第十九話 ジャバウォック


 「それで? 私を呼び戻したからには相応の理由があるのだろうネ、フェン?」


 フェンと呼ばれたシャオの隣に立っている坊主は険しい表情を作っている。


 「カンメイ山の木々や草花が枯れ始めています。ジャバウォックの目覚めが近いと判断し、ミン老師に戻っていただきました」


 「···なるほどネ。ジャバウォックの魔力にあてられて草木が枯れ始めたアルか。封印が解けかけている証拠アル。これは急いでカンメイ山に向かわなければならないネ」


 ジャバウォックという名前が出た瞬間、私達に緊張が走る。


 この世界で少し学のある者なら知らない者は居ないSSSランクモンスター『ジャバウォック』。


 この世界にSSSランクモンスターは七体しかいない。


 最高危険度のモンスターであるSSSランクモンスターは、SSランクモンスターとは隔絶した強さを持っている。


 動けば天変地異が起こると言われる程の生きる災害である。


 そんなSSSランクモンスターの一体であるジャバウォックは、烈華民国の奥地にある山にて封印されていると聞いていたのだが、その封印が解けかけている!?


 「一大事じゃない!! 私はSSランククエストも達成した事があるの。力になれるかもしれない。ついて行くわ」


 私の発言に周囲の拳士達は動揺し、フェンさんが私に厳しい表情を向ける。


 「お言葉ですが、SSランクとSSSランクには雲泥の差があります。SSSランクモンスターにはSSSランク冒険者級でないと対処出来ません。ここはミン老師お一人に任せるべきです」


 ···危険なのはわかっている。でもシャオ一人に任せるなんて。私には出来ない!!


 「例え力不足でもシャオ一人を危険に飛び込ませるなんて私には出来ない!!」


 私の確固たる意志を聞いた拳士達から「無謀な」、「足手まといにしかならないだろうに」、「自殺行為だ」などの声が聴こえる。


 わかってる。それでもこの意志は曲げない。


 周囲からどよめきが起こっている中、シャオが笑い出す。


 「ふふふっ、ラティスは無茶な子ネ。でも嫌いじゃないアル。わかったネ、一緒について来ればいいアル」


 「ありがとうシャオ。私頑張るわ!!」


 私が握り拳を作っているとラダンさんが私の肩に手を置く。


 「おっと、まさかラティスだけついて行くつもりじゃねぇだろうな? もちろん俺もついて行くぜ?」


 「はあ〜、二人が行くならわたしが行かない訳にもいかないでしょう?」


 「ラティス様が行くのなら私も行きます」


 ラダンさん、イレーヌさん、ゼロもついて来てくれるらしい。


 私は嬉しくて仮面の下で笑みを作る。


 「あらら、四人もついてくるアルか? これは子守りが大変そうアル」


 そう言いながらもシャオは嬉しそうだ。


 私達は烈華拳法総本山をから降り、カンメイ山に向かう事にした。



 馬車を走らせる事一週間。


 霧で覆われた高き山――カンメイ山の麓に着いた。


 空にはドラゴンが飛んでいる。


 カンメイ山はドラゴンの巣になっているらしい。


 魔力濃度が高く、木々や、草花は枯れてしまっている。


 ジャバウォックは、このカンメイ山の山頂にある洞穴に封印されているらしい。


 空気中の魔力濃度が濃く息苦しさを感じる。


 この状況でドラゴン達の相手をしながら山頂に向かわなければならないのか。


 ···大変そうだけど、無理矢理ついてきたのだから弱音は言ってられない。


 よし、登るぞ!!


 登れば登る程霧が濃ゆくなっていく中、シャオは軽快に登っていく。


 登っていると、ドラゴン達が襲ってくるのだが、シャオは簡単に蹴散らす。


 ドラゴンってSランクモンスターなんだけど···。


 羽虫を払うかの様に倒していくシャオに驚愕しながらも順調にカンメイ山を登っていく。


 途中休憩を挟みながら登る事五時間で山頂にある洞穴の入口に着いた。


 暗く狭い道を進んで行くと、日の光が差し込む広い空間に出た。


 広い空間の中央には漆黒の龍が居て、光る魔法陣の上で寝ている。


 あれがSSSモンスター漆黒魔龍ジャバウォック!!


 ドラゴンよりも一回り大きく、放つ魔力も半端じゃない。


 私やラダンさん、イレーヌさん、ゼロが警戒する中、シャオはジャバウォックに近づいて行く。


 すると、ジャバウォックの目が静かに開く。


 『···久しぶりの客人はやはりお主か。今回は他の客人も連れてきたみたいだが、息災そうでなによりだ』


 「お前こそ封印を緩ませる程には元気みたいで安心したアル」


 シャオはジャバウォックと会話をしながらジャバウォックの下で光る魔法陣に触れ詠唱を始める。


 すると魔法陣の光が強くなる。

 

 魔法陣を触り始めて二、三分が経った。


 「これで三百年程は持つアル」


 封印の補強が終わったみたいだ。


 しかし、ジャバウォックと普通に話しているな。


 私は禍々しい魔力を放つジャバウォックを見るだけで身体が震えているのに。


 『久々に自由になれると思ったのだが残念だ』


 「すまないネ。お前を自由にしたら世界が荒廃してしまうアル」


 ジャバウォックに対して申し訳なさそうに謝るシャオ。


 なんだか仲良さそうな雰囲気だ。


 『ふん、我が荒廃させずとも、アルジュナという輩が世界の脅威になる。違うか?』


 「お前も見ていたアルか。確かにあやつは危険だけど、私の他にも頼りになる者は居るアル。大丈夫ネ」


 『···ふっ、せいぜい世界を守るがいい。世界の守護者よ。我はここでお主が守る人間達の行く末を傍観するとしよう』


 そう言ってジャバウォックは再び目を閉じた。


 シャオはジャバウォックから離れ、私達の所に戻ってくる。


 「お待たせアル。無事に封印の補強が出来たネ。これで三百年は安心アル」


 「うん、お疲れ様。それよりもジャバウォックと随分仲良さそうな様子だったけど」


 「そりぁそうアル。私とジャバウォックは親友ネ」


 「いやいや、SSSランクモンスターが親友っていうのも信じられないけど、親友を封印してるの!?」


 私のツッコミにシャオは悲しそうな表情をする。


 「仕方ないネ。ジャバウォックは居るだけで草木を枯れさせ、大地を荒廃させる程の禍々しい魔力を放つのだから。封印しないと世界の危機ね。でもジャバウォック自身は中々良い奴アルよ?」


 SSSランクモンスターを良い奴呼ばわり。


 女好きの変態だと思っていたけど、シャオは規格外に凄い奴らしい。


 ジャバウォックと戦う事になるのかと緊張していたけどそんな事も無く、無事に封印の補強は済んだ。


 これなら私達は本当についてこなくても良かったかもしれない。


 カンメイ山を降りた後は、シャオはいつもの女好き変態に戻り、隙あらば私やイレーヌさん、ゼロに抱きつこうとしてウザかった。

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