第二十話 タッグ戦準決勝
大会五日目が終了し、宿で食事をとっていると、ソフラ先生からドーピング事件の続報が告げられた。
「大会委員から聴いたんだけど、意識不明だったガゼット皇国のバズ選手が目を覚ましたらしいの。意識もあったから薬の入手経路を聴くと、フードと仮面を被った女に貰ったと証言したみたい」
「それ以外の情報は?」
「残念だけどそれだけみたいね」
フードと仮面被った女か。それだけじゃ何も分からない。
僕とステラには試合がある。そっちに集中しよう。
――翌日、大会六日目。
準決勝第一試合。ラダンさんとイレーヌさんのペアと僕達の試合だ。
控室の通路から舞台へと出ると、ラダンさん達も反対側の通路から出てきた。
ラダンさんと目が合う。
「よう、今日は勝たせてもらうぜ?」
「いいえ、今日も勝たせてもらいます」
ラダンさんと僕が闘争心剥き出しの中、隣ではにこやかに握手が交わされている。
「ステラちゃん、お互いに良い試合をしましょうね」
「うん、試合を楽しみましょうイレーヌさん」
四人が向かい合い構える。
『さぁ、やって参りました準決勝第一試合。ヨルバウム帝国シュライゼム魔法学院ルートヴィヒ選手&ステラ選手とマドランガ共和国魔法学院ラダン選手&イレーヌ選手の対決です。個人戦ではラダン選手はルートヴィヒ選手に負け、イレーヌ選手はステラ選手に負けていますが、ルートヴィヒ選手&ステラ選手はタッグ戦に苦戦しています。一方のラダン選手&イレーヌ選手は息の合った連携で順調に勝ち上がってきました。この試合面白くなりそうです!!』
審判が試合開始の合図を出した瞬間、ステラは僕に無詠唱でセイクリッドレイをエンチャントし、イレーヌさんは短縮詠唱で上級風属性魔法サイクロンをラダンさんの身体にエンチャントした。
ラダンさんの風を纏った拳と白いオーラを纏った僕の剣がぶつかり合う。
白き連撃をラダンさんは持ち前の反射神経でいなす。
僕達二人が拳と剣をぶつけ合っている最中、後方ではステラとイレーヌさんの魔法合戦が起きている。
「フレア!!」
イレーヌさんがフレアを短縮詠唱したなら、ステラはサイクロンでそれを打ち消す。
イレーヌさんは続け様にアイシクルレインを放つがステラはフレアレインで相殺させる。
魔法の戦いではやはりステラの方が優勢みたいだ。
それを見たラダンさんが標的をステラに変えるが、僕は追いかけずイレーヌさんの方へ向かう。
事前にステラに言われていた。もしラダンさんが私に標的を変えても私を信じてイレーヌさんを倒してと。
だから信じて速攻でイレーヌさんを倒す。
ラダンさんがステラのもとへ着く前に、瞬歩で駆けてイレーヌさんの背後をとる。
「ウォーターシールド!!」
「光迅流ニノ型激迅、応用技激光迅!!」
咄嗟に防御魔法を展開していたイレーヌさんだが、その防御魔法ごと切り伏せる。
イレーヌさんを気絶させてラダンさんに目をやると、ステラに拳を振りかぶる所だった。
だがその拳は届かない。
ステラは三回戦でレヴィン選手とサイツァー選手が見せたユニゾン魔法ストームウォールを複合魔法で再現してみせた。
ラダンさんの拳は弾かれ、身体は後方へと吹き飛ぶ。
今だ!! ステラが作ってくれた隙を見逃すものか!!
光の如く駆け、そのままの勢いでラダンさんの身体を光の剣で貫く。
「光迅流六ノ型瞬光!!」
「ぐはぁぁっ!!」
ラダンさんが崩れ落ち、完全に意識を失う。
それを見て審判が試合終了の合図を出した。
『試合終了〜!! 勝者ルートヴィヒ選手&ステラ選手!! いやぁ、激戦になるかと思いきやルートヴィヒ選手とステラ選手の完勝でしたねフェイさん』
『ええ、三回戦で対峙したレヴィン選手とサイツァー選手のユニゾン防御魔法を再現してみせたステラ選手はもちろん見事でしたが、ステラ選手を信じてイレーヌ選手を倒しに行ったルートヴィヒ選手との絆が勝利へと導いたと思います』
ラダンさん、イレーヌさんと握手を交わして舞台から降りる。
これで明日の決勝で戦える。
あとは相手が誰になるかだ。
ソフラ先生、セシル、クルト皇子、ウリス生徒会長が居る観客席へと行き、準決勝第二試合に目を向ける。
『さぁ、準決勝第二試合はミズホ国魔法学院二年生ナギ·ミヤモト選手&三年生ミスズ·セキカワ選手と、ヤーバル王国魔法学院一年生チェルシー·モルフェイド選手&三年生マリア·バシル選手の対決です!! ミズホ国はナギ選手が攻撃、ミスズ選手が補助。ヤーバル王国はチェルシー選手が攻撃、マリア選手が補助という似た形の戦い方です。はっきり言ってナギ選手とチェルシー選手の個の力に頼りきった戦いになると見ていいでしょう』
そうなのだ。今までの試合を見てもどちらのペアも連携がとれていない。ナギさんとチェルシー共に単独で動いていた。
この試合はナギさんとチェルシーの個と個のぶつかり合いになりそうだ。そうなると、勝者は···。
審判が試合の合図を出した瞬間、ナギさんが魔眼を開放し、剣にトルネードのエンチャントをかけながら疾走する。
だが遅い。チェルシーが
闇の沼に下半身が沈みナギさんとミスズ選手は見動きがとれなくなる。こうなれば魔眼で数秒先の未来が見えようが意味はない。慌ててミスズ選手が攻撃魔法を放とうとするけど手遅れだ。
チェルシーがナギさんにレヴァンティンを放つ。
光の大剣がナギさんを貫き、余波でミスズ選手も吹き飛んだ。
あっという間に試合は終了した。
『試合終了〜!! 勝者チェルシー選手&マリア選手!! 速攻で勝負が決まりました。フェイさんはどう見ましたか?』
『う〜ん、やはりタッグ戦の鍵である連携がとれていなかったのが敗因でしょうか。ナギ選手とチェルシー選手の個の戦いになるとダークネススワンプを放てるチェルシー選手の方が有利ですからね。しかし、チェルシー選手&マリアペアも連携はとれていません。このまま決勝を戦っても厳しい戦いが待っているのは間違いありません』
フェイさんの解説は厳しく聴こえるが、僕もそう思う。そのままでは僕とステラには勝てない。
準決勝第二試合が終わり、大会六日目が終了した。
残るは明日。タッグ戦決勝のみ。
◆◆◆
日が暮れて暗くなった頃、とある裏路地に四、五人の男が集まっている。
「ヒック、気に入らねぇ!! 俺達をボコボコにしたあいつが個人戦優勝して、タッグ戦も優勝するかもだと!?」
酒を片手に裏路地に置いてあるゴミ箱を蹴る酔っ払い。
「落ち着けよ、ヨーグ。気に入らねぇのはわかるが、だからといって闇雲に襲ってもまた返り討ちだ。次は容赦しないって言ってたし大人しくしとこうぜ」
興奮している酔っ払い――ヨーグを仲間が諌めるがヨーグの怒りは収まらない。
「うるせぇっ!! 日和ってんじゃねぇ!! どうにかして明日の決勝戦を台無しにするんだよ!!」
「どうにかするって···」
何の計画性もないヨーグに呆れる仲間達。
「力が欲しいですか?」
ヨーグ達の後方からいきなり声が。振り返るとフードを被って仮面を着けた女性が居た。
「な、なんだてめぇ!?」
気配は無かったのにいつの間にか後ろに居た仮面の女性を警戒するヨーグ達。
「私はあなた達に力を与える者。力を欲するなら与えましょう」
ヨーグの仲間達は警戒を解かないが、ヨーグは仮面の女性の言葉に惹かれる。
「その力であの気に入らねぇガキを倒せるのか?」
「ええ、あなたが望むなら」
ヨーグは仮面の女性にふらふらと近付く。
すっかり仮面の女性の言葉に魅了されていた。
その言葉が自身を破滅へともたらす道に誘っているとは知らずに。
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