第二十八話 弟子


 今回連行されたのは兵士の詰所じゃない。皇帝が住まう城だ。


 現在、私達は謁見の間で頭を抱えている皇帝と謁見している。


 「···B級ダンジョンがあった森が消滅したと聞いて誰が関与したのかと思えば、大賢者殿、あなただとは」


 「久しぶりべさ、グルンガル皇帝。元気にしてたべさ?」


 「あなたが森を消した事で胃が痛い。なぜ森を消したのだ? あの森は貴重な薬になる草花が生えていた森だったのだが」


 「···この娘が私が大賢者だと信じないから魔法でわからせてやろうとつい張り切ってしまったべさ」


 私を指差しながら気まずそうに答えるちみっ子。皇帝陛下も大賢者だと言ってるし、本物のイルティミナ·ホルスで間違いないようだ。しかしこれが大賢者? 信じられない。


 皇帝陛下は私に視線を向ける。


 「お主は確かステラと言ったな。ここ最近お主がしでかした事は聞いておる。冒険者ギルドの破壊未遂とB級ダンジョンの崩壊をまねいた事。あのB級ダンジョンは冒険者達を呼び込む王都シュライゼムの貴重な観光資源であった。わざとではないのは分かっているが、我が国に被害を与えたのは確かだ。そして今回の森の消滅にもお主が関わっているとなると、なんの罰も与えないという訳にはいかん」


 え〜、B級ダンジョンの件は確かに私が悪いけど、今回の森の消滅は完全にとばっちりじゃん!!


 「お主は世界魔法大会でも好成績を残した魔術士なのは知っているし、その若さでBランク冒険者なのも知っている。そこでだ。魔法学院卒業後は我がヨルバウム帝国の宮廷魔導師として仕えてもらう。これがお主に与える罰だ。よいな?」


 え? それが罰? 罰になってる?


 「それって罰になってますか?」


 「お主のような将来有望な人間の自由を奪うのだ。間違いなく罰であろう」


 なるほど。確かに将来を選べないのは罰かもしれない。魔法学院を卒業したら気ままに冒険者生活を送ろうかなとも考えていたし。スローライフ生活の未来を奪われたのは少し辛い。だが宮廷魔導師になるというのもエリート街道まっしぐらという感じで悪くない。


 「分かりました。その罰謹んでお受けします」


 「うむ。···そして大賢者殿。貴方にも森を消滅させた責任をとってもらいたい」


 大賢者イルティミナは凄く嫌そうな顔をする。


 「···嫌だけど仕方ないべさ。でも無理難題は断るべさよ」


 「安心してほしい。ただ二年の間我が国の食客として我が城に滞在してほしいだけだ」


 「二年間だけ? ならいいべさ。元々この国にはしばらく居るつもりだったべさ」


 「そうか。それでは森の消滅の件はなかった事とする」


 皇帝との話は終わり、私達は解放された。


 城から出て気になっていた事をイルティミナに聞く。


 「そういえばどうして私とルートヴィヒは呼ばれたの?」


 「ん? それはお前達の話をチェルシーから聴いて弟子にしたいと思ったからべさ。光栄に思うがいいべさ。この大賢者イルティミナの弟子になれるのだから!!」


 なんだそんな事か。なら返事は決まっている。


 「お断りするわ」


 「そうかそうか、喜んで弟子に···え? 断る? このあたしの弟子になる事を?」


 「ええ、あなたみたいな森を簡単に消滅させるやばい奴の弟子なんてお断りだわ」


 イルティミナは断られると思っていなかったのかあたふたと慌てている。


 「ま、待つべさ。チェルシーみたいな最上級魔法を使いたいとは思わないべさ? 私なら最上級魔法をお前達に教える事ができるべさ」


 最上級魔法か。確かに覚えたい。あの強力な魔法を覚える事が出来れば私のチートライフは更なる飛躍が望める。だがこいつの弟子というのが癪に障る。


 私が悩んでいるとルートヴィヒがイルティミナの目の前に出る。


 「僕はもっと強くなりたい。だから僕を貴方の弟子にして下さい」


 頭を下げるルートヴィヒにイルティミナは上機嫌になる。


 「妹と違ってルートヴィヒはあたしの弟子になる事の凄さがわかっているみたいべさね。わかったべさ。ルートヴィヒだけ弟子にするべさ。私と同じ全属性魔法を使えると聞いて期待してたけどしょうがないべさ。本人がなりたくないと言うんだから」


 ち、ちょっと。ルートヴィヒが最上級魔法を覚えちゃったら、実力差が更に広がるじゃない。それは嫌だ。これ以上離されたくない。


 「わ、わかったわよ。弟子になればいいんでしょ!! なるわよ、なればいいんでしょ!!」


 弟子になると言い出した私を見てニヤニヤと笑うイルティミナ。


 「あれ〜? おかしいべさ。さっきまで弟子にならないと言っていたのに。別にいいべさよ。無理に弟子にならなくても」


 くっ、こいつに頭を下げるのは嫌だ。···嫌だけど背に腹は代えられない。


 「···どうしても大賢者様の弟子になりたいです。弟子にして下さい!!」


 私は嫌嫌頭を下げた。


 そんな私を見て愉快そうに笑うイルティミナ。


 「あははっ、そんなにあたしの弟子になりたいべさ? しょうがないべさ。弟子にしてあげるべさよ」


 イルティミナは私の肩に手を乗せ、勝ち誇った笑みを向けてくる。


 くっ、今に見てろ。最上級魔法を覚えたらあんたの弟子なんてすぐに辞めてやるんだから!!


 こうしてルートヴィヒと私は大賢者イルティミナ·ホルスの弟子になった。

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