第十一話 炎王バルバトス


 ローナと共にジアスも調理した昼食を食べた後、ヨルファングさんが去ろうとするので引き止める。


 「ヨルファングさん、世界最高議会が終わるまでの間、もしよかったらこの家に滞在しませんか? 城の方が良いなら別ですけど」


 「···城なんて堅苦しくて苦手だから助かるが、いいのか?」


 「はい、ここにはイルティミナ先生やパラケルトさんも居ますから。知り合いが居た方が落ち着くでしょ?」


 「こいつらが居てもうぜぇだけだが、ここの飯は美味いからな」


 その言葉にローナとジアスが嬉しそうに微笑んでいる。


 「うざいとなんだべさ。本当は嬉しいくせに」


 「私達と居れて嬉しいのに照れてるのね」


 「うぜぇ!! イルティミナよじ登るんじゃねぇ!! パラケルト、お前は俺の腕に絡みつくな」


 二人に絡まれて声を荒げるけど、なんだか嬉しそうに見える。


 こうしてヨルファングさんが僕らの家に滞在する事になった。



 ヨルファングさんはシュライゼムに初めて来たらしいので、シュライゼムの街を仕事が休みであるローナとジアス、チェルシーと共に案内する事にした。


 セシル、ナギさん、キルハは光迅流道場で剣の修練をするらしい。


 パラケルトさんとイルティミナ先生は家でゴロゴロするとの事。


 武器防具屋や、チェルシーの行きつけの魔道具屋に行ったり噴水広場に並ぶ屋台や市場を見たりした。


 「やはり王都なだけあって広いし、賑やかだな」


 道行く人はヨルファングさんを見ると、怯えて駆け足で去っていくけど、そんな事は気にせずヨルファングさんはシュライゼム観光を楽しんでくれているみたいだ。


 ローナとジアスもヨルファングさんと打ち解け始めている。


 少し歩き疲れたので、カフェでお茶を飲む事にした。


 女性の店員さんが注文をとりに来たので、僕はアイスコーヒーケーキを頼み、ジアスとローナはパフェを注文した。


 ヨルファングさんもパフェを注文したんだけど、ヨルファングさんの注文をとる店員さんの手は震えていた。


 怖がる必要なんてないんだけどなぁ。


 注文したものが運ばれてきたので食べていると、ヨルファングさんが笑みを浮かべながらパフェを食べている。


 ニメートルの巨体であるヨルファングさんがパフェを食べる姿は可愛く見える。


 ジアスとローナと仲良くパフェを食べる姿は微笑ましい。


 美味しいスイーツを食べ終え、店から出ようとしたんだけど、先程注文をとりに来た女性店員さんがガラの悪い男性二人組に絡まれて困っている。


 「仕事なんかいいからさ、俺達と遊ぼうぜ?」


  「困ります、離してください!!」


 「俺達は十二星王の一人――炎王バルバトス様の配下だぜ。大人しく言う事を聞いていた方が身の為だぜ?」


 男性二人組は下卑た笑い声を上げながら店から女性店員さんを連れて行こうとする。


 助けようと僕が動く前にヨルファングさんが動いた。


 「待ちな。明るい内から下劣な事してるんじゃねぇよ」


 「あぁ? 誰だ? 俺達に喧嘩を売るやつ···は!?」


 男性二人組は後ろから聞こえた声に振り返るが、ヨルファングさんの姿を見て目を丸くする。


 「おい、いいから手を離せや。嫌がっているだろうが!!」


 「ひっ!? お、俺達が誰の配下かわかっているのか?」


 「バルバトスの配下だろ? 聴こえていたが、それがどうした?」


 「お、俺達に手を出したらバルバトス様が放って置かねぇぞ!!」


 「うるせぇなぁ。いいからその店員を置いてさっさっと去れや!!」


 ヨルファングさんの怒号に怯えた男性二人組は女性店員から手を離し、慌てて逃げていった。


 一部始終を見ていたカフェの店員や客達がヨルファングさんに向けて拍手をする。


 女性店員も怯えながらもヨルファングさんに頭を下げる。


 「あ、ありがとうございます。助かりました」


 「ふん、気にするな。俺はああいう奴らが嫌いなんだ」


 顔をしかめながらヨルファングさんは代金を払って足早にカフェから出ていった。


 僕達は急いでヨルファングさんを追いかけると、ヨルファングさんは顔を赤らめて照れていた。


 ヨルファングさんは人に褒められたり感謝されたりするのが苦手らしい。


 家に帰り、カフェでの出来事をパラケルトさんやイルティミナ先生に話すと、照れるヨルファングさんをからかいまくっていた。


 修練から帰ってきたセシル、ナギさん、キルハも混じえて、ジアスとローナが作ってくれた夕食を食べる。


 皆、ヨルファングさんにも慣れてきた様子で、談笑しながら賑やかに夕食をとっている。


 ヨルファングさんも嬉しそうに夕食を食べている。


 和やかな雰囲気を楽しんでいると、突然外から怒号が響いてきた。


 「おい、デカブツ!! 昼間の礼に来てやったぞ!! ここに居るのはわかってるんだ!! さっさと出てこいやぁ!!」


 この声聴き覚えがある。


 昼間のカフェで女性店員に絡んでいた男性二人組の片方の声だ。


 ヨルファングさんも昼間の男の一人だと気付いたのか険しい表情で外へと向かう。


 僕や他の皆もヨルファングさんを追って外に出ると、見覚えのある二人組の男達の他に十人程ガラの悪い男達が待ち構えていた。


 「昼間は世話になったなぁ。お礼に来てやったぞ!!」


 ヨルファングさんを睨みつけながら昼間の男は下卑た笑い声をあげる。


 その笑い声を聞いて、不快そうな表情でヨルファングさんは男達を睨む。


 睨まれた男達は腰が引けて後ずさりする。すると男達の後方から百九十センチ程の背がありそうな赤黒い髪色をした男が出てきた。


 「おいおい、俺の可愛い手下共を怖がらせるなよ、拳害」


 「···本当にお前の配下だったのかバルバトス」


 赤黒い髪色と同じ瞳の色をした大男は笑みを浮かべながらヨルファングさんに視線を向ける。


 「手下が痛い目見たみたいだからその仕返しに来たんだが、まさかヨルファング·ジェスターに喧嘩を売っていたとはなぁ」


 バルバトスは笑っているけど、周囲の手下達はヨルファングさんの名を知って更に後ずさりしている。


 「仕返しか。ここで俺達が戦ったら街に被害が出る。戦うなら外だ」


 「ははっ!! 相変わらず顔に似合わねぇ甘ちゃんだなヨルファング!! 俺は今ここで戦ってもいいんだぜ?」


 そう言うバルバトスの身体から蒼い炎が吹き出る。


 「てめぇ、本気か?」


 ヨルファングさんから殺気が放たれる。


 「本気だ···と言いたい所だが、そっちにはイルティミナやパラケルトも居るみたいだし、中々強そうな少年も一人居る。俺様は戦っても負ける戦いはしない主義でなぁ。だから今回は引いてやるよ。野郎ども、帰るぞ!!」


 イルティミナ先生、パラケルトさん、僕を見た後、踵を返し、手下達を率いて去っていくバルバトス。


 「相変わらず、バルバトスは面倒べさね」


 「うん、相変わらず嫌な奴なのね」


 去っていくバルバトスを見ながらイルティミナ先生とパラケルトさんが顔をしかめる。


 「···悪いな。面倒事に巻き込んじまった」


 ヨルファングさんは申し訳なさそうに視線を下げている。


 「気にしないで下さい。いざとなったら僕も戦いますから」


 僕はニカッと笑いながら拳を握りしめる。


 そんな僕を見てヨルファングさんは表情を緩めた。


 「···ふん、ガキが粋がるんじゃねぇ」


 ヨルファングさんは微笑みながら僕の頭を撫でて、家の中に戻っていった。

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