第八話 伝言
ワーシュルゼダンジョンを攻略した私達は、冒険者ギルドで手に入れたアイテムを換金した。
デッドスコルピオンの甲殻は鍛冶屋に持って行って、ラダンさんとゼロの手甲と足甲を作ってもらうように依頼した。
イレーヌさんに借りたお金を返しても余る程の大金を手に入れた。
流石はS級ダンジョン。
S級ダンジョンを攻略した私達は、食事処で夕食を食べながらこれから先の事を話す事にした。
「ワーシュルゼのS級ダンジョン攻略したが、これからどうする?」
「う〜ん、もう少しダンジョンコアを集めたいかな」
ラダンさんの問いに食事を食べながら答える。
「ダンジョンコアを集めるなら南下して、ビボルグの街のB級ダンジョンと、サイハラスの町のD級ダンジョンに行った後、南大陸に渡ってダンジョンを攻略するのは如何かしら?」
イレーヌさんの提案に私は頷き、とりあえずマドランガ共和国を南下する事になった。
「その前に会いに行きたい人が居るんだが、一緒に会いに行かないか? お前も会って損はない人だ」
「会うのはいいけど、誰に会うの?」
「マドランガ共和国最強の剣士であり、十二星王の一人でもあるゼアルス·シルファリオだ。」
「ゼアルス·シルファリオ!? あの剣王ゼアルス!?」
「ああ、そうだ。俺の師匠の友人なんだが、ラティスに聞いた事を話しておこうと思ってな。話せば必ず味方になってくれる筈だ」
ゼアルス·シルファリオは剣の四大流派の一つであるシルファリオ剣術の開祖であり現当主。
四大流派で最も歴史が浅い流派だけど、今最も勢いのある流派でもある。
シルファリオ剣術は、数ある剣術の中でも最も美しいと称されている剣術。
特に当主であるゼアルスの剣術は、まるで踊っているかの様に美しいらしい。
ルートヴィヒやセシルも剣王の剣術を一度でいいから見てみたいと言っていた。
そんな剣王が味方になってくれるかもしれないだと?
そんなの会わない訳にはいかない。
「ぜひ会わせて!!」
翌日。
私達四人は、ワーシュルゼにある音楽劇場へとやって来た。
ここに剣王が居るらしい。
劇場の中に入ると、沢山の観客の視線が前方のステージへと向けられている。
オーケストラが美しい旋律を奏でる中、ステージ中央でレイピアを片手に持ち、舞う様に剣術を披露する一人の青年。
茶髪を肩まで伸ばした青色の瞳の青年の剣舞は大変美しく、観客を魅了している。
数十分後、剣舞は終わり、観客は皆劇場から出ていった。
ラダンさんに付いていき劇場の楽屋へと行くと、先程剣舞を披露していた青年が居た。
「久しぶり、ゼアルスさん。今日の剣舞も素晴らしかったぜ」
ラダンさんがゼアルスと呼んだ青年に笑顔で話しかける。
「ありがとう。今日はイレーヌだけじゃなく、美しいお嬢さんが他に二人も居たからね。張り切ってしまったよ。初めまして、私はゼアルス·シルファリオ。お見知りおきを」
ゼアルスさんは、私とゼロに向かって華麗にお辞儀をする。
「初めまして。私はラティス。こっちはゼロ。よろしくお願いするわ」
「あぁ、よろしく。仮面で顔は見えないが、その麗しい声で君が美しい女性なのはわかるよ。君の美しい顔を見てみたいのだけれど、何か見せれない理由がありそうだね? ラダン、何故彼女達を連れてきたのか説明してくれるかい?」
微笑を浮かべるゼアルスさんに、ラダンさんは私達の事とアルジュナの事を説明した。
「···ふむ、それで君達はアルジュナに対抗する為にダンジョンコアを集めているのか」
ゼアルスさんは荒唐無稽な話を大して驚きもせずに信じてくれる。
「あぁ、、それでゼアルスさんにも力を貸してもらおうと思ってやって来たんだ」
「なるほどね。わかった、喜んで力を貸そう···と言いたい所なんだけど、三ヶ月後にヨルバウム帝国王都シュライゼムで世界最高議会が開催されるらしくてね。私も参加しなければならないんだ。だから君達に付いて行けそうにない」
シュライゼムで世界最高議会が開催される!?
「それはアルジュナの件でって事よね?」
「あぁ。アルジュナと戦う為に世界中の国々を一致団結させる必要があるとヨルバウム帝国の皇帝は考えたのだろうね。十二星王にも招集命令がかかっているからイルティミナやパラケルトも居ると思うし、君の事を伝えておこうか?」
「うん、お願い。私が死んだと思ってきっとルートヴィヒは悲しんでいるわ」
「わかった、必ず伝えるよ」
これで私が生きている事がルートヴィヒ達に伝わる。
その事に喜びながらゼアルスさんと別れ、私達は新たなダンジョンコアを求めてワーシュルゼから旅立った。
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