第三十五話 再会


 皆が来てくれた事により、勝利への道が見えてきた。


 イルティミナ先生は戦う相手を確認すると、僕らに向かって叫ぶ。


 「ルートヴィヒはアルジュナの相手をするべさ!! 私はユルゲイトの相手をする!! パラケルトは地王ガイツァーの相手を!! 闘王の相手はヨルファング。炎王の相手はナギとチェルシー!! 傭兵王はセシルとキルハ!! それぞれの戦いに集中するべさ!!」


 イルティミナ先生の指示に皆頷き、指示通りの相手と対峙する。


 傭兵王と対峙するのはセシルとキルハ。


 「俺の相手はガゼット皇国の狂牙キルハと名も知らねぇ小僧か。狂牙はともかく、こんな小僧が相手とは随分と舐められたもんだなぁ?」


 傭兵王バーン·マグナスはどうもセシルの事を過小評価しているらしい。


 「戦いが終わる頃には俺の名前を知りたくてしょうがなくなっているだろうさ」


 傭兵王に馬鹿にされているにも関わらずセシルは冷静だ。


 傭兵王とセシルが視線をぶつける中、キルハが大剣を持ち上げ駆ける。


 「傭兵王勝負だぁぁあっ!!」


 キルハの身長以上の長さの大剣が傭兵王を襲うが、双剣で軽々といなす。


 だがその隙にライトニングをエンチャントしたセシルが紫電を纏わせながら傭兵王の背後に回り込み紫電を纏った剣で背中を斬り裂こうとする。


 咄嗟に傭兵王は横に飛びセシルの剣を躱すが、少し掠ったのか、左脇腹から血が出ている。


 「この野郎!!」


 傭兵王はセシルを睨むがセシルは冷静に笑う。


 「小僧だと油断しているからそうなる」


 「上等だ、こらぁぁあっ!!」


 傭兵王とセシルが激しく剣をぶつけ合う。


 「おいおい、俺が居るのも忘れんなよっ!!」


 セシルとの斬り合いで傭兵王に隙ができた所をキルハが突く。


 今の所セシルとキルハが有利に見える戦いだ。



 少し離れた所で炎王とナギさん、チェルシーも戦っている。


 「ほぉ〜、魔眼使いと魔術師の嬢ちゃんが俺様の相手かぁ。痛ぶりがいがありそうな二人だなぁ」


 炎王はナギさんとチェルシーを見て舌なめずりをする。


 そんな炎王バルバドスを気持ち悪そうに見つめるチェルシーだが、ナギさんは気にする事もなく炎王に斬りかかる。


 炎王は蒼炎を放つが、未来視出来るナギさんは余裕で躱して斬撃を放つ。


 「シジマ流水面斬り!!」


 ナギさんの抜刀術は炎王を斬ったかに見えたが、炎王が身体に纏わせている蒼炎を斬っただけだった。


 「俺様を斬ったかと思ったか? 甘いねぇ。しばらく俺様の陽炎炎舞で踊っているがいいさ!!」


 炎王が指を鳴らすと、十人の炎王が現れる。


 姿形は全く同じで見分けがつかない。


 「くっ、とりあえず斬るのみです!!」


 ナギさんが斬り込むけど、斬った炎王は炎へと変わる。そして新たな炎王が一人現れる。


 「くはははっ、その魔眼じゃ炎でできた俺の分身と俺の見分けはつかないらしいなぁ? じゃあ、楽しませてもらうとしますか!!」


 炎王が手をナギさんとチェルシーに向けると、炎王の分身達も同時に手を向ける。


 「喰らい焼き尽くせ、蒼炎蛇!!」


 十一人の炎王が蒼炎の蛇を生み出し放つ。


 分身も攻撃できるのか!!


 無数の炎の蛇がナギさんとチェルシーを襲うかに見えたが、チェルシーの最上級闇魔法ダークネススフィアによって蒼炎の蛇達は一瞬で消滅する。


 「何だぁ小娘? お前最上級魔法が使えるのかよ」


 自分の技が簡単に無効化されたのが悔しいのか不機嫌そうな表情でチェルシーを睨む。


 「···ナギ、僕があいつの攻撃は全て防ぐ。だからナギは防御なんて考えずに攻めだけを考えて」


 「わかりました!!」


 チェルシーの言葉に頷いたナギさんは炎王に突っ込んでいく。


 「チェルシーさん、チェルシーさんから見て左から攻撃、二秒後に私の右斜め前方から攻撃、その三秒後に私の後方から攻撃です!!」


 「了解!!」


 チェルシーはナギさんが言った位置にアイギスを展開していく。


 すると炎王の攻撃全てを完全防御する事に成功した。


 その間にナギさんは炎王の分身を斬り裂いていく。


 その様子を見てますます不機嫌になる炎王。


 炎王は分身を解除し、ナギさんとチェルシーを睨む。


 「未来視の魔眼の嬢ちゃんと最上級魔法を使える嬢ちゃんか。あぁ、俺は弱い奴を痛ぶるのが好きなんだ!! それなのにいっちょ前に抵抗なんかしてるんじゃねぇっ!!」


 炎王の身体から蒼炎が噴き上がる。


 ···炎王との戦いはこれからが本番みたいだ。



 イルティミナ先生とユルゲイトは壮絶な魔法の打ち合いをしており、パラケルトさんは、空飛ぶ機械の鎧を着て地王ガイツァーと戦っている。


 闘王とヨルファングさんの戦いは拳をぶつけ合う度に物凄い衝撃波を生み、謁見の間の壁や地面や天井に亀裂が入っている。


 闘王はヨルファングさんと戦えて嬉しそうにしている。


 皆が奮戦している中僕はというと、アルジュナの見えない攻撃を避けながら、駆けるスピードを上げていた。


 あの見えない壁を打ち破るには最速の瞬光でないといけないと判断したのだ。


 そろそろトップスピードに達する。


 くらえ、これがお前を倒す一撃だ!!


 「光迅流六ノ型瞬光!!」


 最速の突きが見えない壁にぶつかり激しい衝撃音が鳴る。


 やはり硬いが、それでもこの突きなら打ち破れる、いや、打ち破る!!


 白いオーラを纏いし剣が少しずつだがアルジュナに近付いていく。


 見えない壁を貫通したのだ。あとはアルジュナを貫くだけ!!


 その時アルジュナは悲しそうな表情で僕に囁く。


 「お兄ちゃん、私を殺すの?」


 ステラの身体でステラの声でステラがしそうな表情で囁いたのだ。


 それに対して僕は動揺などせず、むしろステラを騙ったアルジュナに対して怒りが溢れていた。


 「ステラを演じるかアルジュナァァァアッ!!」


 更に剣に魔力を込めて見えない壁を完全にぶち破り、アルジュナの胸を刺し貫き、後ろの壁まで貫いた。


 今アルジュナを剣で壁に刺し止めている。


 アルジュナは口から血を大量に吐きながらも僕に笑みを向ける。


 「ぐふっ。この身体の記憶を読み取って再現したのに似ていなかったかしら?」


 「似ていたよ。似ていたから僕の怒りを買ったんだ」


 「ふふっ、そっか。だけどもう勝ったつもりなのかしら?」


 そう言いながらアルジュナは剣を手で握る。


 その握る力はとても瀕死の状態とは思えない。


 まずい!!


 僕は剣を引き抜き、咄嗟に後方へと飛び下がる。


 すると僕の居た地面は陥没する。


 な、なぜだ。確かに致命傷を与えた筈だ。


 僕が疑問に思っていると、アルジュナの胸の傷が物凄いスピードで治っていく。


 「なっ!? 何で!?」


 僕の動揺が面白いのか笑いながら疑問の答えを教えてくれるアルジュナ。


 「ふふっ、忘れたの? 私にはダンジョンマスターの力がある事を」


 ダンジョンマスターの力? ···まさか!?


 「ふふっ、分かったみたいね。この王宮は私の力でダンジョン化しているの。そしてダンジョンマスターは管理しているダンジョン内だと不死身になれる。つまり今の私は不死身。きゃはははっ!! 残念ね。この場では私には勝てないわよ?」


 くっ、ダンジョンマスターの力を忘れていた。


 一番危険な力なのに。


 どうする? この現状をどう打開する?


 アルジュナの攻撃を躱しながら思考していると、闘王を壁の向こう側に吹き飛ばしたヨルファングさんがアルジュナに赤き拳圧を飛ばす。


 赤き拳圧はアルジュナの見えない壁を破壊し、アルジュナの身体を壁へと叩きつける。


 何発もの赤き拳圧を受けてアルジュナの身体は飛び散り、原型を完全になくした。


 それなのに肉片が動き集まり肉塊となり、アルジュナの身体は元に戻った。


 「ちっ、駄目か」


 ヨルファングさんが再生したアルジュナを睨む。


 「ふふっ、無駄だと言ったでしょ? 今の私は無敵!! 何人たりとも倒せはしない!!」


 アルジュナは勝利を確信したかの様に高らかに笑う。


 気に食わないけど、確かに今のアルジュナには勝てそうにない。


 一度撤退するかと考えていると懐かしい気配が後方からする。


 「レヴァンティン!!」


 懐かしい気配を感じると同時に後ろから最上級聖属性魔法が放たれた。


 レヴァンティンがアルジュナの見えない壁を破砕する音が聴こえた。


 レヴァンティンを放ったのはイルティミナ先生でもチェルシーでもない。


 二人とも別の相手と戦っている。


 じゃあ誰だと動揺するが、後方からの声が僕を動かす。


 「今がチャンスよ!! アルジュナを斬って!!」


 言われるがままに僕は疾走し、僕に攻撃を放とうと突き出したアルジュナの右手を斬り飛ばす。


 アルジュナは再生されるのを確信して余裕の表情をしていたが、いつまで経っても再生しない。


 「くっぁぁぁあ!? 何故再生しないの!? 私は不死身の筈よ!?」


 余裕の表情を崩し、動揺を隠せないでいるアルジュナに後方に居るであろう懐かしい人物は話しかける。


 「ここのダンジョン化なら私のダンジョンマスターの能力で相殺したわ。だから今のあなたは不死身ではないの」


 後方から懐かしい気配が近付いてくる。


 「お前は誰!? 私以外にダンジョンマスターの能力を使える者は居ない筈よ!?」


 「私? 私が分からないのアルジュナ?」


 懐かしい気配はとうとう僕の横に来た。


 仮面を被っているけどわかる。


 身体も前よりも大きいし、声も大人びているけど、間違いない。


 僕は嬉しさで身体を震わせてしまう。


 「私はあなたに身体を奪われた者。ステラよ!!」


 仮面を外したステラの顔は随分と大人びているけど間違いない。ステラだ!!


 アルジュナが驚愕の顔でステラを見つめている中、ステラは僕に満面の笑みを向けてくれる。


 「ただいまお兄ちゃん!! 遅くなってごめんね!!」


 ステラは笑顔で僕に抱きついてくる。


 そんなステラを泣きながら僕は抱きしめる。


 「お帰りステラ。待ってたよ」


 僕とステラはやっと再会できた。

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