第十四話 VS連合軍⑧
――ミュルベルト王国将軍シュドメル·バウザー視点。
平原での連合軍との戦いは激戦の一途を辿っている。
連合軍の兵士は皆、狂戦士の様に好戦的で身体能力、魔力ともに一般の兵士とはかけ離れている。
それでもなんとか拮抗状態を保っていたが、ラライド·セプシアンが率いる一万の兵士と、傭兵王バーン·マグナスが率いるマグナス傭兵団が連合軍に合流してから我らは劣勢に立たせられている。
このままではまずい。幕僚達と話し合い、撤退して王都バルンヘイムで体勢を立て直して、籠城戦をする為にと撤退の準備をしようとしていた時に斥候に出ていた兵士が報せに来た。
「シュドメル将軍!! ヨルバウム帝国軍です!! ヨルバウム帝国軍が応援に来てくれました!!」
望遠鏡で確認すると確かに敵軍の後方にヨルバウム帝国軍の旗が見える。来てくれたか!!
ならば話は変わる。挟撃し、敵軍を壊滅させるチャンスだ。
「作戦変更!! 全軍突撃っ!!」
◆◆◆
――連合軍司令官ラライド視点。
ミュルベルト王国にもう少しで勝てるという所で後方からヨルバウム帝国軍が進軍して来た。
数は一万五千。ミュルベルト王国軍の兵はだいぶ減らしているが、未だ四万の兵が残っている。
現在我が連合軍は三万五千。
エボリュトで兵士達の能力は上がっているとはいえ、挟撃されたのは痛い。
私の予想では、ヨルバウム帝国はデラン砦の攻略にもう少し手こずる筈だった。
その間にミュルベルト王国を制圧して、迎え撃つつもりだったのに、この短時間で魔法無力化陣を解除するとは。やはり大賢者の仕業か?
···この戦いもはや勝ち目はない。
挟撃されている為、逃げるにはどちらかの軍を突破しなければならない。
ならばヨルバウム帝国軍を突破する道がこの状況での最良だ。
思案していると横に居るバーンが目を爛々とさせながら語りかけてくる。
「ラライドどうする? この戦いはもう勝てねぇだろう?」
「ええ。だからヨルバウム帝国軍を突破してオルファースト王国まで撤退します」
「おいおい、ヨルバウム帝国には大賢者もいるし、俺と打ち合える『光の剣聖』メルトも居るんだぜ。一か八かの賭けじゃねぇのか?」
「はい。ですが、それが今一番生き残れる可能性がある道です」
「はぁ、決死の撤退戦か。こりゃあ生き残れたら金の方をはずんで貰わないと割に合わねぇな」
「突破する事が出来たならば、希望通りの金額を払いましょう」
「じゃあ負け戦といきますか!!」
バーンは獰猛な笑みを浮かべ、ヨルバウム帝国軍を見据える。
とても負け戦をする顔には見えない。
全軍にヨルバウム帝国軍を突破して撤退する旨を伝え、全軍をヨルバウム帝国軍へと向ける。
「これよりヨルバウム帝国軍を突破する!! 皆の者、突撃っ!!」
決死の撤退戦が始まる。
◆◆◆
私達は連合軍へと追いつき、ミュルベルト王国軍と挟み込む事が出来た。
挟撃出来た時点で私達の勝利は濃厚になった。
連合軍に降伏勧告をしたが、連合軍は応じず、全軍を私達ヨルバウム帝国東軍に向けて進軍し始めた。
四万の兵士を抱えるミュルベルト王国軍と戦うよりも、兵力一万五千のヨルバウム帝国東軍と戦う道を選んだらしい。
ここが正念場だ。
私は連合軍に向けて火属性最上級魔法プロミネンスを発動する。
敵の魔術士達が幾重にも重ねた防御魔法をプロミネンスは破壊する。
プロミネンスの業火が敵兵士達を焼いていく。
イルティミナは空を飛んで傭兵王のもとへと向かって行った。
私やチェルシーは後方から魔法を放ち、敵軍を減らしながら前へと進む。
最前線で戦うルートヴィヒやセシル達を少しでも援護する為に。
待っててルートヴィヒ。すぐに追いつくからね。
◆◆◆
最前線は乱戦にもつれ込み、敵兵士と味方兵士が入り乱れている。
セシルと共に敵兵士を斬りながら前へと進んでいくと、イルティミナ先生がバーン·マグナスと激戦を繰り広げている。
加勢しようとしたけど、横から放たれた鋭い突きがそれを邪魔する。躱して後方へと下がる。
「団長の戦いの邪魔はさせないぜ」
鋭い突きを放った人物は、前に戦ったマグナス傭兵団副団長アレクセイ。
「悪いが少年にはおいちゃんの相手をしてもらうぜ」
槍を構えるアレクセイ。この人は強い。
セシルと二人がかりでも出し惜しみをしたら負ける。
「エンチャント、レヴァンティン!!」
「エンチャント、ライトニング!!」
セシルはライトニングをエンチャントして雷迅化し、僕はレヴァンティンをエンチャントして光迅化する。
「おいおい、二人がかりで来るのかい? これはしんどい戦いになりそうだ!!」
アレクセイはセシルに向かって槍の連突きを放ってくる。
セシルに攻撃している内に、背後に回り込み斬撃を放つけど、見事に防がれた。
やはり強い。レヴァンティンをエンチャントした僕と雷迅化したセシルを相手に互角に戦えるなんて。
「ルートヴィヒ息を合わせるぞ!!」
「わかりました!!」
セシルとのコンビネーション攻撃でしばし打ち合う。
だんだんと僕達に押され始めたアレクセイは、僕達から距離をとる。
「は〜、最近の若者はおじさん相手に容赦がないね。このままじゃおいちゃんが厳しいか。こんな薬に頼るのは不本意だけどしょうがない」
懐からエボリュトを取り出して飲み干す。
目は赤くなり、肌は赤黒く変色する。
「本当は若い少年達を殺すのは嫌なんだけど仕方ないよな?」
そう言いながら槍を八の字を描くように振り回す。
「神影無槍流奥義、八双螺旋突!!」
槍のしなりを利用した鋭い突きが放たれる。
「くっ!?」
避けたと思ったのに槍はぶれて僕の右肩を切り裂く。
セシルが近付こうとするけど予測不可能な槍の動きに翻弄されて近付けない。
アレクセイの攻撃は続く。八の字を描いて繰り出される鋭い突きは躱したと思っても僕やセシルの身体を切り裂いていく。
くっ、レヴァンティンは魔力の消耗が激しい。それにレヴァンティンでの光迅化は身体に負担がかかる。
それは雷迅化しているセシルも同じ。
限界が来る前に早く仕留めなければならない。
僕とセシルは後方へと飛び、アレクセイから距離をとる。
僕達は瞬歩を使いアレクセイの周囲を駆け回る。
まだだ。もっと速く。
スピードを上げていき、最高速度になった所で神速の突きを放つ。
「光迅流六ノ型瞬光!!」
アレクセイは僕の最速の突きに、八の字を描いていた槍で合わせる。
突きと突きがぶつかり合い拮抗するけど、セシルが紫電を迸らせながら横から渾身の突きを放つ。
「光迅流六ノ型瞬光応用技、瞬雷!!」
セシルの紫電を纏った突きはアレクセイの胸を穿つ。
「ごはっ!? ···ははっ、これは流石に死ぬなぁ。···見事だったよ、少年達」
アレクセイはニヤリと笑った後、前に倒れた。
···勝った。
光迅化が解ける。セシルも雷迅化が解け、お互い体中を切り傷だらけにしながらもなんとか勝った。
二人がかりじゃなかったら負けていたかもしれない。
ボロボロになりながらもイルティミナ先生のもとへ向かうと、イルティミナ先生と傭兵王の戦いは、周囲の地形を変える程に激しく近付けない。
イルティミナ先生が無詠唱で放った無数の光の槍を傭兵王は難なく双剣で捌く。
「ははっ、さすがは魔導女王。強い、強いなぁ!!」
笑いながら傭兵王は物凄いスピードでイルティミナ先生に近付き双剣を振るう。
その双撃を無詠唱で発動した光の盾で防ぐイルティミナ先生。
「お前こそさすがべさ傭兵王」
そう言いながら紅き熱線を傭兵王に放つ。
それを傭兵王は双剣を振るい切り裂く。
切り裂かれた熱線が大地を焼く。
凄過ぎる。この戦いは僕達が万全の状態で参戦したとしても足を引っ張る事しか出来ない。
傭兵王はイルティミナ先生に任せて、敵の司令官であるラライドをセシルと共に探しに行く。
敵兵士を切り伏せながら敵軍の奥へと進むと、ドーピング兵士達に守られた眼鏡の男性が近付いてくる。
「おやおや、ここまで敵兵士が入り込んでいるとは」
「あなたが連合軍司令官ラライド·セプシアンですね?」
「いかにも。私がラライドです。ここまで来た事は褒めてあげましょう。しかしそんなボロボロの状態でこの人数の兵士と戦えますかね?」
確かに僕とセシルは先程の戦いでボロボロだ。
だけどラライドを捕縛するか殺すかしないとこの戦いは終わらない。
ラライド達に向かって剣を構えていると、後方から頼もしい援軍が現れた。ステラとチェルシーだ。
「ルートヴィヒ、セシル!! 助けに来たよ!!」
ステラはすぐに僕達に回復魔法をかけてくれる。
そんなステラをラライドは驚いた顔で凝視している。
「···ふふっ、まさかこの様な場所に居るとは。これも運命ですかね」
ステラに向かって喋りかけているラライドだけど、ステラは何を言われているのかわからない顔をしている。
「まぁ、あなたを回収するのはこの場を切り抜けてからにしましょうか!!」
ラライドが立っている地面に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。
どうやらラライドは只の軍師ではないらしい。それにステラを狙っている?
···どうやら問いただす必要があるようだ。
負けられない戦いが始まる。
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