第十五話 ハルケーVSルートヴィヒ


 十二星王入りを賭けた戦いの当日。


 僕はシュライゼム闘技場の控え室で身体中の感覚を研ぎ澄ませながら集中する。


 戦いの時間がきて兵士に呼ばれたので、戦いの舞台へと歩を進める。




 『さぁ、十二星王入りを賭けた戦いがまもなく始まるべさ。解説は十二星王の一人であるあたし――イルティミナと』


 『パラケルトでおこなうのね』


 『まず、右から出てきたのは、ガゼット皇国の英雄――弓王の弟子にして弓王を超える才能と言われている弓の名手――ハルケー·バイス!!』


 『続いて左から出てきたのは、十六歳の若さで光迅流の当主になったヨルバウム帝国が誇る天才剣士――ルートヴィヒ·バンシール!!』


 解説席に目を向けると、イルティミナ先生とパラケルトさんが楽しそうに解説している。


 闘技場の観客席にも目を向けると、今か今かと戦いを待つ観客で満員になっている。


 そういえば闘技場の外には屋台が並んでいた。


 十二星王を決める戦いがお祭り扱いされているのは面白い。


 審判は世界最高議会でハルケーと僕のどちらも推さなかった十二星王の一人――断絶王ヨハン·クロムウェルが務める。


 僕はハルケーと向かい合い手を出す。


 ハルケーは僕を睨みながらも握手をしてくれた。


 「俺は必ず師匠の後を継ぐ。お前には負けん!!」


 闘志剥き出しのハルケーは、所定の位置にて弓を構える。


 僕も剣を握りいつでも抜けるように構える。


 「光迅流十五代目当主ルートヴィヒ·バンシール参ります!!」


 「イングラム流弓術免許皆伝ハルケー·バイス参る!!」


 両者の名乗りを聞いた審判の断絶王が、上げた手を振り下ろしながら、「始めっ!!」と試合開始を告げる。


 試合開始の声とともに、ハルケーは後方へと下がり、僕と距離をとりながら無数の魔力でできた黒い矢を放ってくる。


 僕は矢を剣で斬りながら、レヴァンティンを身体と剣にエンチャントする。


 距離をとらせたら駄目だ。


 僕は瞬歩で駆け放たれる矢を切り伏せながらハルケーへと近付く。


 「イングラム流弓術――追尾する雨!!」


 ハルケーが放った無数の黒い矢は僕を追尾する。


 くっ、矢の対処に追われて中々ハルケーに近付けない。


 距離がとれたハルケーはとてつもない魔力で作った矢を放つ。


 「イングラム流弓術――放つは彗星!!」


 あれはただ切り伏せるだけじゃ駄目だ。


 「光迅流二ノ型激迅応用技――激光迅!!」


 黒き彗星を白き斬撃が切り伏せるが、ハルケーは矢を放つのを緩めない。


 このままじゃ光迅化が解けてしまう。


 ここは最大威力の技で強引に近付くしかない。


 突きの構えをとり、瞬歩で駆ける。


 無数の矢が向かってくるが構わず駆ける。


 矢が身体を掠め血が出るが気にせず駆ける速度を上げる。


 「光迅流六ノ型瞬光!!」


 「イングラム弓術――放つは彗星!!」


 黒き彗星と白き光を纏いし最速の突きがぶつかり合うが、ぼくの放った突きが、黒き彗星を貫く。


 そのままハルケーに向かって突きを放つが、ハルケーは身体全体に赤きオーラを纏わせる。


 これは見た事がある。


 遺跡の戦いで弓王が使った技だ。


 僕は咄嗟に無理矢理身体を回転させる。


 「イングラム流弓術奥義――弓体射弾!!」


 ハルケーは自分の身体を弓に見立てて赤き魔力の塊を僕の瞬光にぶつけんとするが、僕は自分の身体を回転させて突きの威力を更に上げる。


 無理矢理回転させたので身体が痛む。


 だけどこの突きは必ず通す!!


 「光迅流六ノ型瞬光応用技――螺旋瞬光!!」


 赤き魔力と白き魔力がぶつかり、そして白の魔力が赤き魔力を貫き、ハルケーを刺し貫いた。


 ハルケーは突きの衝撃で闘技場の壁へと激突する。


 全力を出し、光迅化が解けた僕は剣を構えるのをやめない。


 まだハルケーから闘志が伝わってくるからだ。


 「ごほっ!! お、俺は負けられない。俺の命の恩人である弓王の名を消させたりはしない!!」


 血を吐きながらハルケーは立った。


 ハルケーのお腹からは大量の血が溢れている。


 今にも倒れそうなのにその目は僕を倒さんと闘志を漲らせている。


 ハルケーは瀕死の状態だけど、僕の身体も無理矢理身体を回転させたせいでボロボロだ。


 それでも僕が勝つ。


 セシルとステラに必ず勝つと約束したのだ。


 痛む足で駆けてハルケーに向けて斬撃を放つけど、ハルケーは避け、蹴りを放つ。


 僕はハルケーの蹴りを避けて態勢を整える。


 「もしかしてあなたも弓王と同じ鷹の目なんですか?」


 僕の言葉にハルケーが驚く。


 「お前はもしかして師匠と戦った事があるのか?」


 「えぇ、強かったです」


 「そうか、だから弓体射弾に反応出来たんだな」


 「えぇ、弓王が放ったのを覚えていたので」


 「···ふっ、お前が師匠と戦っていなければ」


 「えぇ、僕が負けていたかもしれません」


 ハルケーは一瞬笑みを浮かべた後、真剣な表情で弓を構える。


 ハルケーも魔力は切れかかっている筈だ。


 おそらくあれが最後の一射。


 「負けていたかもだと? ぬかせ!! 勝つのは俺だ!!」


 全ての魔力が込められた黒き矢を僕は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませて斬る。


 「イングラム流弓術――放つは彗星!!」


 「光迅流二ノ型激迅!!」


 ハルケーの渾身の一射を切り伏せて、ハルケーの首に手刀を当て気絶させた。


 暫しの静寂の後、審判である断絶王が勝者の名を告げる。


 「試合終了!! 勝者ルートヴィヒ·バンシール!!」


 試合が終了し、イルティミナ先生やパラケルトさんが嬉しそうに解説しているのが聴こえるけど、僕の身体も限界だ。


 駆け寄ってくる医療班を目にして僕は身体の痛みで意識をなくした。



 目覚めると、見知らぬベッドの上に寝かされていた。


 薬品の匂いがする。おそらく医療室だろう。


 「目覚めたか?」


 カーテンの向こう側から声がしたので、カーテンを開けると、ハルケーがベットの上に寝かされていた。


 「···身体の具合はどうですか?」


 「回復魔法のおかげで傷もない」


 会話はそこで終了し、気まずい空気が流れる。


 僕の身体も回復魔法をかけられたのか痛まないので、医療室から出ていこうとすると、ハルケーに呼び止められる。


 「ルートヴィヒ。お前が勝ったんだ。新たな十二星王になる以上、弓王カルフェド·イングラム以上の十二星王になれ。じゃないと許さん」


 真剣な表情のハルケーの言葉に僕は頷く。


 「はい、必ずなります」


 僕の誓いにハルケーは微かに笑みを作り、手を僕に向けて出す。


 僕はその手を掴み握手した。

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