第二十二話 不屈の皇子


 ――クルト視点。


 久しぶりに母上と庭園にてお茶を飲みながら談笑していると、慌てた様子でミハエル·ギュスターヴ大将軍が駆けてくる。


 「クルト殿下、リーシェ様、至急城から脱出を!! テルナー皇子がクーデターを起こしました!!」


 なっ!? テルナー兄上がクーデターだと!?


 「父上とアルバート兄上は!?」


 「既に拘束されています。私は正妃様の命を受けてお二人を城から逃がす為に参りました!!」


 「正妃様は!?」


 「正妃様は私がここに辿り着く為にわざと捕まって時間を作って下さいました!!」


 そんな正妃様までも捕まったなんて!?


 「正妃様の行動を無駄にしてはいけません!! 早く城から脱出しましょう!!」


 そうだ、ここで立ち止まっている暇はない。


 「あぁ、わかった。母上、参りましょう!!」


 「えぇ、行きましょう!!」


 母上の手を取り、ミハエル大将軍について行き、庭園から出ると、三人の兵士に見つかる。


 「クルト皇子と第三皇妃がいたぞ!!」


 一人の兵士が叫んだ事により、次々と兵士達がやってくる。


 「お前達、何をやっているのかわかっているのか!? これはクーデターだぞ!?」


 「わかっていますよ。でも命令なんでね。悪く思わないで下さい!!」


 ミハエル大将軍の声に耳を貸さず剣を抜く兵士達。


 「くっ、クルト殿下、リーシェ様。俺から離れずついてきて下さい!!」


 ミハエル大将軍は兵士達を斬りながら前へと駆け進む。


 俺は母上の手をひきながらミハエル大将軍について行く。


 流石はヨルバウム帝国の大将軍。


 並の兵士では相手にならない。


 幾度となく兵士に見つかりながらもミハエル大将軍のおかげで城の入口がある大広間まで辿り着いた。


 だがそこには兵士達を率いた炎王バルバドスが居た。


 「炎王バルバドス!? まさか貴殿もクーデターに加担しているのか!?」


 ミハエル大将軍の問いに笑みで答えるバルバドス。


 「十二星王が一国のクーデターに加担するなど許されると思っているのか!?」


 「ははっ、許される? 誰が俺を裁くんだ? 十二星王である俺様を!!」


 バルバドスの右手に蒼炎が生み出される。


 「クルト様、リーシェ様!! 私が炎王と戦っている内にお逃げ下さい!!」


 ミハエル大将軍は剣を構え、バルバドスと戦おうとしているが、俺はミハエル大将軍を止める。


 「待て、ミハエル大将軍。俺が兵士達とバルバドスの注意を引く。その隙に母上を逃してくれ!!」


 「クルト!?」


 「クルト殿下、何を馬鹿な事を」


 「奴らがより重要視しているのは母上より俺だ。なら俺が奴らを引きつければ逃げる隙が生まれる筈だ。頼む、ミハエル大将軍。母上を連れて逃げてくれ!!」


 俺はミハエル大将軍に頭を下げる。


 「···わかりました。必ずリーシェ様を逃がしてみせます。リーシェ様を逃がし次第すぐに戻ってくるので暫しのご辛抱を!!」


 「ありがとう、ミハエル大将軍」


 俺の願いを聞き入れてくれたミハエル大将軍は母上を抱きかかえる。


 「ミハエル大将軍、私よりもクルトを逃がして!!」


 「すみません、お叱りは後で受けます」


 ミハエル大将軍は苦渋の表情で母上を抱きかかえながら城の入口へと向かう。


 「おいおい、行かせると思うか?」


 右手に生み出した蒼炎を母上を抱きかかえたミハエルに放とうとするが、俺が無詠唱で放ったガイアウェーブに気を取られミハエル達を逃してしまう。


 バルバドスの周囲に居た兵士達は土の津波に飲まれて戦闘不能状態になったが、バルバドスは無傷。


 「てめぇ、その程度の魔法で俺様の邪魔をしやがったな?」


 バルバドスの身体から蒼炎が立ち昇る。


 どうやら怒らせてしまったらしい。


 でもこれでミハエル達は逃がせた。


 後は味方が来るまで時間を稼ぐだけ。



 時間にして僅か数分。


 俺はバルバドスの攻撃を受けて地に転がっている。


 わかっていたが、まさかこれ程までに強いとは。


 俺の魔法は全く通用せずに蒼い炎で打ち消されてしまう。


 バルバドスにとって俺は赤子の様なものだろう。


 でも俺は負けられない。


 ルートヴィヒにステラが生きている事を教えてもらった日からまた会えるのを心待ちにしていたのだ。


 だから負けられないのに、更なる絶望がやってきた。


 「何をやっているんだ炎王? そんな雑魚と遊んで楽しいかい?」


 藤色の長髪をおさげにした藤色の瞳の少年が左側の階段からゆっくりと降りてくる。


 世界最高議会の時に見たから覚えている。


 名はヤン·ジェウ。十二星王の一人である闘王だ。


 「···悪趣味だな」


 右側の通路から歩いてきたスキンヘッドの男は、十二星王の一人である地王ガイツァー。


 「いやいや、弱い者いじめ程楽しいものはないぜ? それに俺はこういう気の強い奴が弱っていく様を見るのが好きなんだよ」


 バルバドスはボロボロになって地に伏せている俺の腹を蹴る。


 「ぐはっ!!」


 俺の身体は吹き飛び壁に激突する。


 見た感じ闘王も地王もバルバドスの仲間みたいだ。  


 十二星王が三人。絶対絶命とはこの事か。


 それでも俺は起き上がる。


 負けられない理由があるから。


 生き残りたい理由があるから!!


 俺は残っている魔力を全て込めて魔法を放つ。


 「俺は死ねないんだぁぁぁあっ!!」


 放つは火、風、土の三つの上級魔法を複合した魔法グランフレアサイクロン。


 大広間は今にも崩れようとしている。


 当然だ。普通は部屋の中で放つ魔法じゃない。


 しかし、三人の十二星王は顔色を全く変えない。


 「こんなものでボク達をどうにか出来る訳ないでしょ?」


 闘王の放った拳一つで俺の全力は簡単に消し飛んだ。


 ば、化け物め!! 


 「さぁて、魔力も使い果たしたみたいだし、そろそろお開きにするか。さよならだクルト皇子」


 まだ死ねないのにバルバドスは俺に向かって蒼い炎を放つ。


 あぁ、ステラにもう一度会いたかったなぁ。


 俺の身体を蒼炎が包みこもうとしたその時、城の扉が吹き飛び白い光が蒼炎を掻き消した。


 「待たせましたクルト。もう大丈夫ですよ」


 白き光の中から現れたのはルートヴィヒだった。


 「あとは任せてください」


 白きオーラを放つルートヴィヒが三人の十二星王に剣を向ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る