第六話 光迅流十五代目当主


 キルハとの勝負を終えて家に戻ると、クルトがイルティミナ先生やパラケルトさんとお茶を飲みながら話していた。


 「ルートヴィヒ。本当にもう大丈夫そうだな。心配してたんだぞ」


 クルトが安堵したような表情で僕を見つめる。


 「すみません、心配かけました。でももう大丈夫です」


 「そうか、安心した。それならおまえにも話していた方が良さそうだな」


 「話?」


 「ああ、世界最高議会が三ヶ月後にここシュライゼムで開催される事になった。それで十二星王も招集される事になったからイルティミナ様とパラケルト様に話しに来たんだ」


 「···世界最高議会。やはり戦争になりますか?」


 「おそらくな。あのアルジュナという古代人の言う事を聞く国はないだろう。でもあのアルジュナにはユルゲイトや傭兵王もついている。油断はできない。相手の戦力が未知数な以上、世界最高議会を開いて一致団結する必要がある」


 確かに相手の戦力は未知数。


 オルファースト王国は王が不在で、ヨルバウム帝国軍から派遣されていた一軍しか居ない状態だったとはいえ、アルジュナ達は瞬く間に支配してしまったのだ。


 油断は禁物だ。


 世界最高議会で世界中の国々が団結できればいいけど。


 それに十二星王の招集。


 何か起きる気がしてならない。


 クルトが帰った後、夕食を食べる事になったんだけど、何故かまだキルハが居る。


 「何でまだあなたは居るんですか?」


 ローナにスープのおかわりを貰っているキルハを睨む。


 「何でって、お前達はあの古代人と戦うんだろ? あいつはカルフェドのおっさんの仇だからな。あいつを倒すまでは一緒に居させてもらうぜ」


 キルハはそう言い終わると、よそってもらったスープを一気飲みし、食卓に並ぶ肉にかぶりつく。


 ···はあ〜、キルハはこちらの言う事を聞きそうにないし受け入れるしかなさそうだ。


 敵だったキルハが共に戦うのは複雑だけど、戦力としては心強い。


 そう自分に言い聞かせてキルハを受け入れる事にした。



 翌日、光迅流道場へとセシル、ナギさん、キルハと共に向かった。


 強くなった自分が何処まで強くなったか確認したくて、当主であるメルト先生と手合わせする為にやって来た。


 メルト先生は僕の顔を見て、用件がわかったらしく、僕に木刀を放り投げてきた。


 「さぁ、始めようか」


 「はい、お願いします!!」


 僕とメルト先生は向かい合い、試合の合図を待つ。


 審判はメルト先生の娘であるナーゼさんが務めてくれる事になった。


 ナーゼさんは僕とメルト先生を見た後、一息吐いて開始の合図を出した。


 以前戦った時は光迅化した状態でも負けた。


 だけど今日は光迅化は使わない。


 使わないで自分が何処までやれるか見極める。


 しばらく見つめ合いメルト先生の出方を伺っていると、メルト先生が動き出した。


 瞬歩を使い、僕の後方へと回り込み、一ノ型疾風の応用技、六疾風を放ってくる。


 けど、六つの斬撃全てが見える。


 六つの斬撃全てを剣で防ぎ、カウンターで三ノ型燐閃を放つ。


 メルト先生は燐閃を燐閃で打ち消し、連続でニノ型激迅を放つ。


 疾い!! 疾い筈なのに見えるしどう動けばいいのかも分かる。


 僕も激迅を放ち、木刀と木刀が激しくぶつかり合う。


 暫し、剣と剣をぶつけ合った後、一旦僕達は距離をとる。


 「ふふっ、少し見ない間に急成長を遂げたね。これは全力で相手しないと失礼にあたるね」


 メルト先生はそう言って、光迅流六ノ型瞬光の構えをとる。


 メルト先生が瞬光を放つのなら僕も放たない訳にはいかない。


 僕も瞬光の構えをとり、数秒の静寂の後、お互いに瞬歩で加速して最速の突きを放つ。


 「「光迅流六ノ型瞬光!!」」


 木刀の先端と先端がぶつかり合い片方の木刀が宙を舞う。


 そしてもう一方の木刀は相手の胸に触れるか触れないかの距離で止まる。


 道場には百名以上の人間が居るというのに静寂が場を支配する。


 数秒の静寂の後、審判のナーゼさんが我に返り、勝者の名を告げる。


 「勝者、ルートヴィヒ!!」


 ナーゼさんの声で道場にどよめきが起こる。


 皆この結果に驚いているようだ。


 僕自身も驚きを隠せない。


 強くなったとは思っていたけど、まさかここまでとは。


 僕が呆然としていると、メルト先生が笑顔で手を差し出してくる。


 「実に見事だったよ、ルートヴィヒ」


 笑顔で称賛してくれるメルト先生の手をとり握手をする。


 「勝った君に与えられる物は一つしかないんだが受け取って貰えるかな?」


 メルト先生の言葉に首を傾げる。


 「光迅流当主は世襲制じゃない。現当主が認めた者か、現当主を倒した者が継ぐ事になっている。君は僕を倒したし、僕は君を認めている。つまり君は十五代目の当主になる資格があるんだが、引き受けてくれるかな?」


 光迅流の当主!? 僕が!?


 「ぼ、僕はまだ人に教えられる程の人間ではないですし、それに命を賭してでも戦わないといけない相手がいます。とてもじゃないですが引き受ける事はできません」


 頭を下げ断るが、メルト先生は笑みを浮かべながら僕の断りを拒否する。


 「ルートヴィヒ、光迅流において当主に勝つというのは軽い事じゃないんだ。教える事なら私がサポートするし、光迅流当主という肩書きは君の戦いにも役に立つと思う。当主になったからと言って、君を道場に居させて剣を教えさせようとは思っていない。剣を教える事は先代である僕にも出来る。当主になっても君は君がしたいようにすればいい」


 メルト先生は笑みを浮かべているけど、その瞳は鋭く僕を見つめている。


 当主に勝つという事は僕が思っている以上に大事らしい。


 それに当主になったからといって行動を制限されないみたいだし、光迅流当主の肩書きがこれから先の戦いに役立つというのなら断る理由はない。


 僕は光迅流十五代目当主になる事を決めた。


 「···わかりました。十五代目当主を引き受けます」


 「そうか、それは良かった。皆、今日から光迅流当主はこのルートヴィヒ·バンシールだ。肝に銘じて置くように」


 道場中に大きなどよめきが起きる中、僕は光迅流当主となった。


 この日、僕が当主という事に納得いかない門下生達と試合をして、勝つ事で半ば強引に当主だと認めさせた。


 僕が当主になった事をセシルとナギさんは喜び、キルハは「また離された」と言って拗ねていた。

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