第十八話 闘神


 ラフォウに着いた私達は、門番に冒険者カードを提示して中に入ろうとしたのだけれど、門番はシャオに気付くと、背筋を伸ばし丁寧な対応で中に通してくれた。


 「···シャオって、もしかしてお偉い方の娘さん?」


 「う〜ん。まぁ、そんな感じネ」


 ラフォウの中に入ると、時折すれ違う人がシャオに頭を下げている。


 これは相当お偉いさんの娘さんらしい。


 只の女好き少女だと思っていたけど、ここでは雑に扱わない方が良さそうだ。


 ここにはS級ダンジョンがあるのだが、その前に食料の補充をする為に市場へと向かう。


 ラフォウに着いたらシャオとはお別れだと思っていたのだけれど、何故かついてくる。


 「私達これからS級ダンジョンに潜る為の買い出しをするんだけど、何でついてくるの?」


 「ん? 面白そうだから私もダンジョンに一緒に潜ろうと思ってネ。駄目アルか?」


 シャオは目を潤ませて私を見上げてくる。


 「···ん〜、シャオは強いし足手まといにはならないと思うけど、襲ってくるからなぁ」


 「お、襲わないネ。約束するネ。だから一緒に連れてってほしいアル」


 ここまでお願いされたら仕方ないか。 


 ダンジョンコア回収の事は回収する時に教えればいいしね。


 ラダンさんやイレーヌさん、ゼロも許可してくれたので、シャオもダンジョン攻略のパーティーに入る事になった。


 シャオも連れて市場で長期保存出来る野菜や干し肉を買い込もうとするが、店の店主達はシャオに気が付くと、シャオに向かって深々頭を下げ、無料で野菜や干し肉をくれようとする。


 無料は流石に悪いので格安で売ってもらう事にした。


 お偉い方の娘さんにしても皆敬い過ぎてる気がする。


 民衆のシャオに対する態度に疑問を持ちつつ、準備も整ったのでダンジョンへと向かおうとするけど、五、六人の坊主の男性達が遠くから私達に近付いてくる。


 「お戻りになられたとの報告を受けてお迎えに参りましたぞ!!」


 坊主の男性の一人がシャオに向かって、右手と左手を合わせ合掌しながら頭を下げると、他の坊主達も同じ動作で頭を下げる。


 「···戻りたくないアル。私はこれから仲間とダンジョンに潜りに行くアル」


 凄く嫌そうな表情で坊主達を見て拒否するシャオ。


 「そう仰らずに。国家元首はヨルバウム帝国からお戻りになられたのに、闘王様はヨルバウム帝国からまだ戻られていないので、総本山は総主も総主代行も不在の状態なのです。どうかお戻り下さい!!」


 「あのやんちゃ坊主め、まだ戻っていないアルか。···わかったアル。一先ず戻るアル。すまないが、一緒について来てほしいアル」


 「えっ? なんならここで別れて私達だけでダンジョンに潜ってもいいんだけど」


 「いやアル。私も一緒に潜りたいアル!!」


 シャオは駄々っ子の様に地面に寝そべり手と足をジタバタ動かす。


 坊主達はそんなシャオを見ながら溜息を吐くと、私達に頭を下げる。


 「多少お時間を頂く事になりますが、どうかお付き合い下さい」


 「···わかったわ。あなた達も大変ね」


 「もう慣れました」


 私は苦笑いを浮かべる坊主達に同情してしまった。


 シャオに付き合って坊主の男性達について行くと、大きな岩山が目の前に立ちはだかる。


 「この岩山を登った先に烈華拳法総本山があります」


 烈華拳法? 確か烈華民国の名前の由来になった世界的にも有名な拳法だ。


 シャオはその有名な拳法のお偉い方の娘さんという事か?


 長い長い岩山の階段を上がると、立派な造りの大きな屋敷が現れた。


 屋敷の前の広い庭には、拳法の修行をしている坊主達が沢山いる。


 そんな拳士達は、シャオに気付くと合掌をしながら礼をする。


 「「「お帰りなさいませ、ミン老師!!」」」


 ミン老師? 老師って確か偉い師匠の事をそう呼ぶよね? 何でシャオが老師?


 私は頭に疑問符を浮かべているけど、ラダンさんとイレーヌさんはシャオの正体に気付いたらしく驚いた表情でシャオを見ている。


 烈華拳の拳士が屋敷の扉を開けると、中は広い謁見の間になっており、謁見の間の一番奥に豪華な細工をされた椅子がある。


 シャオはその椅子に向かって歩いていき、そして座った。


 それと同時に、謁見の間の両端に並んだ拳士達が合掌しながら礼をする。


 「「「お帰りなさいませミン老師!!」」」


 何だ何だ!? シャオをまるで一国の王の様に扱っている!?


 私が呆然と突っ立っている中、ラダンさんとイレーヌさんは、片膝をついて頭を下げている。


 ゼロも真似をして頭を下げているので、私も慌てて頭を下げる。


 「ラティス達は別に頭を下げなくてもいいネ。楽にするアル」


 そう言われたので、私達は立ち上がりシャオを見つめる。


 「で? これはどういう事?」


 「ん? どういう事かと言われたらこの国で一番偉い存在と答えるしかないネ」


 どういう事?


私の疑問をわかってくれたのか、シャオの隣に立つ坊主の男性が説明してくれる。


 「この烈華民国は五千年前に一人の拳士の元に人々が集まってできた国なのですが、その拳士がミン·シャオ老師なのです。ミン老師は烈華拳法の総主を務め、総主代行であり十二星王の一人である闘王――ヤン·ジェウの師匠でもあります」


 五千年前の拳士!? それに十二星王のお師匠様!?


 「我が国の民達はミン老師の事を尊敬の意味を込めて『闘神』と呼んでいます」


 闘神!? 聞いたことある。烈華民国には神の様に崇められている闘士が居ると。


 それがシャオ!?


 今この瞬間も私に投げキッスを飛ばしているこの女好きが!?


 驚愕のあまりシャオを見つめる事しかできない。


 「? どうしたアルか? 私が闘神だという事は気にせずいつものように抱きしめて欲しいネ」


 抱きしめた事など一度もないのに何度もしているかのように言わないでほしい。


 何か数人の拳士が誤解した目で私を見ている。


 本当にシャオが烈華民国の闘神?


 ···信じたくない。

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