第十六話 マッドサイエンティスト


 連合軍との戦いは終わり、ミュルベルト王国は救えたが、連合軍の盟主国であるオルファースト王国は未だ健在。


 ミュルベルト王国軍司令官の将軍シュドメル·バウザーが率いるミュルベルト王国軍の幕僚達と、ヨルバウム帝国東軍司令官であるクルトが率いるヨルバウム帝国東軍の幕僚達で話し合った結果、オルファースト王国に攻め入る事になった。


 ミュルベルト王国軍は四万の兵力を持っているが、戦争後の治安維持などの問題もある為、シュドメル将軍と二万の兵はこの場に残り、半分の二万の兵力をヨルバウム帝国東軍に預ける形になった。


 ワナゼンダ国とベストア王国の兵士達と合流すれば、ヨルバウム帝国東軍の兵力は合わせて五万。連合軍に兵力を割いたオルファースト王国に攻め入るには充分だ。



 二日程、休息した後、オルファースト王国に向けて進軍を開始した。


 ミュルベルト王国とオルファースト王国の間にも山脈がある為、ワナゼンダ国まで戻り、そこから北上するしか道はない。


 進軍は順調に進み、ワナゼンダ国まで戻って来た。


 ワナゼンダ国で休息を取った後、北に向かって進軍を再開する。


 オルファースト王国とワナゼンダ国の間には、二つの小国セピレイ皇国とマケバニ王国がある。


 この二つの国も連合軍に参加している。


 慎重に進軍する。


 だが、連合軍が敗れた報せが届いていたのか、セピレイ皇国もマケバニ王国も何の抵抗もせずに僕達を国へと入れた。


 戦闘を覚悟していた僕達だけど、二つの国が無抵抗だったおかげでオルファースト王国の目の前まで進軍出来た。


 流石に戦いが起きると思ったが、オルファースト王国の門は簡単に開く。


 オルファースト王国兵に戦う意志はないみたいだ。


 疑問に思いながらオルファーストの村や町を進んでいくと、やけに村や町の人口が多い。


 村民や町民に聞くと、オルファースト王国王都カルガニオから逃げてきた民達らしい。


 王都カルガニオには無差別に人を襲う兵士達が蔓延っているらしく、王都民は他の村や町に逃げ込んだらしい。


 襲っているのはエボリュトを飲んだ兵士達だろう。それも真の力とやらに至った兵士達に違いない。


 ラライドが言っていたエボリュトの真の力を与えられた兵士達に理性はなかった。


 あの状態ならば無差別に人を襲ってもおかしくはない。


 僕達は王都カルガニオに向けて足を進める。


        ◆◆◆



 私達はオルファースト王国王都カルガニオに入った。


 王都民の姿は全くなく、居るのは理性を無くし、身体から黒いオーラを放つオルファースト兵士だけ。


 私達を発見すると、奇声を上げながら襲いかかってくる。


 ヨルバウム帝国東軍の兵士達が剣で斬りつけるが、皮膚が硬化していて刃が入らない。


 「ここは任せてイルティミナ様、メルト子爵、ルートヴィヒ、セシル、チェルシー、ステラは王城へと向かえ!!」


 クルトにはエボリュトや私の事がオルファースト王城に行く事で分かるかもしれないという事を話している。なので私達を王城へと向かわせようとしてくれている。クルトの声で味方兵士達が狂戦士と化したオルファースト兵士達を押しのけて道を作ってくれた。


 私達はその道を駆けてオルファースト城へと向かう。


 メルトさん、ルートヴィヒ、セシルが先頭に立って襲いかかってくる敵兵達を倒していく。


 王城内の敵兵達も倒し、謁見の間へと入る。


 そこには三人しか人が居なかった。


 一人は玉座に座る王冠を被った老人。恐らくこの国の王だろう。だが、目は虚ろで口から涎を垂らしている。


 一人は玉座の左側に立つ傭兵王バーン·マグナス。


 一人は玉座の右側に立つ見覚えのある顔の男性。


 「ラライド·セプシアン!? 何でここに!? 確かに殺した筈だ!!」


 セシルが動揺し、大声で叫ぶ。


 セシルが動揺するのもわかる。そこに立っているのは間違いなくラライドと同じ顔の人間だ。


 私達が動揺している中、ラライドの顔をした男が口を開く。


 「ふふっ、僕がラライド? 所詮は僕のコピーでしかない人間と一緒にしないでほしい。それよりも興味深い人間が居るね?」


 ラライドの顔をした男は、私だけに視線を向ける。


 その視線は私の全てを覗きこもうとしている様で気持ち悪い。


 私が身をすくませているとルートヴィヒが私の前に立ち、視線から守ってくれる。


 「僕はラライドからここに来れば、エボリュトと妹ステラの事が分かると聞きました。それを知っているのはあなたですか?」


 ラライドの顔をした男はルートヴィヒに気持ち悪い笑みを向ける。


 「ほう? ラライドがそう言ったのか。ふふっ、ラライドも最後に役に立つ事をした」


 「どういう事ですか?」


 「ふふっ、君はラライドに誘導されたのだよ。君の妹を僕の前に連れてくるためにね」


 「なっ!?」


 ルートヴィヒが私を庇いながら剣を構える。


 「ふふっ、落ち着きたまえ。君は確かにラライドに誘導された。だが、ラライドの言った事もまた事実だ。僕がエボリュトを作り、君の妹を作った」


 ···私を作った? ···どういう事!?


 「ステラを作った? どういう意味ですか!?」


 「そのままの意味だ。ふふっ、言って説明するよりも見てもらった方が早い」


 ラライドに酷似した男が指を鳴らすと、男の前に仮面を被った女性が三人現れる。


 「さぁ、お前達、仮面を外してあげなさい」


 「「「イエス、マスター」」」


 言われた通りに女性達が仮面を外すとそこには見覚えのある顔が。


 ···そう私の顔だ。


 私よりも年齢は上だけど、私と同じ髪色に私と同じ顔立ち。


 こ、これはどういう事!?


 「···以前、世界魔法学院大会の会場でもその仮面の女性を見ました。やはりステラと関係があるのですね?」


 なっ!? ルートヴィヒは私に似ている女性に会った事があるの!? それに仮面を着けた女性って世界魔法学院大会で薬をばら撒いた女性と特徴が一致する。


 「ふふっ、もちろん関係あるさ。とは言ってもこの三人は失敗作で、唯一の成功作は君の妹だけなんだが」


 「成功作? どういう事ですか?」


 「ふふっ、説明してあげてもいいのだが、これ以上は君達の保護者が許してくれなさそうだ」


 ラライドに酷似した男に黒い鎖が絡みつく。


 イルティミナが手を前に出している。恐らくイルティミナが魔法で生み出した鎖だろう。


 「続きは牢の中で聴くべさ。観念するべさ、ユルゲイト·スペンサー!!」


 ユルゲイト? 聞いた事がある。


 十二星王の一人である錬金王パラケルト·スミスと並び立つ才を持ちながら、狂気じみた研究から十二星王に選ばれなかったマッドサイエンティスト。


 「おやおや、流石は魔導女王。僕の正体に気付いていたか」


 「ふん、人間を作るなんてイカれた事をする奴はお前しか居ないべさ」


 「ふふっ、褒め言葉と受け取っておこう。だがこんな魔法程度で僕を捕えたつもりかな?」


 ユルゲイトが立つ地面に魔法陣が浮かび上がる。


 するとその場からユルゲイトの姿が消え、私達の後方へと現れる。


 「まさか、転移魔法を使えるべさ?」


 「自分だけが使えるとは思わない事だね、イルティミナ」


 ユルゲイトは再び玉座の右側に現れる。


 「本当は成功作の回収をしておきたい所だけど、イルティミナに、光の剣聖メルトが守る中、回収するのは難しそうだ。オルファーストでの実験も済んだ事だし、今日の所は引き下がるとしよう」


 ユルゲイトが立つ地面に一際大きな魔法陣が浮かび上がる。


 その魔法陣の上に私と同じ顔の女性三人と傭兵王も立つ。


 「行かせる訳ないべさ!!」


 イルティミナが赤き閃光を放ち、メルトさんが駆けて剣を振るうけど、光の壁に阻まれる。


 「ちっ、最上級魔法も使えるべさか」


 「ふふっ、私を舐めないでほしい。それと成功作君。君はステラと言ったかな? 今、君は凄く混乱していると思うが、自分の事が知りたいだろう? ならダンジョンにあるダンジョンコアを集めるといい。そうすれば自分の事が分かるだろう」


 ユルゲイトはそう言って、傭兵王や私に酷似した三人の女性と共に魔法陣の中に消えていった。


 残ったのは廃人と化している玉座に座った王様と、私達だけ。


 オルファースト王国は制圧出来たけど、なんとも後味の悪い結果になった。

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