹き飛ばす。


 くっ、あの炎弾は危険だ。着弾させてはならない。


 炎弾が着弾する前に矢や魔法を当てて爆発させるが、炎の魔人は無数の炎弾を生み出す。


 「この炎弾すげぇだろ? だが驚くのはここからだ!! 全てを爆散せよ!! 蒼爆炎弾雨!!」


 無数に生み出された爆発する炎弾が雨の様に降ってくる。


 駄目だ。この数は捌ききれない。


 だが、味方の兵士や俺に炎弾は着弾する事なく、空中で全て爆発した。


 な、何だ!? 何が起こった!?


 空中で大爆発が連発する中、軍の後方から黒い矢が炎弾に当たるのが見えた。


 あの黒い矢は見た事がある。


 確かルートヴィヒと十二星王の座を争ったハルケーが放っていた黒い矢だ。


 その予想は当たっていたらしく、後方から俺の横にハルケーが現れた。


 「遅れてすまない。後方のガゼット皇国軍から駆けつけるのに手間取った。だが、ここからは俺がバルバドスの相手をする」


 ハルケーは弓を構え、黒き魔力でできた矢を炎魔人と化したバルバドスに放つ。


 その矢を炎の腕で薙ぎ払い笑い声を上げるバルバドス。


 「誰が俺様の攻撃を邪魔したのかと思ったら、十二星王になれなかった弱い弱いハルケー君ではないか。そんなお前が十二星王である俺様の相手をする? これは笑えるぜ!!」


 笑いながらも爆発する炎弾を放ちまくるバルバドスだったが、全ての炎弾に矢を当てるハルケー。


 「確かに俺は十二星王にはなれなかった。だがお前を倒せば俺は十二星王になれるだろ? だから問題ない」


 表情を崩す事なく炎弾を黒い矢で相殺させるハルケーの言葉にバルバドスは笑うのを止める。


 「おい、誰が誰を倒すって? ···この俺様がお前ごときに倒される筈がねぇだろ!!」


 バルバドスの怒りに同調しているのか蒼き炎の魔人から更に炎が噴き上がる。


 そんな炎の魔人にハルケーは無数の黒き矢を放つが全てが燃やされてしまう。


 一方で炎の魔人から無数に生えた炎の腕がハルケーを襲う。


 黒き矢で炎の腕を打ち消すが、すぐにまた生えてくる。


 どうもバルバドスの方が押している様に見える。


 このままではまずい。


 それにバルバドスを倒すのは俺でありたい。


 俺は軍に所属する魔術士全てに命令する。


 「火魔法を放てる魔術士は今すぐバルバドスに向けて火魔法を放て!! 水魔法を放てる魔術士は俺が合図を出したら各々が放てる全力の水魔法を放ってくれ!! そして残った魔術士達はバルバドスに水魔法がぶつかる瞬間に全力で軍の前方に防御魔法を張ってくれ!!」


 俺の命令に即座に反応してくれた火属性に適応がある魔法士はバルバドスに向けて火魔法を放ってくれる。


 俺も上級火魔法フレアをバルバドスに放つ。


 バルバドスは笑いながら俺達の火魔法を浴びる。いや、吸収する。


 「くはははっ!! クルト皇子!! 俺様にとって火はエネルギーにしかならねぇ!! 敵をパワーアップさせるとは愚かだな!!」


 確かにバルバドスの纏う炎の勢いは増している。


 だがこれでいい。わかっていて火魔法を放ったのだから。


 前に世界魔法学院大会でステラと戦ったイレーヌとやらが高温の火魔法に水魔法を当てて大爆発を起こしていた。


 それを真似するのだ。


 これだけの高温状態のバルバドスに大量の水をぶつければイレーヌとやらが起こした大爆発など比ではない大爆発が起こる筈。


 大爆発が起こる事を信じて命令する。


 「今だ!! 水魔法放て〜!!」


 俺が手を上げながら合図すると、後方から水魔法がバルバドスに向かって放たれる。


 そして大爆発は起こった。


 命令通りに魔術士達が防御魔法を瞬時に張ってくれたおかげで大爆発に巻き込まれずに済んだが、大爆発で周囲の木々は吹っ飛び、防御魔法にも亀裂が入る。


 爆発の発生源となったバルバドスもこれだけの大爆発を受けてはただではすまないだろう。もしかしたら跡形も無く消えてしまっているかもしれない。


 爆発が止み、白い蒸気が薄れ始めたので、爆発の中心へと向かう。


 すると、ぼろぼろに傷つきうずくまっているバルバドスを発見した。


 驚いた。あの爆発を受けて原形をとどめているなんて。


 意識もあるらしく俺が近付くとふらつきながらも立ち上がった。


 「い、今のは何だ? な、何で俺様が傷ついている? き、貴様の仕業かクルト皇子!!」


 バルバドスの左足と右手があらぬ方向を向いている。


 身体中から出血もしていて瀕死状態と言える。


 そんなバルバドスは後ずさりながら俺を睨む。


 「あぁ、そうだ。この大爆発は俺が起こした。お前が雑魚と馬鹿にしていた皆の力を借りてな」


 テルナー兄上を殺す原因を作ったバルバドスを殺してやりたい程憎んでいた筈なのに今のバルバドスを見てしまえばそんな気持ちも薄れた。


 だが、ここで殺さなかったとしてもどの道法の裁きを受ければバルバドスは死刑だ。


 ならここで殺してやるのも情けだ。


 「···言い残す事はあるか?」


 「い、言い残す事だと? お、俺様を殺す気か? じ、弱者である筈のお前が?」


 「あぁ、そうだ。弱者と馬鹿にしていた俺にお前は殺されるのだ」


 俺は杖に魔力を込める。


 「ふ、ふざけるなぁ!! お、俺様がお前なんかに負ける筈がねぇ!! で、出ろよ炎!! な、何で出ねぇんだよ!!」


 魔力が枯渇している状態なのだから炎を出せるはずもない。


 そんなバルバドスを哀れに思いながら俺は杖をバルバドスに向ける。


 「さよならだ、バルバドス」


 「う、嘘だ嘘だ嘘だぁ!! 俺様がこんな所で死ぬ筈がねぇ!!」


 バルバドスは左足を引きずりながら逃げようとする。


 だが、この距離なら風魔法で簡単に首を刎ねられる。


 必死に逃げようとするバルバドスに風魔法を放とうとするが、突如黒い渦が前方に出現した。


 その黒い渦から獣の顔をいくつもつけた異形のモンスターが次々と出てくる。


 そんなモンスターを見てバルバドスは笑みを浮かべる。


 「は、ははっ。さ、流石はアルジュナ様だ。お、俺様の危機にキメラ兵を送ってくれるとは!! さ、さぁ、あいつらをせんめ···え?」


 バルバドスはキメラ兵と呼んだモンスターに仲間の様に近付くが、異形のモンスターはそんなバルバドスに噛みつく。


 「ぐぁぁぁぁあっ!? な、何でだ!? 俺様は仲間だぞっ!? な、何で!? く、来るな来るな来るなぁぁぁあっ!!」


 異形のモンスター達はバルバドスに群がりバルバドスを只の肉の塊へと変えていった。


 モンスター化したテルナー兄上に似たモンスターに殺される最期とは。


 バルバドスの最期を哀れに思いながらも俺は現れた異形のモンスター群を討伐するべく軍の指揮に戻った。

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