第十七話 凱旋
オルファースト王国に蔓延る狂戦士達を一掃し、オルファースト王国を制圧した。
制圧したはいいが、王族や国の重鎮達は国王以外皆殺されていた。唯一生きている国王も廃人化しており、オルファースト王国はもはや滅亡したと言っても過言ではない状況だ。
オルファースト王国の王城地下にて、ユルゲイトが使っていたであろう研究室が見つかった。
その研究室にはエボリュトを作っていた痕跡が残っていたが、それ以外は持ち出されたみたいでたいした成果は得られなかった。
オルファースト王国は暫定的にヨルバウム帝国の統治下に置かれる事になった。
オルファースト王国に代理の執政官と一万の兵士を残して、ヨルバウム帝国に帰還する為にオルファースト王国をあとにした。
二万のミュルベルト王国軍とはワナゼンダ王国で別れた。
クルトは三人の幕僚を連れてイルティミナの転移魔法で先にヨルバウム帝国王都シュライゼムへと戻った。
イルティミナの転移魔法は一度に五人までしか転移出来ないらしく、私達は馬車でシュライゼムへと戻る事になった。
歩兵がいるので馬車のスピードは歩くのと変わらないスピードだけど。
馬車に揺られている間、私はユルゲイトに言われた言葉を思い出していた。
私はユルゲイトによって作られた人間? では何の目的があって作ったのか。···考えてみるけどわからない。
思案しているとルートヴィヒが心配そうに見つめている。
そういえばルートヴィヒは世界魔法学院大会の時に私に酷似した仮面の女性に会っていたらしい。
「···お兄ちゃん、どうしてすぐに世界魔法学院大会の時に会った仮面の女性が私に酷似している事を教えてくれなかったの?」
私の問いに申し訳なさそうな顔をするルートヴィヒ。
「ごめん。エボリュトをばら撒いていた仮面の女性がステラに酷似していたと知られたら、ステラにあらぬ容疑がかかると思って言えなかったんだ」
···そっか、そうだよね。私と酷似している女性がエボリュトをばら撒いていたのなら私も疑われてもおかしくなかった。
私を守る為にルートヴィヒはずっと黙っていてくれたのだ。
「···お兄ちゃん、ごめんね。少しだけだけど、お兄ちゃんが私に隠し事をしていたのがショックだったの。でも私の為に黙っていてくれたんだね。ありがとう」
「お礼を言われる事じゃないよ。僕はただ真実が分かるとステラが遠くに行くような気がして怖かったんだ」
ルートヴィヒは不安そうな顔をしている。
そんなルートヴィヒに私は抱きつく。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんは私がどんな存在でも一緒に居てくれる?」
「もちろん。例えユルゲイトが作った存在でも、ステラは僕の妹だ。ステラが嫌がらない限り、僕はずっと側にいるよ」
「じゃあ、私は遠くになんて行かないよ。ずっとお兄ちゃんの側にいる」
ルートヴィヒから不安そうな表情が消え、笑顔で私の頭を撫でてくれる。
うん、例え私がどの様な存在でも、ルートヴィヒが居てくれるなら怖くない。
ルートヴィヒに抱きつきながら私は眠りについた。
ヨルバウム帝国に戻るのに二ヶ月かかった。
王都シュライゼムに戻る途中、フェブレン領都市キプロにあるフェブレン邸に寄り、家の留守を預かっていたセシルの母であるオリヴィエ様にアルゴ様が亡くなった事を伝えると、泣き崩れた。
ケルヴィ様はそんなオリヴィエに寄り添う。
執事のバイロさんも辛そうに顔を歪ませている。
フェブレン邸に残っていたジェイドは自分が戦場に行かなかった事を悔しがっていた。
でも、ジェイドはフェブレン邸の警護も担当していたのだ。仕方ない。
アルゴ様の死はすぐにキプロの住人にも伝わり、皆が悲しんだ。
その光景を見てアルゴ様は皆に愛されていたんだなと感じた。
ケルヴィ様はフェブレン邸に残るみたいなので、ケルヴィ様を残して私達は王都シュライゼムに向かう。
歩兵に合わせていたので、一ヶ月かけて王都シュライゼムに着いた。
王都シュライゼムに入ると、王都シュライゼムの住民達が出迎えてくれる。
住民達の歓声が凄い。魔法で花火も打ち上がっている。
まるでパレードの様に私達の凱旋を祝ってくれた。
私、ルートヴィヒ、セシル、チェルシーは魔法学院の寮へと向かう。
ルートヴィヒ、セシル、と別れて女子寮に入ると、ローナが抱きついてきた。
ローナは泣きながら私達の無事を喜んでくれる。
私も泣きながらローナに抱きつく。
ローナが無事に戻って来て良かった。
チェルシーは抱き合っている私とローナを見て珍しく笑っている。
再会を喜んだ後、マルタも無事にシュライゼムに戻ってきているとローナから聞いた。
マルタにも後で会いに行かないと。
今回の戦争で、人を沢山殺し、味方も沢山死んで、アルゴ様も亡くなり、私が只の人間じゃない事が分かった。
色々辛い事はあったけど、私が戦争に参加した事で助かった命も沢山あった。
私はこれから先も戦争で人を殺した事を悩み続けると思う。
でもこの戦争に参加した事を後悔しない。
だって救った命は確かにあったんだから。
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