第十二話 底の見えない強さ
ヨルファングさんが我が家に滞在している間、キルハやセシルがヨルファングさんに手合わせをお願いしたら面倒臭そうにしながらもひき受けていたので、ナギさんや僕も手合わせをしてもらう事にした。
手合わせする場所はシュライゼムの近くの草原。
見物人はイルティミナ先生、パラケルトさん、チェルシー、ジアス。
ローナは救護院の仕事があるので居ない。
「面倒だ。四人まとめてかかってこい」
ヨルファングさんは頭をかき、あくびをしながら僕らを挑発し、キルハとセシルは闘志を剥き出しにして駆け出す。
セシルは駆けながら雷迅化する。
ナギさんは冷静に刀を構えながら魔眼を発動させる。
僕も剣を抜き、駆ける。
キルハが空中で回転して遠心力で加速した大剣をヨルファングさんの頭目掛けて振り下ろすと同時に瞬歩で接近したセシルが雷速の斬撃がをヨルファングさんの右脇腹に放とうとしている。
だけど、ヨルファングさんは顔色を変えずに赤色の魔力を身体から放ち、キルハとセシルを吹き飛ばす。
「なっ!?」
「くっ!?」
セシルとキルハは何が起こったのかわからないようで驚いているけど、僕は以前似たような技を弓王との戦いで受けているのを思い出した。
ナギさんは魔眼を開放しているのに攻めない。いや、隙がなさ過ぎて攻める事が出来ないのだ。
ヨルファングさんは構えている訳でもなく自然体なのに隙がない。
僕とナギさんが動かないでいるとヨルファングさんが動き出した。
足裏から魔力を放ち加速してナギさんに肉薄し、右腕を振るって拳圧でナギさんを後方に吹き飛ばした。
僕はヨルファングさんがナギさんに攻撃している内にヨルファングさんの後ろへと回り込み、斬撃を放つけど赤い魔力を纏った左腕で防がれる。
すぐさま連撃を放つけど、赤い魔力纏った左腕で全ての斬撃が防がれた。
僕は一度態勢を整える為に後方へと下がる。
「おいおい、四人がかりでこれか? 情けねぇなぁ。まともに戦えるのはルートヴィヒだけか?」
セシルとキルハが悔しそうに立ち上がり、再度ヨルファングさんに立ち向かうが、ヨルファングさんが右腕で地面を殴った衝撃波で再度吹き飛ばされた。
直撃していないのに余波だけであの二人を無力化するなんて。
全力を出しても勝てるか怪しいけど、全力を出さないと相手をしてくれているヨルファングさんに失礼だ。
僕はレヴァンティンをエンチャントして光迅化する。
「ほう、それがお前の本気か。面白い、かかってきやがれ!!」
赤い魔力と白い魔力がぶつかり合って、激しい光が身を包んだ。
気が付くと草原に寝転んでいた。
セシルやキルハ、ナギさんも気絶して草原に寝転んでいる。
起き上がると、ヨルファングさんやイルティミナ先生、パラケルトさん、チェルシーが寝転んでいる僕らを座って見ていた。
「おぉ、ルートヴィヒが起きたべさ。ルートヴィヒ、何が起きたか覚えているべさか?」
「はい、ヨルファングと戦って僕の魔力とヨルファングの魔力がぶつかり合ってそれで···。僕は負けたんですね」
「確かに負けたのね。でもヨルファングとあれだけ戦えれば合格点なのね」
パラケルトさんは褒めてくれるが、でもあの戦いは四対一だったのだ。
それで全員が気絶させられたなんて。
「多少なりとも強くなったと思っていたのですが、まだまだですね」
僕らは全員気絶させられたのにヨルファングさんは無傷に見える。
今の僕なら十二星王とも良い勝負が出来ると思ったのに、結果はこれだ。
落ち込んでいると、ヨルファングさんが近付いてきて僕の頭を撫でる。
「ふん、この俺の右腕に傷をつけたのに落ち込んでるんじゃねぇ」
右腕に傷? 何処にも傷はなさそうだけど。
「ヨルファングの言ってる事は本当べさ。あたしが治療したから傷はもうないけど、確かにヨルファングに一撃与えたべさよ。誇るといいべさ。十二星王最強のヨルファング·ジェスターに傷をつけたのだから」
「あぁ、この俺に傷をつけれる奴なんかそうは居ねぇ。だから頭を上げろ」
この人は本当に優しいな。そして計り知れないぐらい強い。
この人に一撃入れられた事は確かに誇れそうだ。
僕は顔を上げ、もう一度戦いを挑んだ。
日が暮れ始めた。
何度も挑んだが、結局一度も勝てなかった。
キルハやセシル、ナギさんも意識を取り戻すと再び挑んだが、誰一人として勝てなかった。
僕らは息も絶え絶えだというのに、ヨルファングさんはまだ余裕そうだ。
強さの底が見えない。
今の僕なら弓王と戦えば互角に戦える自信がある。
それなのにヨルファングさんに勝てるビジョンが湧かない。
同じ十二星王でここまで差があるのかと愕然としながら僕はヨルファングさん達と共に家へと帰宅した。
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