第十五話 VS連合軍⑨


 幾何学模様の魔法陣の上に立つラライドが杖を前方へと出すと、ドーピング兵士達の身体から黒いオーラが溢れ出る。


 「「ぐあっ!? ぐぁぁぁああ!!」」


 ドーピング兵士達は急に苦しみだしたかと思えば、身体が一回り大きくなり、口から涎を垂らしている。


 「エボリュトの真の力を見せてあげましょう。さぁ、兵士達よ、存分に暴れなさい!!」


 「「ぐがぁぁぁあっ!!」」


 理性を失った様に見える敵兵士達が襲いかかってきた。


 敵兵士は剣を使わずに、鋭利に尖った爪で攻撃してくる。


 くっ、速い!? 身体能力が通常のドーピング兵よりも更に向上している!?


 爪を剣で受け止めるけど、押される。


 さらに横から敵兵士が爪で攻撃してくる。


 後方へと飛んで攻撃を躱し、敵兵士の首を跳ねようとしたけど、皮膚が硬化していて浅い傷しかつけられない。傷を負っても怯まない敵兵士達は、剣と打ち合える程に硬化した爪の連撃を繰り出してくる。


 セシルも敵兵の攻撃を捌くので精一杯だ。


 このままじゃまずい。


 「ステラ、セシルにライトニングのエンチャントをかけて!! チェルシーは僕にレヴァンティンのエンチャントを!!」


 「了解!!」


 「···わかった」


 魔力を杖へと溜めてステラはセシルにライトニングをエンチャントして、チェルシーは僕にレヴァンティンをエンチャントする。


 雷迅化したセシルと光迅化した僕は、敵兵士達の爪撃を躱して、敵兵士達の首を刈り取る。


 流石に雷迅化したセシルと光迅化した僕の攻撃は通った。


 次々と敵兵士を殺していくと、ラライドが空中に巨大な魔法陣を生み出す。


 「インフェルノ!!」


 魔法陣から黒き炎が吹き荒れ、味方の兵士ごと僕とセシルを焼こうする。


 敵兵士達は黒き炎に焼かれ絶叫する。


 僕は嫌な予感がして剣で斬らずに横へと飛んで躱した。


 セシルは剣で切り払おうとしたけど、黒い炎が剣に絡みつく。


 「セシル、剣を捨てて!!」


 僕の声で剣を放り投げるセシル。


 剣がドロドロに溶けていくと黒き炎は消えた。


 敵兵士達を焼いていた黒き炎も、敵兵士達を跡形も無く焼き尽くすと消えていく。


 「···気を付けて。···あれは、闇属性と火属性の上級複合魔法インフェルノ。···まとわりついた対象を焼き尽くすまで消えない黒き炎」


 チェルシーがラライドの放った魔法の正体を教えてくれる。


 だが、そんな事よりも味方の兵士ごと攻撃するなんて許せない。


 セシルも同じ気持ちらしくラライドを睨みながら予備の剣を抜く。


 「味方の兵士まで攻撃するとは正気か!?」


 セシルの叫びにラライドは鼻で笑う。


 「ふっ、味方? あの兵士達は、所詮は私達の実験体でしかないのですよ。しかし、困りましたね。あなた達は想像よりもかなり強い。私も本気を出すしかないようです」


 ラライドは懐からエボリュトを取り出して一気に飲み干す。


 ラライドの目は赤くなり、肌は赤黒く変色する。


 更に幾何学模様の魔法陣がラライドが立つ地面に浮かび上がり、ラライドの身体から黒いオーラが湧き出る。


 ラライドの身体は一回り大きくなるが、先程の敵兵士達の様に理性を失った瞳をしていない。


 「ぐふふっ。如何ですか、この力。素晴らしいでしょう?」


 ラライドから膨大な魔力を感じる。


 くっ、あまりの威圧感に冷や汗が止まらない。


 「さぁ、では死んでもらいましょう」


 空中に無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから黒き剣が出現する。


 「ダークネスブレイド」


 無数の黒き剣が僕とセシルに向かってくる。


 くっ、一本一本が重い。ダークネスブレイドは中級魔法の筈なのに威力が上級魔法並みにある。


 だけど、ステラとチェルシーが闇属性最上級防御魔法ダークネススフィアを放ち、無数の黒き剣を吸収していく。


 「ほう? 最上級魔法ですか。だが今の私なら最上級魔法も怖くはない!!」


 ラライドは杖を前へと出して魔力を溜めていく。


 「先程の比ではありませんよ。喰らいなさい、インフェルノ!!」


 ラライドの前に巨大な魔法陣が生まれ、そこから黒き炎が溢れ出る。


 黒き炎の奔流が僕達に向かってくる。


 「「ダークネススフィア!!」」


 再びステラとチェルシーがダークネススフィアを放つけど、黒き炎の奔流を吸収しきれない。


 「「アイギス!!」」


 ステラとチェルシーは更に光属性最上級防御魔法アイギスを展開し、黒き炎から僕達を守ってくれる。


 だが黒き炎はアイギスさえも焼かんとしている。


 上級複合魔法のインフェルノが最上級魔法に勝つ?


 エボリュトの真の力というやつはそれを可能にするのか。


 このままじゃ全滅する。


 「セシル、一か八か僕が道を切り開きます。その隙にラライドを討ってください!!」


 「···わかった!!」


 「ステラ、チェルシー。僕にレヴァンティンを重ねがけ出来ますか?」


 「···出来るけど、ルートヴィヒの身体が保たない」


 「そうよ、いくら適正のある聖属性のエンチャントでも限度があるわ!! 死ぬ気!?」


 「ステラ、チェルシー!! 分かっているでしょう? このままじゃ全滅です。勝つにはこれしかない」


 それでもステラとチェルシーはしぶる。


 「僕は死にません。必ず生き残ります。だから僕を信じて下さい!!」


 アイギスが黒き炎に飲み込まれようとしている。


 ステラとチェルシーは僕を見つめ頷く。


 「···わかった。···信じる」


 「お兄ちゃん、約束したからね。絶対に生き残ってね!!」


 ステラの言葉に頷き返す。


 ステラとチェルシーが杖に魔力を溜めていく。ステラとチェルシーも最上級魔法を連発して流石に魔力も限界の筈だ。これで決める。


 「「エンチャント、レヴァンティン!!」」


 三重にエンチャントされたレヴァンティンのせいで、身体中が軋む。


 正直きつい。この状態は十秒も保たせられそうにない。


 だが、十秒あれば充分だ。


 くらえ、渾身の一撃だ!!


 「光迅流六ノ型瞬光っ!!」


 白き光速の突きが黒き炎を割いて道を作る。


 その道を紫電を纏ったセシルが駆ける。


 「光迅流伍ノ型散迅華応用技、散迅雷華!!」


 紫電を纏った無数の斬撃がラライドの身体を切り裂く。


 「ぐはっ!? ば、馬鹿な!? エ、エボリュトの真の力は絶対の筈だ!! な、なのに何故!?」


 ラライドは取り乱しながら倒れていく。


 か、勝った。


 すぐさま光迅化を解除するけど、反動で身体中から血が吹き出る。


 「うぅっ!!」


「お兄ちゃん!? 大丈夫!?」


 片膝をつく僕にステラが回復魔法をかけてくれる。


 ステラのおかげで死なずに済んだけど、魔力を使い果たしたステラは気絶した。


 命に別状がないのを確認してステラを背負う。


 ステラを背負った状態で瀕死のラライドに近付く。


 「···ラライド。あなたがエボリュトを作った本人ですか? それに何故ステラを狙っていたのですか?」


 「···ふふっ、答えが知りたければオルファースト城へと向かうがいい。···そこに君が知りたい真実があ···る···」


 言い終わるとラライドの瞳から光が失せた。


 オルファースト城。連合軍盟主国オルファースト王国の王城。


 そこに行けばエボリュトの事もステラが狙われた理由もわかる? 


 思案しているとセシルに肩を小突かれる。


 「ルートヴィヒ、奴の言った事が気になるのはわかるが、先にこの戦いを終わらせるのが先だ。司令官であるラライドを討ったのだからこの戦いは終わる。そうだろう?」


 「···ええ、そうですね。失礼しました」


 ラライドの言った事は気になるけど、この戦いを終わらせるのが先だ。


 「敵司令官ラライド·セプシアン討ち取ったり!!ラライド·セプシアンは死んだ!!」


 ラライドの首を掲げセシルが大声で叫ぶ。


 それを聞いた敵兵達は次々と剣を落としていき戦うのを止める。


 あとはイルティミナ先生と傭兵王がどうなったか確認しなくては。


 イルティミナ先生と傭兵王が戦っていた場所に向かうと、いくつものクレーターができ、地割れを起こしている場所もある。


 イルティミナ先生の姿はすぐに見つかった。


 だけど傭兵王の姿は見つからない。


 「イルティミナ先生、傭兵王は?」


 「···ラライドが死んだという報せを聞いた瞬間に逃げたべさ」


 イルティミナ先生は悔しそうに顔を歪ませる。


 傭兵王には逃げられたか。逃げられたのは痛い。だが、マグナス傭兵団はほぼ壊滅状態だし、敵司令官のラライドは討てた。


 今はそれを良しとしよう。


 とりあえずは連合軍を無力化し、ミュルベルト王国を救う事が出来た。


 問題はこれからどうするかだ。

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