第十三話 VS連合軍⑦
朝がやってきた。
作戦決行の時間だ。
光迅流の中伝以上の剣士は僕やセシルを含めて十人。中伝者が六人で免許皆伝者が四人だ。
大盾でイルティミナ先生を守る兵士は三人。
大盾を軽々と持てる屈強な兵士達だ。
剣も予備の剣を一つ持ち、回復薬も持っておく。
準備は出来た。
戦場へと向かおうとすると、心配そうに見つめるステラが。
ステラに駆け寄り頭を撫でる。
「···一時間イルティミナを守りきってくれたら、後は私やイルティミナ、チェルシーでなんとかする。だから生きて帰ってね」
「うん。ステラ、大丈夫だよ。僕達は必ず生還するから」
ステラと約束して野営地を出る。
「セシル、お互いに生きて帰りましょう」
「ああ、必ず生きて帰るぞ!!」
セシルと軽く拳をぶつけ合う。
僕達は魔法無力化陣へと足を踏み入れた。
陣形は光迅流剣士達が扇形に広がり、真ん中を免許皆伝者が守る。
その後ろに大盾の兵士が大盾を構えてイルティミナ先生を守る。
一時間守りきったら僕らの勝ちだ。
魔法無力化陣にイルティミナ先生が触れる地点で構える。
イルティミナ先生が魔法陣に触れ、目を瞑り解除を開始する。
同時に敵砦から無数の砲弾が飛んでくる。
剣を構える。
扇陣形の真ん中を僕とメルト先生で守る。僕の左隣を免許皆伝者になったメルト先生の娘ナーゼさんが守り、メルト先生の右隣を道場でメルト先生の補佐を務めている免許皆伝者デーゼル師範が守る。
「光迅流伍ノ型散迅華!!」
飛んできた砲弾を細切れにする。
他の皆も砲弾を斬り伏せている。
後はこれを一時間繰り返すだけだ。
次々と飛んでくる砲弾に向けて剣を振りかぶる。
必ず生きて帰る!!
◆◆◆
――ある連合軍指揮官。
我らが司令官ラライド様の策でヨルバウム帝国軍に大きな被害を与える事が出来た。
あの巨大な魔法無力化陣はラライド様が他の魔術士達に手伝わせながら作ったものだ。
ラライド様は自分が魔法陣制作に長けている事を隠していた。
ここが勝負所だと隠していた切り札を出したのだ。
おかげで現在、我ら連合軍は有利に立っている。
ラライド様は一万の兵士とマグナス傭兵団を引き連れ、ミュルベルト王国と戦っている同胞達に合流する為にこの砦を離れた。
今、この砦の最高責任者は私である。
ラライド様の予想では敵軍は一度体勢を立て直す為に引き返す可能性が高いと仰っていた。
だが、低い可能性ではあるがそのまま攻め込んでくる可能性もあるらしい。
その場合はラライド様が事前に準備していた長距離射程の大砲で吹き飛ばせばいいだけの事。
私は砦の執務室で朝食を食べていた。
すると慌てた兵士が扉を開けて入ってくる。
「入る時はノックしろといつも言っているだろう?」
「す、すみません。ですが敵が魔法陣内に現れました」
「ほう? 敵は不利も分からない猿であったか。それで敵は全軍で攻めてきたのか?」
「そ、それが敵はたったの十四人です」
は? たったの十四人?
「て、敵は魔法陣の解除を試みているようです」
「ならば大砲を撃てばよかろう。たったの十四人程度なら数発撃てば無力化出来るだろう?」
「そ、それが敵は砲弾を斬っているんです」
は? 砲弾を斬る? 何を言っているのだこいつは?
「冗談を言ってる暇はないのではないか?」
「じょ、冗談ではありません!! 本当に敵は砲弾を斬るんです!!」
語気を強め真剣な表情で語りかけてくる兵士。冗談を言っている顔ではないな。
「···わかった。私も向かおう」
朝食を食べるのを止め、執務室を出た。
半信半疑で砦の大砲がある場所にやって来た私は信じられない光景を目の当たりにした。
超速で放たれた無数の砲弾を十人の剣士達が斬り伏せていたのだ
「ば、馬鹿な!? 魔法も無しで砲弾を斬るだと!?」
あまりの出来事に声を荒げてしまう。
「くっ。化け物共め!! だがあんな人外じみた技はずっとはできまい。あるだけの砲弾をあいつらに撃ちまくれ!!」
そうだ、あんな離れ技を維持できるわけがない。
砲弾を撃ちまくればいずれ疲れが出るはずだ。
···もうすぐ一時間が経過する。
なのに未だ敵は立っている。疲弊しているのは見てわかる。
それなのに砲弾を撃っても斬られるのは変わらない。
だが、疲弊はしている。もう少しだ。もう少しで倒せる。
そう思った時、魔法無力化陣が消えた。
はっ? 魔法無力化陣が消えた? あれを解除するのには一級の魔術士達数十人で数日はかかると聞いていた。
なのにもう解除したというのか!? 早過ぎる!!
ラライド様は言っていた。
「もしも魔法無力化陣が解除されたなら負けは確実です。その時は早急に退避しなさい」と。
た、退避しなくては。
そう思ったがすでに遅かった。
いくつもの巨大な光の大剣が砦に向かって落ちてくる。
ラライド様が砦に仕掛けてくれた防御魔法陣を展開するが、防御魔法は数秒で破られる。
ば、馬鹿な!? あの防御魔法陣は複合魔法でも破れない強度の筈なのに!?
それが私の最後の思考だった。
◆◆◆
ルートヴィヒ達がやってくれた。
一時間イルティミナを守りきったのだ。
魔法陣は消えた。
なら私とチェルシー、イルティミナの出番だ。
杖に魔力を溜めてレヴァンティンをイルティミナ、チェルシーと共に解き放つ。
敵の砦に巨大な防御魔法が展開されるけど、そんなもので私達の魔法は防げるものか!!
レヴァンティンは防御魔法陣を破り砦を崩壊させた。
あれでは敵兵士の生き残りはいないだろう。
ルートヴィヒはセシルと笑顔で拳を軽くぶつけ合っている。
そんなルートヴィヒ達に駆け寄り回復魔法をかける。
一時間も砲弾を斬っていたのだ。
怪我をしていない訳がない。
砲弾の破片で体中に切り傷がある人も居れば、腕を骨折している人も居た。
砲弾を斬り続けてこの程度で済んだのだ。正直信じられない。
怪我が治ったルートヴィヒが私に笑顔を向ける。
「ね? ちゃんと生きて戻っただろう?」
ルートヴィヒの言葉に私も笑顔になった。
私達は砦攻略に成功し、この一件で光迅流の名は更に広まる事になる。
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