第二十九話 大賢者の特訓
イルティミナの弟子になった私は放課後と休日の日曜日にイルティミナに魔法を教えてもらう事になった。
ルートヴィヒは道場の稽古もあるので、月曜、火曜、水曜日を道場の稽古に行く日にして、木曜、金曜、土曜、日曜日をイルティミナに魔法を教えてもらう事にしたみたい。
宮廷魔導師の仕事で忙しいマルタにこの事を話したらめちゃくちゃ羨ましがられた。マルタはイルティミナのファンらしい。
放課後になったら、イルティミナの名で魔法学院の演習場を一つ貸し切り状態で借りているので、チェルシーと共にその演習場へと向かうと、イルティミナが仁王立ちで待っていた。
「よく来たべさ。これから地獄の特訓が待ち受けているけど覚悟はいいべさ?」
特訓に来る度にこのセリフを言うのでスルーする。
まずは魔力を身体中に流す訓練をする。
今までは手にさえ魔力を流せばいいと思っていた。だけど身体中に魔力を馴染ませた方が魔法の発動スピードと威力が上がるらしい。
これを三十分程行ってイルティミナの授業が始まる。
私は既に上級魔法までを無詠唱で発動できるので、最上級魔法の一つを教えてもらっている。
それが火属性最上級魔法プロミネンスである。
最上級魔法は基本十小節の詠唱をしないといけない。
ただ詠唱すればいいものではなく、きちんと意味を理解しないといけないらしい。
けどそれが難しい。最上級魔法は普段使っている言葉と違う古代語という言葉で詠唱しないと発動しないらしい。
チェルシーが最上級魔法を短縮詠唱出来たのは古代語の詠唱文をしっかりと理解していたからみたい。
でもイルティミナが古代語をわかりやすく翻訳してくれるので少しずつだけど詠唱文を覚え始めた。
イルティミナは普段はアホだけど、魔法を教える時は別人かと思う程丁寧に教えてくれる。
イルティミナは全属性の最上級魔法を使えるらしく、私に全属性の最上級魔法を教えるつもりらしい。
プロミネンスを覚えるのに苦労しているのに、全属性を覚えるとかまだまだ先の話だ。
今日は二小節まで詠唱文を理解した。
特訓が終わり、寮へと帰ろうとしたら、イルティミナもついて来た。
寮に戻り、風呂で汗を流した後、夕食を食べたのだが、イルティミナも一緒に風呂に入り、夕食も共にした。
なんでも城の生活は堅苦しいらしく、魔法学院の学長にお願いして寮に住まわせてもらう事にしたらしい。
部屋はチェルシーと同室らしい。
私ならこんなアホの子と同室なんて嫌だけど、チェルシーは凄く嬉しそうだ。
◆◆◆
イルティミナ先生に魔法を教えてもらって二週間が経った。
僕は毎日は通っていないけど、それでも進歩しているのがわかる。
魔法の発動スピードや威力は上がったし、何より上級魔法までの短縮詠唱を使えるようになった。
このままなら上級魔法の無詠唱までできるかもしれない。
ステラは最上級魔法の詠唱文半分を理解したらしい。
僕はまだ無詠唱が出来ていないので、出来るまでは最上級魔法はお預けらしい。
早くレヴァンティンを覚えたい。
チェルシーとの戦いでレヴァンティンをエンチャントして光迅化した時の感覚が忘れられない。
あの身体中から力が漲るエンチャントを自分で出来れば僕は更に強くなれる。
◆◆◆
――イルティミナ視点。
ステラやルートヴィヒに魔法を教え始めてからニ週間が経った。
ステラは順調にプロミネンスの詠唱文を理解している。
この調子ならあと一ヶ月もあればプロミネンスを短縮詠唱出来るようになるかもしれない。
優秀と言ってもいいレベル。
ルートヴィヒは天才と言うしかない。
今まで剣の方に力を入れてきたのか短縮詠唱は出来ていなかった。
なのに少しコツを教えただけで短縮詠唱を使いこなすようになった。
無詠唱もすぐに使えるようになるだろう。
だが最上級魔法を教えるのは少し悩む。
最上級魔法は発動するのに膨大な魔力を必要とする。
ステラやチェルシーは桁外れな魔力量だから問題ないけど、ルートヴィヒは普通の魔術士より少し多めな魔力を持っているだけ。
レヴァンティンを発動したらほとんどの魔力をとられることになる。
最上級魔法を放てるのは一回だけ。しかも放ってしまったら他の魔法は使えない。
諸刃の剣になり得る。
···まぁ、本人に任せるしかないか。
だが、早めに二人には成長してもらいたい。
最近、中央大陸の他の国々が怪しい動きをしている。
その調査も兼ねてヨルバウム帝国へとやって来た。
皇帝があたしを食客として迎えたのもその対策としてだろう。
願う事なら何も無ければいいが。
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