第七話 ワーシュルゼダンジョン
ラダンさんとイレーヌさんとパーティーを組んだ私達は今、ワーシュルゼのS級ダンジョンに潜る準備をしている。
ゼロは武器防具屋で手甲と足甲を買い、私は新しい杖を買った。
魔法具店でアイテム袋を二つ買って、回復薬や魔力回復薬、食料も買い揃えた。
なお、お金はなかったので、イレーヌさんに借りた。
準備が整った私達四人はS級ダンジョンへと向かい、ダンジョンの門番に冒険者カードを見せて中へと入る。
中に入ると、早速モンスターが現れた。
二足歩行している牛のモンスターミノタウロスが三体。
甲冑を纏い、大きな斧を持っている。
即座にラダンさんとゼロが前衛に立ち、私とイレーヌさんが後衛から掩護をする形をとる。
イレーヌさんはラダンさんに上級風属性魔法サイクロンのエンチャントをかけ、全属性に適性を持つゼロに、私は上級聖属性魔法のエンチャントをかけた。
ラダンさんはSランク冒険者なだけあってミノタウロス一体を簡単に仕留める。
ゼロも負けてはおらず、ミノタウロスの頭を蹴り技で吹き飛ばした。
残るは一体。
ラダンさんの風を纏った拳と、ゼロの白い光を纏った蹴りが同時に炸裂して最後の一体は胸に大きな風穴を開けて消滅した。
ミノタウロス達は斧を二本と甲冑を一つ落とした。
売れば良い値段で売れそうだ。
この調子でモンスターを倒していけば、イレーヌさんに借りたお金もすぐに返せそうだ。
だけど油断は禁物。
私達が潜っているのは最高難易度のS級ダンジョン。
油断すれば簡単に足元をすくわれるだろう。
このS級ダンジョンは罠も多いらしいし、階層も五十階層まであるらしい。
注意深く進まなければ。
一日かけて二十階層まで攻略した。
十階層のボスモンスターも二十階層のボスモンスターも中々手強かったけど、私達四人の敵じゃなかった。
でも流石に疲れたので、今日はこの二十階層で野宿する事になった。
食事はイレーヌさんが張り切って作ろうとしたけど、ラダンさんが慌てて止めてラダンさんが作ってくれる事になった。
だけど、ジアスの料理と比べると物足りない。
不味い訳ではないけど、美味しいと呼べる程でもない微妙な味なのだ。
そんなラダンさんが表情を変えて止める程のイレーヌさんの料理が気にはなるけど、決して食べないようにしよう。
ダンジョンに潜って二日目。
罠を回避したり、宝箱を開けたり、モンスターを倒しながら三十階層と四十階層のボスモンスターを倒した。
今日は私が食事を作る事になった。
イレーヌさんが作りたそうにしていたが、ラダンさんの必死に止める姿を見ているのだ。
作らせる訳がない。
ゼロも料理は得意ではないらしく、この四人でなら私が一番マシだと思う。
干し肉を入れた根菜のスープとパンを美味しそうにラダンさんは食べてくれる。
ゼロは無表情だけど、食べているので不味いとは思っていないだろう。
昨日もそうだったけど、イレーヌさんは味が物足りないのか香辛料や塩などを後入れしている。
結構な量を入れていたけど、美味しそうに食べている。
やっぱりこの人に作らせなくて正解だった。
二日目も順調に進み、三日目。
罠に多少苦戦したけど、最下層の五十階層まで来る事が出来た。
目の前の大きな扉を開けると、部屋の中心に居たのは物凄く大きなサソリ。
「デッドスコルピオンだ!! 尻尾の針に注意しろ!!」
ラダンさんの声と同時にデッドスコルピオンの尻尾から針が飛んでくる。
私は、最上級聖属性防御魔法アイギスを展開して飛んできた針を防ぐ。
その間にイレーヌさんは、ラダンさんにサイクロンのエンチャントをかけた。
風を纏ったラダンさんの拳がデッドスコルピオンの腹に炸裂してデッドスコルピオンの身体が浮き上がるけど、デッドスコルピオンは大して効いていないみたいで、鋏になっている前腕でラダンさんを挟もうとしている。
私はレヴァンティンをゼロの身体にエンチャントする。
白いオーラを纏ったゼロは駆けてラダンさんを挟もうとしているデッドスコルピオンの前腕を蹴り飛ばす。
蹴りの衝撃で、デッドスコルピオンの前腕の甲殻にひびが入った。
デッドスコルピオンがゼロの一撃で怯んでいる間に、私はイルティミナに教えてもらって修得した最上級風属性魔法ハストゥールをラダンさんにエンチャントする。
サイクロンのエンチャントとは比にならない程の青いオーラを放つ暴風がラダンさんの身体に纏わりつく。
「おぉ、すげぇ!! これなら奴の硬い甲殻もぶち破れそうだ!!」
青いオーラを放つ暴風がデッドスコルピオンに向かう。
デッドスコルピオンは近付いてくるラダンさんに向かって針を飛ばすけど、纏う風がそれを弾く。
暴風を纏ったラダンの拳がデッドスコルピオンの口に炸裂して顔が潰れる。
とどめは、いつの間にか空中に居たゼロの踵落としで胴体に穴が空いて光の粒子となって消えた。
デッドスコルピオン。中々の強さだったけど、私達の敵じゃなかった。
光の粒子となって消えたデッドスコルピオンが残したのは、大きな甲殻。
この硬い甲殻は手甲を作るのに使えるとラダンさんが喜んでいる。
ゼロも心なしか嬉しそうに甲殻を見ているように見える。
甲殻をアイテム袋に入れた私達は壁に埋め込まれているダンジョンコアに近付く。
「これを吸収するのよね?」
イレーヌさんの言葉に頷きながらダンジョンコアに触れると、ダンジョンコアが光りだし、頭の中にダンジョンコアの声が響く。
『ダンジョンマスターを認識しました。現在、貴方様はF級ダンジョンコアをお持ちです。S級ダンジョンコアと統合しますか?』
『うん、お願い。それとダンジョン創造とダンジョン管理の能力はS級ダンジョンコアを統合すれば使えるようになる?』
『イエス。S級ダンジョンコアを統合すれば、ダンジョンマスターは、ダンジョン創造とダンジョン管理の能力が使える様になります』
『なら統合した後、このダンジョンが崩壊しないように管理下に置くわ。名前はワーシュルゼダンジョン』
『了解しました。S級ダンジョンコアの統合と同時に、このダンジョンをダンジョンマスターの管理下に置きます』
激しく光っているダンジョンコアは私の中に吸収された。
その光景を見て、ラダンさんとイレーヌさんが驚いている。
『ダンジョンコアの統合が完了し、ワーシュルゼダンジョンがダンジョンマスターの管理下に置かれました』
『うん、ありがとう。それじゃあ、ダンジョンの一階に私達を転移してくれる?』
『了解しました』
ラダンさんとイレーヌさんとゼロに私に触れてもらって一階へと転移した。
転移の事は事前に話していたけど、それでもラダンさんとイレーヌはかなり驚いている。
ゼロは相変わらずの無表情。
よし、これでダンジョンを崩壊させずにダンジョンコアを回収出来る。
私は再び手に入れた能力に喜びながらワーシュルゼダンジョンから出た。
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