第七話 VSクラーケン②


 三十体以上のクラーケンとの戦いは中々骨が折れた。


 クラーケン達は船に絡みつこうと近付いてくる。船を巻き込む恐れがあるので、最上級魔法や広範囲魔法は使えない。


 チェルシー、ステラ、イルティミナは防御魔法をかけながら、一匹一匹を魔法で撃ち抜いていく。


 僕とセシルは上位種のクラーケンと戦う為に魔力を温存。ステラとチェルシーにエンチャントをかけてもらい、雷迅化と光迅化になる。


 ダンジョンで手に入れた黄金剣クラウソラスはとても切れ味が良く、クラーケンの丸太の様に大きい触腕をバターを切るかの様に切断していく。


 ステラとイルティミナが魔法で海を凍らせて足場を作ってくれたので、次々とクラーケンを斬り殺していく。


 ミネルバさんがクラーケンの急所が目と目の間だと教えてくれたので、急所を突いていく。


 一時間の戦いの末に現れたクラーケンを倒し尽くしたが、まだ上位種のクラーケンが現れていない。


 倒したクラーケンをアイテム袋に入れていると、海に大きな渦ができて、そこから一際大きなクラーケンが姿を現す。


 「出たよ!! あれが親玉の上位種クラーケンだ!!」


 ミネルバさんは上位種クラーケンを見て表情を強張らせる。


 ステラとイルティミナが上位種クラーケンを凍らせようと最上級水魔法フロストワールドを放つけど、上位種クラーケンは海に潜り回避する。


 凍った海面を割りながら再び姿を現す上位種クラーケン。


 だがこれで海に足場が増えた。


 割れた氷塊を足場にして雷迅化したセシルと光迅化した僕は、上位種クラーケンに肉薄してその巨体を切り裂く。


 上位種クラーケンの皮は分厚く傷は浅い。


 上位種クラーケンは怒ったのか、身体を赤く変色させて暴れる。


 上位種クラーケンは口から高圧の水弾を船に向かって放つ。


 イルティミナ達が防御魔法でそれを弾く。


 無数の大きな触腕が僕とセシルに襲いかかる。


 通常のクラーケンと同じように切断しようとするけど、皮が分厚い上に硬く切断までは至らない。


 これでは急所である目と目の間も硬くて貫きにくいかもしれない。


 僕はセシルに視線を向ける。


 セシルは僕がしたい事がわかったのか無言で頷いてくれる。


 僕とセシルは突きの構えをとる。


 光迅流六ノ型瞬光の構えだ。


 セシルと同時に上位種クラーケンの急所に瞬光を放つ。


 これなら確実に急所を貫ける。


 上位種クラーケンは危険を察知したのか海に潜ろうとするが、イルティミナが魔法で光の鎖を生み出し見動きができないようにしてくれた。


 僕とセシルは駆けて、上位種クラーケンの急所に渾身の瞬光を放つ。


 上位種クラーケンは奇声をあげた後、身体が白くなり絶命した。


 僕達はクラーケン討伐に成功した。


 上位種クラーケンはとても大きいので、部位で切り分けてアイテム袋に入れた。



 港に戻ると、サザランの町民達が、心配そうに僕らを見ている。


 アイテム袋からクラーケンの死体を取り出し、町民達に見せると、心配そうな表情は喜びの表情に変わり、歓声が上がる。


 クラーケンの身は物凄く美味いらしく、港で焼いて、町民達と一緒に食べながらクラーケン討伐を祝う。


 町民達は酒を飲み、喜び合う。


 一種の祭となった宴は朝まで続いた。


 やっと宴が終わったので、僕達は眠い目をこすりながら冒険者ギルドへと向かう。


 ギルドのカウンターにはミネルバさんが居た。


 クラーケン討伐のクエスト達成の報告に来たんだけど、ミネルバさんなら話が早い。


 「クラーケン討伐達成の報告だろ? もう済ませてあるよ。これが報酬だ」


 カウンターに金貨が溢れんばかりに入った布袋を置くミネルバさん。


 難易度SSのクエストだけあって報酬も凄い。


 報酬は皆で山分けにしてアイテム袋に入れた。


 これで、ガラルホルンに行けるようになったので、港へ向かおうとすると、ミネルバさんに引き止められる。


 「ちょっと待ちな。ステラ、セシル、ルートヴィヒ。冒険者カードを出しな」


 何事かと疑問に思いながらもミネルバさんに冒険者カードを渡す僕達。


 ミネルバさんは冒険者カードに手を当て、ぶつぶつと詠唱をする。すると冒険者カードが光りだす。


 光が止むと冒険者カードを僕達に返してくれる。


 「冒険者カードを確認しな」


 言われた通りに確認すると、冒険者ランクがFからAに変更されている。


 Aランクになったのはステラとセシルも同じらしく、驚いた顔をミネルバさんに向ける。


 「今回のクラーケン討伐のもう一つの報酬だ。あんた達はS級ダンジョンも踏破しているし、本当はSランクにしてあげたかったんだけど、私の権限じゃAランクにするのが精一杯でね」


 申し訳なさそうな顔をするミネルバさんだけど、ステラとセシルは喜んでいる。


 「あのう、Bランク冒険者だったステラはともかく、セシルと僕はFランクだったのに一気に上げても大丈夫なんですか?」


 「ああ、心配は要らないよ。ギルドマスターにはAランクまでなら自己判断で上げる事が出来る権限があるんだ。あんた達の実力はこの目で確かに見たし問題ない。だから胸を張ってAランク冒険者を名乗りな」


 ミネルバさんは僕の背中を笑いながら叩く。


 こうして僕とセシル、ステラはAランク冒険者になった。


 クラーケンを討伐した僕達は、サザランの町民達に見送られながら魔導船に乗り込み、ガラルホルンへと向かう。

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