第三十三話 ピンチ!!


 ディスタの街を出て魔導自動車を走らせる事二週間。


 二年前に起きた戦争で、傷ついた国もだいぶ復興している事がわかった。


 そしてついにオルファースト王国の目の前まで来た。


 ここからは敵地。


 偵察が任務なので、敵にバレない様にオルファースト王国内に入りたい。


 そう思いながら国境にあるオルファースト王国の砦を見るけど、兵士の姿がない。


 僕達は警戒しながら砦を探るけど誰もいない。


 「どういう事でしょう。兵士が一人も居ない」


 「う〜ん、嫌な予感がするべさ。とりあえず慎重にオルファースト王国内を進むべさ」


 僕達は砦から出て先へと進む事にした。


 魔導自動車で草原を進み、町や村の前に着くと、降りて村や町の中を確認するけど、人の気配が全くない。


 村や町は人が居なくなって半年程経っている様に見える。


 家の中を確認すると埃が積もり、蜘蛛の巣ができていた。


 約二年前に戦争があったとはいえ、オルファースト王国には三百万の民達が居た筈だ。


 だが今の所全く人を見ていない。


 まさかアルジュナはオルファースト王国内の人間を選別したのか?


 嫌な考えが頭に浮かび上がりながらも僕達はアルジュナが居るであろう王都カルガニオを目指す。


 王都カルガニオに近付くにつれ、人型の奇妙なモンスターが現れ始めた。


 このモンスター達はネオエヴォルトを飲まされたテルナー皇子の姿に似ている。


 まさかこのモンスター達は全員元はオルファースト王国の人間!?


 襲ってくる異形の人型モンスターを倒しながら王都カルガニオに着くと、カルガニオの外で死んだ魚の様な目で立っている大勢の人々を発見した。


 その数約三十万。何故外に立たされているのか疑問だったので、慎重に近付いて話かけるけど、全く反応しない。顔は青白くまるで死体が立っている様に見える。


 この者達が何なのか気になるけど、とりあえずカルガニオの中に入る事にした。


 門の前には古代人のクローンが二人立っている。


 流石にここは警備されているか。


 僕は透明マントを纏い、一人でカルガニオ内を偵察する事にした。


 中に入ると、人間は居た。皆店を開いていたり、買い物したりしている。だが活気はなく、皆が暗い表情をしている。兵士は居らず、クローン達が街を巡回している。


 生活する為の最低限の人間は残しているといった感じだ。


 僕は奥へと進み、王宮へと向かう。


 王宮の前にもクローンが五人程居たけど、透明マントでバレていないので、王宮の奥へと進む。


 すると謁見の間に複数の人の気配を感じる。


 息を殺し、足音を消しながら謁見の間に入ると、玉座にはステラ、いやアルジュナが座っており、右横にはユルゲイト、左横には傭兵王が立っている。


 アルジュナと対面しているのは、十二星王の炎王、闘王、地王。


 「ユルゲイト、よくぞ三十万のキメラ兵を造ったわね」


 「いえ、実験体が三百万もいたのに十分の一しか成功作が造れませんでした」


 ユルゲイトは申し訳なさそうにアルジュナに向かって頭を下げる。


 「いいのよユルゲイト。あのキメラ兵一人でSSモンスターと同じ位の強さを持っているのだから上出来よ。それに私のクローン達も二万は居るのだしこれで私に逆らう者達を殲滅できるわね。褒めてあげるわユルゲイト」


 アルジュナに褒められたユルゲイトは感激で身体を震わせている。


 「ありがたき幸せ」


 嬉しそうに頭を下げるユルゲイトを無視して炎王がアルジュナに話しかける。


 「それで? 戦力はこれだけなんですかい? あっちには十二星王が九人居るんだ。まだまだ戦力が欲しい所なんですがね」


 「ふふっ、戦力なら私のペットがいるわ」


 「ペット?」


 「えぇ、古代で飼っていたリヴァイアサン、ベヒーモス、アジ·ダカーハっていう私の可愛いペットなのだけれど、三体ともとてつもなく強いのよ」


 自慢げに語るリヴァイアサン、ベヒーモス、アジ·ダカーハはどれもSSSモンスターに指定されているモンスターだ。


 炎王は目を丸くした後、大声で笑う。


 「ハーハッハッハッ。最古のSSSモンスター三体がペット? ハハッ、やっぱりあんたについて良かったぜアルジュナ様」


 「そう? 私もあなたが私の配下に加わってくれて嬉しいのよバルバドス」


 アルジュナはバルバドスに妖艶な笑みを向けた後、見えていない筈の僕に視線を向ける。


 「ところでさっきから盗み聞きをしているあなたは誰かしら?」


 アルジュナは笑いながら僕に手を向ける。


 まずい!!


 僕は瞬時にその場から飛び退く。


 すると僕の居た場所の地面が陥没した。


 僕自身は無傷だったけど、アルジュナの攻撃で透明マントが外れてしまった。


 「おいおい、迅王だと?」


 「わぁ〜、ルートヴィヒじゃないか!!」


 炎王は驚き、闘王は喜んでいる。


 まずい状況だ。


 一先ずペンダント型の通信機に魔力を込めて、外の皆を呼ぶ事にした。


 『申し訳ありません、王宮の謁見の間でアルジュナ達に見つかってしまいました。一人では脱出困難なので助けに来てもらってもいいですか?』


 『わかったのね!! すぐに向かうのね』


 通信機を切って、敵を確認する。


 敵は炎王、闘王、地王、傭兵王、ユルゲイトにアルジュナ。


 応援が来るまでにこの六人を相手にしなければならない。


 中々大変そうだと思いながら僕は剣を抜く。

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